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第13話 骸骨の真実

 採掘地点は、ちょうど恒星側で昼間だったが銀河標準時刻によれば今は深夜だ。

 明るい恒星の光を受けているのに銀河帝国は真夜中。


 十八年もこの世界で生きているがその大半はコロニーで過ごしたからあまり恒星系によって昼夜が違うことを意識したことはなかった。


 違う惑星に行くときは大抵レースの時で、終わったらだいたい寝たりレースの振り返りをしていたからこうまじまじと昼夜を意識するのは初めてのことだ。

 なんだか不思議な感じがする。


 明るさが補正されたモニターで恒星を見ていると、暑さなんて感じないはずなのになんだか額が汗ばむようだった。


『えへへ……採掘地点に到達。採掘シーケンス起動』


 採掘艇がトーマの乗ったアルトエーラの目の前で変形していく。

 惑星から直接採掘するためのエネルギーを恒星から受け取るための傘を広げ、採掘ポールが惑星地表に向かって降りていく。

 採掘方法はレーザーボーリング式で地面にレーザーポールを突き刺しポール内に回収する。

 

 採掘艇から伸びていくポール。

 大気圏外から惑星中心部付近まで伸ばして回収することになるため数時間ほどかかる。

 何事もなければただの待ち時間だ。


 シリウス号に通信は繋がらない。

 ヒェミィと二人っきり。


「ちょうどいいから聞きたいんだがいいか?」

『えへえへ、な、なんでさぁ旦那ぁ』

「ピーキ―な設定、あれフェイクだろ」


 サウンドオンリーの画面の向こう側で、ヒェミィの表情が凍り付いたことがわかった。

 返答は帰ってこない。

 だからトーマは勝手に続ける。


あの機体(スカルフェイス)だが、どう考えても最後の出力がおかしい。チューンしただけじゃああはならない」


 ウェアクローズのフレームは変えておらず、エネルギーコアも変わっていなかった。

 スカルフェイスはただ装甲と不要な武装を削っただけ。

 それだけならば追いつけるわけがないのだ。


 ウェアクローズは、エネルギーコアの出力が同じなら最高速度は変わらない。

 武装や装甲を削ってもそこが劇的に変わるわけはない。


「そこで軍時代を思い出したんだよ。整備士長が言っててな」


 曰く、スラスターの性能は、エネルギーコアから排出されるエネルギーをいかに効率よく速度に変換できるかで規定される。

 もっと根本的にウェアクローズの速度を上げるならエネルギーコアの出力自体を上げる必要がある。


「最終直線のスカルフェイスの速度は既存のコア出力では到底到達できないものだった」

『…………』


 だから、トーマは考えた。


「あの機体、コア二つ積んでるだろ」


 そう、あれはダブルコアという男の子の夢を載せているのではないかと。

 機体を確認したが、うまく隠されているのかエネルギーコアが二つ積んであるかはわからなかった。

 だからちょうどいい機会だと本人に聞いてみたのだが。


「ビンゴか?」


 通信ウィンドウが立ち上がり、ヒェミィの姿が映し出された。

 相変わらず素肌の上に白衣という破廉恥なスタイルであるが、そんなことより彼女の顔がトーマの目を引いた。


 全ての感情が削ぎ落された様は、スカルフェイスを彷彿とさせる。

 いや、あれよりももっとひどい。

 無――虚無だ。


『えへへ』


 それでいつも通りの笑いを声だけで言うのは不気味だった。

 顔も何も笑っていないのに、声だけが笑う様は幽霊でも見てしまったように感じさせる。

 どうやら地雷を踏んだようだが、確かめたい衝動に逆らえなかった。


『えへえへ……正解。スカルフェイスはダブルコア。理論上は二倍どころか二乗の出力を得られる』

「やっぱりか。たぶん短時間しか使えないんじゃないか? それか一気に使うと爆発するとか」


 ウェアレコーダーすら取り除いているくせして、一番取り外しそうな安全装置が残っていた理由。

 それがダブルコア。

 トーマはダブルコア理論など知らないが、前世のロボ物のあるあるなどを思い出して推測した。


『えへ……正解』

「道理で安全装置だけはきっちり残ってるわけだ」


 そうでなければ初っ端で吹っ飛んでいたということになる。


『ダブルコアは理論上可能なはずなのにどうしても同期が上手くいかない。エネルギーコアは製造段階でどんなに同じに製造してもエネルギーが固有周波数を持ってしまって同一のものは作れないからたぶんそのせい』


 えらく流ちょうに説明しだしたな、と思ったが興味深い話だから黙っておくことにした。


『でも理論上は同期できるはず。なのに同期させると異なるエネルギー周波数同士が反発しあって爆発する』


 ぼんとヒェミィが両手を閉じて広げた。

 コミカルな動作だが、無表情の女がやるだけで不気味に感じてしまう。


『えへへ……でも、ある一定の出力状態になるとわずかに安定して反発臨界までの時間を得られる。短時間ならダブルコアの最高出力を発揮させられる』

「だから、ピーキーな出力上昇曲線を設定したわけだ」

『えへ、計算、した。旦那の実力とスカルフェイスの性能から、ゴール直前の競り合いでダブルコアを発揮できるように』


 トーマはまだこのヒェミィという女がどれほど恐ろしい天才であるのかをはっきりと理解していなかったようだ。

 自分の実力とスカルフェイスの性能を正確に数値化して、レースという不確定要素しかない場で、正確なタイミングでダブルコアを発揮できるような出力設定をした?


 そんな奴をたった一言で示す言葉がある。


「化け物かよ」

『だ、旦那ほどじゃないですぜ、えへへへへ』


 トーマがヒェミィの設定を正確に把握して、そのようにスカルフェイスの出力調整をできた。

 それもまた化け物である、とヒェミィが細い人差し指を向ける。

 言われてしまうと確かにそうとしか言えないから何も言い返せない。


『そ、それで?』

「ん?」

『えへ、きゅ、糾弾する? 騙してた、し……』


 トーマは虚無の向こう側にこちらを伺うような視線を感じた。

 確かに誰もいない場所で、通信もできない。

 ここで採掘艇のエラーが起きたということでヒェミィを排除することだって可能。


 そこに気が付いて。


「いや、する必要ないな」


 ヒェミィのおかげで勝てたと言っても過言ではあるまい。

 気持ちよく走って勝てたのだからトーマは文句はない。


「いや、あるな。一言、謝罪はしてくれ」

『そ、それだけ……?』

「あとはこの宇宙で一番速く走れる機体を作ってくれよ。爆発とか危険なのなしでな」


 トーマがいくら言っても、誰も走るための機体なんて作ってくれるもの好きは、ユリアとヒェミィしかいないのだ。

 だったら、ここで処理なんてすることはない。


 ヒェミィがウィンドウの向こう側でぽかんとしている。


「ほら謝れ」

『えと、ご、ごめんなさい』

「次はないからな。文句があるなら、俺の命令をなんでも聞くとかでどうだ」

『…………』


 ヒェミィの表情が花が咲くようにふひゃんと緩んだ。

 ようやく普段通りのゆるゆるとしたヒェミィが戻ってきたように感じる。


『えへえへ、旦那ぁは優しいなぁ。いいですぜぇ、なんでも言うこと聞きますぜぇ、えへへ』

「そのうちな……しかし、あんたは思った以上に恐ろしいな」


 彼女の闇を垣間見てしまった。

 過去に何があったのか。

 それは定かではないが、何かできることがあれば良いのだがとトーマは思わずにはいられなかった。

 周りの人が困っていたりすると、気持ちよく走れない。


 そんなことを考えているとおずおずとヒェミィが顔をあげた。


『あ、あの』

「ん? なんだ?」

『あっしからも聞いていいですか? えへへ』

「良いぞ」

『どうしてサイボーグ手術しないんです?」

「そりゃあ、金がないからな」

『貯まってると思いますぜ』

「妹と弟の分で精いっぱいだよ」


 でも、とヒェミィは計算を突きつけてくる。


『計算ならサイボーグ化した方が稼げて良いのでは?』

「…………」

『えへ、お、怒らせたならすみません、えへ。わ、忘れて……』


 トーマの表情を見てマズイと思ったのか、指を合わせてもじもじしだす。

 今更遅いだろうとトーマは溜め息を吐いた。


「身体を切られたくないんだよ」


 大丈夫とわかっていても、前世で一度受けたトラウマは消えない。

 事故で足を切断しなければならなかった。

 もう二度と自分の身体を損なわせたくない。

 それがトーマがサイボーグ化していない理由で、アスリートになれない理由で、レースパイロットになった理由だ。


 もっともそこまでは言わずにぼかしたが。


『えへ、かわいいね』

「よーし、殴るぞ」

『ひ、ひえぇぇ、ごめんなさぃぃ……』


 採掘艇でもすこし揺らして脅してやろうとした時、けたたましいアラートが鳴り響いた。


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