第4話「選別」
鬼を裁いた日から、地獄はわずかに変わった。
罰の配分は見直され、
鬼たちは露骨な優遇を控え始める。
亡者たちの間に、秩序が芽生える。
だが——
別の熱が生まれていた。
「次はあいつだ」
「あの亡者は地上で俺を裏切った」
「裁く権利は俺にある」
復讐の声。
怒りの連鎖。
正義の名を借りた私怨。
湊はそれを見て、理解する。
「……同じだ」
地上と。
ジャッジメントが喝采を浴び、
やがて承認欲求と怒りが混ざったあの構図。
ここでも繰り返される。
構造は変わらない。
炎の広間。
亡者と鬼が集められる。
湊は中央に立つ。
鎖はまだ外れていない。
「宣言する」
ざわめきが止まる。
「裁きは公開する。感情は排除する」
怒号が飛ぶ。
「感情を奪うのか!」
「俺たちは苦しんだんだ!」
湊は否定しない。
「苦しみは消えない」
静かに。
「だが、裁きに混ぜるな」
視線が鋭くなる。
「それは復讐になる」
沈黙が落ちる。
「最初に裁くのは——」
一拍。
「俺だ」
どよめき。
鬼すら動きを止める。
湊は自ら前に出る。
炎の中央へ。
「私は命を奪った」
言葉は明瞭。
「直接手を下さなくても、追い詰めた」
炎が揺れる。
「私は恐怖を煽った」
喝采を利用した。
世論を武器にした。
「私は壊した」
制度も。
人も。
信頼も。
一つ一つ、読み上げる。
言い訳はしない。
正当化もしない。
ただ事実だけを並べる。
亡者たちは静まり返る。
誰も声を上げない。
彼の罪は、ここにいる多くより重い。
だが逃げない。
「俺は正義を名乗らなかった」
湊は続ける。
「だが、正義の形を利用した」
炎がわずかに強まる。
その熱を、受け入れる。
「裁かれる側に立つ覚悟がない者は、裁く側に立つな」
広間に響く。
それは宣言であり、戒め。
遠くから見つめる影。
閻魔大王
その目が細められる。
「己を先に断つか……」
止めない。
まだ。
湊は両腕を広げる。
「異論があるなら、ここで言え」
誰も動かない。
復讐に燃えていた亡者も、目を伏せる。
怒りはある。
だが、責任の重さを見た。
「裁きは選別だ」
湊は言う。
「罪の選別ではない」
「自分が裁くに値するかの選別だ」
炎が低く唸る。
地獄に、新しい基準が刻まれる。




