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第12話 暇だから資源採掘へ

 トーマは軍にいた頃、思ったよりも戦闘をしないのだなと拍子抜けしたことがある。


 軍とは常に何かしら戦闘を行っているものという先入観があった。

 だが、いざ入隊し訓練期間を終えて正式配備されてみると実際に戦闘という戦闘を行ったのは多少緩く見積もっても十の指で足りる程度だった。

 では何をしていたのかというと大抵が訓練か待機だ。


 長い時間を船の中で待機するか、訓練スペースで訓練だ。

 といっても真面目に訓練をやっていたのはトーマくらいだったと記憶している。


 同期たちはだいたいがサイボーグでプログラムを選ぶだけで最適な行動をとることができた。

 いや、もっと言えばAIの発展でその時々に必要なプログラムを勝手に選んでくれるからそれを承認するだけで良い。

 サイボーグの同期たちはせっせと訓練なんてことをせずとも、涼しい顔で近接戦闘(CQC)を熟し、機械のように正確に射撃を行い、銃を分解整備する。


 訓練し身体に覚え込ませなければいけなかったのは生身であるトーマだけだった。

 そのおかげで暇を潰せたのは良かったが、おかげで同期の大半とは付き合いがない。

 連絡先を知っているのは、同じ艦に配属された数人くらいのものだ。


 なんでこんな話をしているのかというと、サザンカ・インダストリアルに就職しレースに勝利してから銀河標準時刻で約一か月、特に何をするでもなく暇しているからだ。


「暇だ」


 日課としての訓練は行っているが、それで一日の時間の全てが潰せるわけもない。

 新型機開発のテストパイロットとしてシリウス号に乗っているのだからテストパイロットをすればいいというわけでもなかった。


 まだ色々な検証を行っている段階で新型機は影も形もない。

 スカルフェイス以外のテスト機は出来上がってすらいないのでテストすることもないのだ。


「暇そうね」


 暇に飽かして無重力区画の格納庫でぷかぷかと浮いていたらユリアの顔が視界にいっぱいに広がる。

 無重力で無造作に広がって漂う髪は、まるで金糸の海を思わせた。

 最初の頃は見とれもしたものであるが、一か月も見ていれば見慣れもする。


「そういうあんたは?」

「忙しいわよ。処理しないといけない書類とか、色々あるからね」

「俺ができそうな仕事は?」

「あるわ」


 ぐっと両手足を使って姿勢制御。

 ユリアの前に真っすぐ立つ。


「どんな仕事だ?」

「今、わたしたちがいるのはレスルセン宙域だけど、そこでいくらかの資源を回収するからその護衛よ」

「了解した。だが、スカルフェイスで出ろとは言わないよな?」

「言わないわよ。旧型ウェアクローズだけど軍からの払い下げ品があるからそれに乗って」


 ユリアがホロウィンドウを手で押しやってくる。

 そこには古い機体画像が映し出されていた。


「アルトエーラか。百年現役だった機体だ。良いもの持ってるな」


 ウェアクローズの構造は数百年変わっていないが、内部システムやエネルギーコア、操縦系の変更などでアップデートされているため、時代によってバリエーションがあるのだ。

 前世でいうとスマホのモデルチェンジに近い。

 構造は変わっていないが内部のチップやカメラ、OSは進化していて高性能になっているのと似たような感じだ。


 ちなみにアルトエーラというのは現行機がでてから区別するためにつけられた名前である。

 ユニバーサル・フレームは、機体に名前を付けない。

 ただ己の主力商品としてウェアクローズで統一している。

 旧式になった時点で区別できるようにユニバーサル・フレーム社以外の連中で公然と呼ばれる名前を付けるのだ。


 あとはパイロットたちが己の相棒を他と区別するためにパーソナルネームとして名前を付ける文化がある。

 シントゥアンやカウヘッド、スカルフェイスがこれに該当する。


 とかくアルトエーラは良い機体ということ。

 ただユリアはどこか不満そうにウィンドウを操作している。


「本当は現行機が良かったんだけど、高いのよねぇ」

「これも高いと思うが?」

「ジャンク屋から安く仕入れたわ」


 百年使われたという信用性が途端に没落した。

 バンジージャンプをしようとしたその瞬間にゴムを外されたかのような気分だ。


「大丈夫なんだろうな」

「ヒェミィが整備したから大丈夫よ」

「余計なことしてないだろうな」


 そろそろ信用性が処刑されそうだと感じて半眼になってしまう。

 ヒェミィが凄腕と称するに値する技術者エンジニアであることに疑う余地はない。

 だが、彼女を信用するかどうかは別問題だった。


 何せ彼女が作ったものはあのスカルフェイスなのだ。

 削りに削った醜き美しい骸骨は、面白い機体ではあれど素晴らしい機体というわけではない。

 搭乗者から言わせてもらえれば欠陥機だ。


 それらを知っていながらユリアは問題ないと手を振った。


「してないしてない。気になるなら見に行ってみたら?」

「そうだな、とりあえず見に行ってみるか」

「それとすぐに出発だから、準備もよろしく」

「もっと前もって言ってくれよ」


 無重力の中を逃げ去りながらてへっと舌を出すユリアに嘆息しながら、アルトエーラのある格納庫へとトーマは向かった。


 アルトエーラという機体は例えるならカジュアルスーツだ。

 ウェアクローズの長い歴史の中でも突出した自由度を持つに至った機体である。

 あらゆる武装のモジュール統一化を行った当時の時代背景に合わせ、各部装甲とマニピュレーターにモジュール互換性を持たせるようにアップデートと拡張性を持たせたウェアクローズなのだ。


 内部システムや装甲、エネルギーコアのアップデートによってアルトエーラは現行機にとってかわられ旧型機となったが、今でも好んで使う民間の傭兵などは多い。

 場面によってモジュールを変更すればどのような事柄にも対応できることもありユニバーサル・フレーム社も未だにシステムアップデートサービスを継続しているくらいだ。

 もっともあと数年でアップデート終了する見込みとも軍や傭兵フォーラムでは言われているのだが。


 何よりトーマが気に入っているのはコックピットの快適性だ。

 長時間の搭乗にも耐えられるシート設計で快適性はナンバーワン。

 家のベッドよりもアルトエーラのシートの方が快適と住み込んだ者たちもいたほどだ。


 実際に座ったシートは古びてはいるもののその快適性は損なわれていない。

 ぱんと張りのある合成革のシートからは、熟成された香りがしている。

 どこか前世の田舎の祖母の家にあった革張りの古めかしいソファーを思い出させてリラックスできた。


「確かにこれは良いな……」


 座ってしまえば身体を包み込むような抱擁感が背中と尻を愛撫する。

 もうここを離れたくないと感じさせる様は愛おしさすら感じられた。


 古いが人をダメにするシートだ、これは。

 現行機にとってかわられたのはこのシートによって乗る者をダメにしたからなどという噂がまことしやかにささやかれているらしい。


「前のご主人様は、お前を何て呼んでたんだ?」


 シート脇にある削られたネームプレートを指でなぞる。

 こいつをジャンク屋に売り出したやつはこいつをどんな名で呼んでいたのだろうか。

 機体の過去を想像しながらシステムを走査する。


 問題はない。

 ハード面も出力面も一通り確認してみたが、正常数値だった。


『えへへ、ちゃんと整備しましたぜ、旦那ぁ』

「そうみたいで安心したよ」

『じゃ、じゃあ、護衛、よろしくお願いしますぜ、旦那ぁ』


 資源採掘の為に採掘艇を出すのだが、それを使うのはこのヒェミィである。

 こういう仕事にはまるで向いていないように見えるのだが、人手が足りないために駆り出されているようだ。


「よっぽどのことがない限りは何とかする」


 宇宙怪獣と宇宙海賊が同時に襲ってきたりなどしない限りは対応できるだろう。

 そう思いながら格納庫から宇宙へ出る。

 久しぶりにカタパルト出撃などしてみたかったのだが、残念なことに都市船シリウス号にはカタパルトはなかった。

 だから、普通に格納庫から宇宙へ出る。

 トーマの乗ったアルトエーラに続いてヒェミィの乗った採掘艇が出発した。


 レスルセン宙域の資源惑星の一つが目の前にある。

 巨大な岩石惑星で、大気圏外からでも採掘跡の穴がぼこぼこと見えていた。

 

「もうだいぶ掘られてるな」

『えへ、採掘座標は、ここ』


 まだ掘られていない箇所が示される。

 ちょうどシリウスのいる位置から惑星の反対側だ。

 座標を確認するとユリアからのコール。


『二人とも反対側に入ると、しばらくシリウスとの通信はできなくなるから気をつけなさい』

「了解した。そっちも気をつけろよ」

『ええ、わかってるわ』


 座標に向けて採掘艇に掴まって移動を開始。

 採掘開始は数十分後になる。

 久しぶりのオート操縦を堪能すべくトーマは頭の後ろで腕を組んだ。


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