第3話「鬼を裁く」
炎が最も高く燃える刻。
亡者と鬼が集められる“公開の場”。
処罰の見せしめが行われる広間。
その中央に、鎖に繋がれたまま
神埼 湊は立っていた。
ざわめきが広がる。
「何をする気だ」
「また反逆か」
鬼の一体が前に出る。
「罪人が口を開くな」
だが湊は、静かに言う。
「公開する」
その一言で、空気が変わる。
順に暴いていく。
時間の記録。
罰の強度の差異。
祈りの横流し。
供物の受け渡し。
そして――
賄賂を受け取った鬼の名。
優遇されていた亡者の名。
炎が揺れる。
亡者たちがざわめく。
「俺は三百年焼かれている!」
「なぜあいつは軽い!」
優遇されていた元政治家が叫ぶ。
「違う!私は正当に裁かれている!」
その声は、もはや弱い。
鬼が激昂する。
「黙れ罪人!」
棍棒が振り上げられる。
だが――
今度は違う。
鎖が鳴る。
一人。
また一人。
亡者たちが、自らの鎖を引く。
鬼の足に絡ませる。
肩に絡ませる。
押さえ込む。
叫びではなく、意志で。
鬼が初めて、膝をつく。
炎の中で、湊は言う。
「平等じゃない」
静かに。
だが、はっきりと。
「責任だ」
ざわめきが止まる。
「力を持つ者ほど、重い責任を負う」
「それが崩れた時、腐敗が生まれる」
鬼は怒鳴る。
「我らは裁く側だ!」
湊は見下ろす。
「裁く側に、責任がないと誰が決めた」
沈黙。
亡者たちの鎖がさらに締まる。
鬼は、初めて罰を受ける。
炎がその身を包む。
叫び声が響く。
それは亡者のものではない。
地獄で初めて、
“裁く側”が裁かれた。
遠く。
巨大な玉座。
炎越しに見つめる存在。
閻魔大王
配下の鬼が動揺する。
「ご命令を!」
だが閻魔は何も言わない。
ただ、目を細める。
「……責任、か」
止めない。
まだ、試している。
広間。
鬼が倒れ、亡者たちが息を荒くする。
湊は鎖を引きずったまま立っている。
勝利ではない。
革命でもない。
ただ、一つの前例。
「裁きは上から落ちるものじゃない」
彼は言う。
「責任を負える者だけが、裁ける」
炎が低く唸る。
地獄の階層が、わずかに揺らぐ。
秩序は壊れていない。
だが、変わり始めている。




