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悪徳の罪人  作者: 森 神奈
悪徳の罪人hell

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22/27

第5話「Hell」


世界同時配信。


カウントダウン。


数千万の視聴者。


政府も、企業も、メディアも、


全てが待機する。


仮面が映る。


若きジャッジメント。


沈黙。


そして、口を開く。




「私は裁かない」


ざわめき。


想定外。


処刑宣言でも、制裁強化でもない。


「暴露はする」


「だが、断罪はしない」


画面が切り替わる。


膨大なデータ。


契約書。


資金移動。


内部メール。


改ざん履歴。


すべて、暗号化解除済み。


「データは全公開する」


「判断は市民に委ねる」


世界が息を呑む。




「私は神にならない」


「支配しない」


三十年前、超えてしまった一線。


選ばれなかった道。


それを、彼は選ばない。


過激派のチャットは混乱する。


《なぜ罰しない?》


《弱い》


《逃げだ》


だが同時に、別の声が上がる。


《これは民主だ》


《判断は私たちの責任だ》


《逃げ場がない》


裁きの主語が変わる。


“彼”から、“私たち”へ。




その瞬間。


映像が一瞬だけ乱れる。


ノイズ。


赤い揺らぎ。


炎。


誰も気づかないほど、短い。


だが確かに映る。




地獄。


果てのない炎。


鎖をつけたまま立つ男。


かつて命を奪い、


自らを裁いた者。


彼は、微笑む。


嘲りではない。


安堵でもない。


ただ、選択を見届ける笑み。


「選べ」


声は小さい。


だが、響く。




玉座の奥。


巨大な影。


**閻魔大王**は静かに目を閉じる。


裁きは下されない。


今日は。


地上が、自ら決めたからだ。


炎は荒れない。


鎖も鳴らない。


ただ、見守る。




地上。


配信は終わる。


混乱。


議論。


告発対象の企業は記者会見を開く。


市民団体が動く。


検察が動く。


株主が動く。


遅い。


だが、多数の手が関わる。


責任は分散しない。


共有される。




老いた友人は、静かに頷く。


「……それでいい」


完璧ではない。


腐敗はまた生まれる。


だが。


裁きが一人に集中しない世界。


怒りが神を生まない世界。


それは、三十年前より、確かに進んでいる。




夜。


空は静かだ。


炎ではなく、星が瞬く。


地獄は閉じない。


だが、開きもしない。


最後の言葉。


地獄は、選択のない世界だ。


だが人間には、まだ選択がある。





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