第2話「初めての告発」
きっかけは、些細な違和感だった。
大学の研究費。
報告書の数字が合わない。
備品の購入履歴と、実物の数。
曖昧な説明。
「気のせいかもしれない」
友人は言った。
主人公は首を振る。
「確認しよう」
図書館の隅。
パソコンの画面。
公開資料の照合。
議事録の読み込み。
教授への聞き取り。
証拠は、ゆっくりと揃っていく。
不透明な資金流用。
小規模。
だが確実。
二人は迷った末、内部監査へ提出する。
匿名ではない。
実名で。
逃げないと決めた。
数ヶ月後。
大学は発表する。
「管理体制の見直し」
「関係者への厳重注意」
「再発防止策の導入」
ニュースにはならない。
学内掲示板に短い告知。
それだけ。
友人はほっと息をつく。
「動いた」
確かに。
仕組みは改善された。
報告ルートは明確になり、
予算管理は厳格化された。
小さい。
だが前進。
主人公は黙って掲示を見つめる。
「処罰が軽すぎる」
声は低い。
「不正をして、注意だけ?」
「甘いだろ」
怒りではない。
だが、納得もしていない。
彼にとって、
正しさは“結果”まで含むものだった。
間違えたなら、相応の責任。
それが抑止になる。
そう信じている。
友人は静かに言う。
「制度は遅い。でも動いた」
「処罰だけが目的じゃない」
「再発しないことのほうが大事だ」
主人公は笑わない。
「甘さが、また同じことを生む」
友人は返す。
「厳しさが、隠蔽を生むこともある」
沈黙。
視線が交わる。
まだ、対立ではない。
だが、何かがずれた。
夜。
あのノートを開く。
“社会改革計画書”
同じ文字。
同じ理想。
だが、行間に差が生まれている。
主人公は「速度」を求める。
友人は「持続」を見る。
同じ山を目指している。
だが、登る道が違い始める。
主人公がぽつりと呟く。
「もっと強くやらないと」
友人は答える。
「もっと長く続けないと」
その違いは小さい。
まだ修正できる程度の誤差。
けれど。
価値観の“速度”は、確実に分かれ始めていた。




