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悪徳の罪人  作者: 森 神奈
悪徳の罪人if

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第1話「理想のはじまり」

春。


大学の小さな講義室。


古い木の机。


擦り切れた床。


午後の光が斜めに差し込む。


講義のテーマは「公共倫理」。


教授が問いかける。


「制度は、誰のためにあるのか」


沈黙の中、手が挙がる。


主人公だった。


「守るためにあるはずなのに、守っていないことが多い」


少し間を置いて、別の手が挙がる。


友人。


「守れていないなら、変えるべきです」


視線が交わる。


初対面。


だが、同じ熱を持っているとわかる。




講義後。


廊下。


自動販売機の前。


「さっきの、良かった」


主人公が言う。


友人が笑う。


「そっちこそ」


共通点は一つ。


「この社会はおかしい」


それだけで十分だった。




夜。


学生寮の部屋。


コンビニのコーヒー。


机の上に広げられたノート。


タイトルを書いたのは、どちらだったか。


“社会改革計画書”


大げさだと笑いながら、


二人は本気だった。


ページには走り書き。


・内部監査の独立化


・告発者保護の法制化


・情報公開の義務強化


・教育現場での倫理必修化


理想は、遠慮なく大きい。


主人公はペンを走らせながら言う。


「壊さないと変わらない」


机を軽く叩く。


怒りではない。


焦りだ。


理不尽を見過ごせない性格。


友人は笑う。


「変えればいい」


「壊すより、作ったほうが早いかもよ?」


軽く言う。


だが目は真剣だ。




意見は違う。


方法は違う。


それでも向いている方向は同じ。


腐敗を減らしたい。


理不尽を止めたい。


守られない人を減らしたい。


夜は深まる。


時計は二時を過ぎる。


それでも言葉は尽きない。


理想は、重ならない部分さえ楽しい。


衝突は、まだ議論の範囲。


感情は、まだ希望の色をしている。




窓の外。


街の灯り。


二人は知らない。


このノートが、


未来で分岐点になることを。


この言葉が、


炎にも、光にもなることを。


だが今は。


まだ、同じ方向を向いている。


同じ机。


同じ夢。


同じ若さ。




主人公がふと呟く。


「本気でやる?」


友人は即答する。


「本気で」


笑う。


拳を軽くぶつける。


小さな音。


それは誓いではない。


ただの勢い。


だが確かに始まりだった。

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