48:微睡み見る夢を彼女はきっと現実にする
ふわわっとしていますが最終話です。
甘やかな休日を終えて数日、見舞いに行かないヒルデガルドをリリは冷めた目で見るものの、商会で任された仕事が終わってないのだと屁理屈を言いながら放課後の時間を過ごす。
先にモーリスにもその旨は伝えていたし、と暢気に構えて居たが手紙が届きヒルデガルドは背筋を正した。
恐る恐る開けば、治療の経過と本当にあれから毎日セシルがモーリスの見舞いに来ている旨が記されていた。
『面白い魔導書を持ってきてくれるのは嬉しいし、素直にありがたいよ。
でもセシーが居るとキミが来てくれてもいちゃいちゃしてくれないんじゃないかと思うと腹立たしくなる。
狙ってやってると思うんだけど、キミはどう思う?』
(どう思うも何も、己惚れてると言われようが、セシルの狙いはそうだと思う)
ヒルデガルドは呆れた眼で文面を見下ろし、溜息を吐いた。
傍から見ればセシルのまめまめしさの方が余程恋人のそれである。
リリの冷めた目も仕方ない。
しかもセルゲイが耳にしたところでは、「忙しいヒルデガルドに構ってもらえないセシルたんがモーリスんところに愚痴を零しに行っている」とまで親衛隊に言われているらしい。
誠に遺憾である。
これでヒルデガルドがモーリスの見舞いにでも行けば、「セシルたんっデイビア先輩と一緒で良かったね!」となるのであろう。
全く以て恐ろしいヤツだ、セシル・レミック。
『先日ヒルデガルドに打診した件については既に書簡を送ったよ。
手間をかけるけど、キミからも手紙を送っておいてくれると助かる。』
休日の内に今後の、婚約についても話をした。
モーリスの怪我が治って動けるようになったら二人でデイビア家に行き、意思を伝える事。
婚約式を王都で執り行い、一年の婚約期間を経て結婚する事。
そして、ヒルデガルドが王宮魔術師を志す事。
『あと、実働隊の試験に関しては特例で年始に実施する許可をもらった。』
モーリスも王宮魔導師の試験を受ける。
どうやら魔導祭で、あの開発部長補佐が彼にもしっかり書類を受け取らせていたようだ。
『騎士団の提案も魅力的だったんだけどね。
ヒルデガルドのやりたい事聞いたら、そりゃもう、僕は実働隊一択だよね。』
あの嬉しそうなモーリスの顔がヒルデガルドの脳裏に蘇る。
夕景を背負い、幸せそうに表情を緩める姿は今も猶、胸をぽかぽかと温かくしてくれた。
『今思うとあの騎士団の提案、ヒルデガルドが考えたとかじゃない?思い違いかな?
それだったら嬉しいのになと思うくらいに、会いたくて寂しいです。』
流石鋭い。
しかし彼の琴線に触れる提案が出来ていたのは素直に嬉しく思う。
来年は、一緒にその研究も出来たらずっと楽しいだろう。
柘榴色の髪を耳に掛けながら、ヒルデガルドはゆるりと口元を解く。
『なのでやっぱり卒業後は侯爵邸に住んでください。』
(まだ言うか)
卒業時には婚約を済ませているので、花嫁修業として嫁入り先に住むのは世間的にも問題無い。
だが如何せん爵位差がある。
絶対気疲れしてしまうのが目に見えた。
ただでさえ環境が変わるのだからと、ヒルデガルドはモーリスの提案を断っている。
どちらにせよ結婚の準備やそれこそ花嫁修業で侯爵家には度々赴くのだ。
「いやーでも実際、暫く滞在する機会は設けて慣れた方が良いよ」
と、親友の言である。
セルゲイもリリもそれを見越して年明けからは休日前を使って、リリの実家で過ごす予定だそうだ。
堅実な二人の姿勢に衝撃を受け、そして年明けから休日にリリが不在である事を悟ったヒルデガルドは寂しさに打ちひしがれた。
「デートすりゃいいじゃん」
「そっか、それこそ勉強をするべきか」
「ぶれないわー」
モーリスと時間を過ごさないとは言わないが、そればかりに時間を割くとも言わないヒルデガルドに、相変わらずだとリリは笑いながらベッドに腰掛ける。
「でも、んふふ」
「なぁに」
「いやぁ、やっぱりヒルディを突き動かせるのはモーリスだけなんだなって」
「…」
リリにも王宮魔導師を目指す事は話してある。
そこで、ヒルデガルドが実働隊の障壁魔導具の性能向上に力を注ぎ、研究したい事も。
自分の知らないところで、自分の手の届くところで、もう彼に怪我をして欲しくない。
そう願った気持ちがヒルデガルドの進む道を照らした。
決まったのなら早い、それが彼女だ。
「人の為に、を掲げるのは嫌いなのに」
「『好敵手』って時点でもう、それ曲げてる事、いい加減認めなさいよ」
ぱちりと眼を瞬かせた後、むぅと口を曲げる。
そんな親友を楽しそうにリリが見上げていた。
才能溢れるこの自分に相応しいと思った。
――尊敬出来るかもしれない人だと心が躍った。
何度負けたって、認めさせようとした。
――その眼に映りたかった。
相応しくあろうと誇りを保つよう心掛けた。
――貴方の隣で謗られないように。
身を軽んじるのを勝手に怒り、余計な世話を焼いた。
――心配なのだと、素直に言える仲ではなくて。
『好敵手』だと何度も相手に告げては周囲に、自分に言い聞かす。
――私は、この人の為に、己を奮い立たせている。
「私からしたら、ヒルディだってそこそこなポンコツよ」
「ぽ、ポンコツ…」
「ポンコツ同士でお似合いじゃない」
「ふー…ご心配を?お掛けしました?」
「いーえ」
この話、今度モーリスにも話してやろう。
ベッドに身を沈めて、ヒルデガルドはそんな事を考えた。
彼はどんな顔をするのだろうか。
自覚が無かったけれど、私、貴方に一目惚れだったみたいよ、と。
きっとまた、両手で顔を覆って知能を低下させポンコツになってくれる事だろう。
緩む口元を肌触りのいい毛布で覆っては、幸せな温もりに包まれて眠る。
早く、会いに行きたいなと願いながら落ちた眠りは、それはそれは幸せな夢を見せてくれた。
拙文にも関わらず、最後までお目通しとお付き合いありがとうございました。




