第4話「選ばれなかった道」
支持率は急上昇していた。
若きジャッジメントの配信は、
世界規模で視聴される。
AI監査網は次々と不正を暴き、
政府も企業も否応なく対応を迫られる。
「効いている」
それは誰の目にも明らかだった。
だが。
熱は純粋ではない。
コメント欄の奥底。
匿名掲示板。
暗号化チャット。
《なぜ生かしておく?》
《暴露だけでは甘い》
《処刑しろ》
三十年前と同じ言葉。
同じ速度。
同じ匂い。
炎は、燃え広がりたがる。
若者は画面を閉じる。
拳がわずかに震える。
「私は殺さない」
そう宣言したはずだ。
だが、支持の一部はそれを“不足”と感じている。
より強い制裁。
より直接的な恐怖。
求める声は、確実に増えていた。
老いた友人は動く。
警備も、取材も断り、
ただ一人で会いに行く。
小さな会議室。
向かい合う二人。
若さと老い。
過去と現在。
沈黙が重い。
先に口を開いたのは友人だった。
「壊すな。残せ」
短い言葉。
だが三十年分の重みがある。
制度は遅い。
歪む。
腐る。
それでも、壊せばゼロに戻る。
若者はまっすぐ見返す。
「あなたは残しました」
「でも、また歪んだ」
「守られたはずの家族は、また不正に直面した」
静かな声。
怒鳴らない。
だが、鋭い。
「壊さずに守れますか?」
問いは刃のようだった。
友人は、答えられない。
三十年前、自分も同じ問いを抱えた。
壊すか。
残すか。
急ぐか。
待つか。
沈黙。
時計の針の音だけが響く。
若者は続ける。
「私は選ばなかった道を歩いている」
「殺さない。破壊しない」
「でも、止める」
「それでも足りないなら——」
言葉が途切れる。
処刑を求める声。
暴力の再来。
支持が変質する瞬間。
その未来は、もう見えている。
友人はようやく言う。
「守るのは、制度じゃない」
若者が目を細める。
「人だ」
「制度は器だ。中身が腐れば意味がない」
「だから、壊すよりも、手を入れ続けるしかない」
「遅くても」
声は弱い。
だが、逃げていない。
若者は視線を落とす。
AI監査網のログ。
暴露予定の案件。
そして、過激派が送ってきた暗号メッセージ。
“次は見せしめを”
三十年前の道。
選ばれなかったはずの道。
それが、今、足元に伸びている。
沈黙。
重い。
どちらも正しく、どちらも不完全。
壊せば早い。
残せば遅い。
だが。
選ばなかった道は、いつも隣にある。
若者は小さく呟く。
「……まだ、選んでいません」
それは希望か。
猶予か。
地獄は、静かに見ている。




