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37:善戦に続く善戦


「ぶっちゃけ、俺とモーリスの相性は悪くないと思ってる」


ヒルデガルドなりの見解を述べた後、自称愛の戦士はそう宣った。

リリは白々しい目をしていたが長く多くセルゲイの戦い方や癖を見ているヒルデガルドは、その言葉を否定しなかったが肯定もせず、苦笑を零すだけに留めた。


いよいよ第三試合、最後の対戦である。


「セルーーー!!!気張っていけーー!秒殺は許さーん!!」

「かっこいいところ見せてセル―!」


二人の声援に舞台上のセルゲイがひらりと片手を上げて応える。

あちこちから降り注いでいるだろうモーリスを応援する黄色い大歓声の中で良く聞こえたな、と驚きつつ二人もセルゲイへと大手を振って返した。

出場者用観戦席の最前列で息巻いて応援しているのは先程フッ飛ばされた亜麻色髪の後輩だ。

元気そうで良かったし、フッ飛ばされてもへこたれない精神は嫌いじゃない。


立ち位置の関係からかモーリスの表情はヒルデガルド達に見えないが、セルゲイが何か話し掛けている様子は分かった。


「『秒殺は勘弁してくれ、どうか慈悲を』?」

「『魔王に挑む勇者よ俺を倒していけ』?」


読唇術が出来る訳もないリリと一緒に勝手にセルゲイの台詞を捏造している間に火蓋が切って落とされた。


初手、攻めたのは意外にもモーリスだ。

指名対戦で見せたあの一陣をセルゲイへ向かって放つ。

足取り軽く避けたセルゲイは作動させていた魔導具から、モーリスの斬撃よりも強めの一閃を二本、一点で交わるように放った。


(下がるか進むか、どう出るモーリス)


セルゲイの魔導がぶつかる一点はそれこそ開始から立ち位置を変えていないモーリスだ。

開始直後は広い舞台上とは言え、そこそこ互いの距離が近いため速度は反射神経と判断力がものを言う。


モーリスは左右から差し迫る風の魔導に気付くと迷うことなく前に出てセルゲイを追う。

両手で剣を握り、また一陣を振り抜く。

しかし直線であるからか軌道を読まれやすく、セルゲイは最小限の動きを取って障壁で弾いた。


(浮遊を使ってあそこまで速度が出るのは学年でもセルくらいだものなー)


浮遊魔導は縦方向だけに浮くものではない。

地面と水平に、推進力として使う事の方が楽しいとセルゲイが気付いたのは随分早かった。

勿論ヒルデガルドも魔導としては使いこなすが、ちょっと鈍くさいので減速処理が必要なのだ。


「セルって紋あんま使わないよね」

「あー…それは、そう…私のせいかもしれない」


魔導を覚えたての頃からセルゲイを的に見立てて遊んでいたため、彼は立派な回避特化に育った。

ヒルデガルドと打ち合おうとは考えない。まずは身の安全が第一である。

魔力量としては十分なのだが、避けに浮遊魔導を補助で使うだけで大量に使用してしまう点もあるだろう。

まぁその弱点を分かっているからこそ彼は体力もあるし、何より身体能力が高い。


今も推進力をものともせず片足一本で体勢を立て直しそのまま飛躍と同時にまた一閃。

代り映えの無い攻撃だが、いかんせんちょろまかと機動力が高すぎるのだセルゲイは。


モーリスの一閃も早いが魔導具よりも動作を必要とし溜めが出来る。

彼の障壁が振り返り様の攻撃を受け流し輝く。


「あ」

「うん?」


ヒルデガルドが眼を眇める様子にリリが小首を傾げる。

舞台では意外にも攻めに転じ、一閃を放ちながらセルゲイが前へ後ろへとモーリスを翻弄していた。

合間でモーリスが指先で紋を打ち抜くもやはり近距離攻撃として生きる筈の剣を振り抜くのを躊躇っているのであろう、後手に回ってしまっているように見えた。


「離れて!!!!セルッ!!」


堪らずヒルデガルドが叫んだ。

試合中の相手に忠告するのはマナー違反だ。

それでも叫ばずに居られなかったのは、セルゲイの障壁魔導具性能をヒルデガルドが把握していたからだ。


アレは、防げない。


ヒルデガルドの一喝を耳にした途端セルゲイは攻撃魔導具の発動を自らの真下に指定した。

衝撃を障壁で受けながらもその身体が高く打ち上げられる。

傍から見たら自爆そのものであるが、結果それが身を守った。


直後、舞台一面から無数の氷柱が天に向かって突き上がる。


モーリスが紋でも、魔導具でもなく、斉唱で魔導を謳ったのだ。


―――魔導の発動には幾つか方法がある。

回路を有する魔導具に魔力を通し紋と共に作動させる。

これは条件の指定、動力を用いて結果を得る方法だ。

回路が変更されない限り魔導の精度は変わらないため素早く同じ結果を得る事ができる。


紋を描き魔力を込めて打ち出す方法は、予め条件指定を省略し動力を抜いた結果を再現する。

つまり紋の精度は条件の精度を左右し同じ魔力量でも結果にばらつきが出る。

導図を用いるのは、その紋の精度を上げるために一段階手前から作動させるに過ぎない。


この手法が世の大半を占めるのは安定性と安全性だろう。

魔力を持ってさえいれば、ほぼ望んだとおりの魔導が発現するのだ。

先人達が望み研究したのはまさにこの道であった。


そして斉唱で魔導を謳い、発動する。

古く廃れた手法だが魔導具も導図も用いず、己の身体だけで発動できる手法だ。

しかし導図の旋律を正確に謳い、魔力を通し続け意識を持って形を定着し、加え発動の魔力を上乗せしなければならないという離れ業である。


低級とされる章や節ですら、実際に行使できる魔導師など現代に数える程しかいない。

ヒルデガルドだってやれば出来るが時間は掛かるし、モーリスが放った程度の高度魔導を斉唱している際は集中で動く事は叶わないだろう。


それを、この大舞台で、相手の攻撃を捌き反撃をしながらやってのける才能と胆力。


肌が泡立つ。

これほどまでに!モーリス・ラゲールという男は実力があったのか!


「…はっ…はは…!」


開いた口から嗤い声が零れた。

仕方が無いだろう。こんなに煽られる戦いを、まざまざと力を見せられたのなら。


氷柱の大地となった舞台で一閃が走る度に氷の礫がきらきらと舞う。

未だに彼等は見ている此方がひやひやするような中で足場を取り、虚空を駆ける。


セルゲイの方が安全地帯を生み出さんと、魔導具の出力を上げてあちこち氷柱を削り取る。

が、それは下策だろう。

結果としてモーリスの足場を増やし、なんなら横取りされる。


「あー…セル息上がって来てる」


リリが心配そうに呟くが、そもそも舞台下に控えていた講師が先程の突き上げで障壁をセルに掛けた時点で試合としては勝敗を下しても良かった筈だ。

だが審判はモーリスの斉唱に乗った魔力に気付いたサーンス講師程、判断能力も無いのだろう。

おたおたと継続する戦いを今も見上げているばかりである。


「セルーー!そんなもんじゃないでしょー!!南の底力ぁ見せてやれー!」


対してヒルデガルドはやんやと煽り騒ぎ立てた。

舞台上のセルゲイの口元が引き攣っている。

きっと焼野原での強制タップダンスを思い出しているのかもしれない。


顔を引き絞めたセルゲイが再び攻めに入り、モーリスとの間合いを詰める。

それを相手はいなす様に器用な足取りをしては合間に一閃や導図を指先で打ち抜き魔導を放つ。


「ねっねっ!モーリスも息上がってる!すごいセルっ!」

「あのまま懐入れたら勝ち筋なんだけどな…いけー!セルーー!!」

「セル―!!超カッコいいー!」


はしゃぐリリを纏わせたままヒルデガルドも声を張る。

遂に同じ足場を取り合うようにセルゲイが組手を仕掛けた。


伊達に彼はダンジョン持ちの伯爵領子爵をやっていない。

冒険者仕込みの肉弾戦は中々筋がいいと評判だ。

それを分かっているのでヒルデガルドは徹底的に近づかせないのだが、知らぬモーリスは当然押される。


魔導祭史上稀にみる肉弾戦に会場の熱気も最高潮だ。

こうなるとますます剣が邪魔になるのだが、ここでも彼の才能は揺るがなく寧ろ牽制に使っていた。

数発くらったモーリスの足場があと少しというところで、剣から音を立てて突風が起きた。


「上手い、魔力で押し返した」

「ああっ!セルーー!」


体勢を崩したセルに今度こそモーリスの一閃が当たる。

幸い、舞台を削る程の勢いや流石に追随の魔導は仕込まれてはいなかったが、体勢を持ち堪える事は出来ずそのままセルゲイは場外へと押し出され四つん這いのまま肩で息をしていた。

ようやく審判が終了と勝敗を声高に報せ、四方八方から拍手と歓声が降り注ぐ。


剣を収めたモーリスも氷柱から降り立つとセルゲイに手を貸し、お互いの研鑽を讃え合った。


「何あれ羨ましい…」

「ヒルディもああいうのやりたそうだもんね」

「超やりたい」


調子に乗ったセルゲイはモーリスの肩を借りて楽しそうにリリ達へと手を振った。

それに応え二人も手を振り返せば、モーリスも此方を見上げ、嬉しそうにその顔を綻ばせた。


「キャーーーーーーーーー!!!」


途端、観戦席が黄色い声で爆発した。

あまりの暴発にヒルデガルド達が身を縮め眼を塞いでいる間に、華々しい試合を見せた彼等は逃げていた。



 第四試合前に再び舞台の整備として休憩が挟まれた。

その間、細かい傷の手当てを救護室でしていたセルゲイとモーリスのところには、熱気に充てられた学生だけでなく仕事中である筈の王宮魔導師や騎士団員が詰めかけていた。


見舞いに行くタイミングを逃してしまったリリがへそを曲げるのを宥めすかし終わる間も持てず、ヒルデガルドは第四試合に呼ばれてしまい、一撃で相手を沈めいそいそと駆けてはセルゲイの居る観戦席へ戻った。


「リリのご機嫌は?」

「取れるだけは取ったし、威嚇もした」


先程の試合でモーリスは勿論の事、自身の株が上がっているのはセルゲイも分かっているのだろう。

相変わらず恋人に関してフォローが手厚いし仕事が早い。


「そ、試合もお疲れ様」

「おーよ!ヒルディの情報ありきだったけど善戦したろ」

「セルもあれだけ打ち合えるの楽しかったでしょ」

「敵意の低い戦いだったからなー」


生徒会長とも相当激しい戦いを見せていたが、緊張感の種類が違ったようだ。


「あと声掛けありがとーな、お陰で怪我しなかったわ。

 寧ろヒルディ良く気付いたなアレ」

「対峙してる最中じゃしょうがないでしょうよ、傍から見てたこそよ」

「つっても観戦席まで流れる魔力量でも無いじゃねーか」


そもそも対峙していた距離でも斉唱している声すらセルゲイには聞こえなかった。

全体の俯瞰もしていたヒルデガルドが微細な魔力の流れを見逃さなかったからこそ、回避出来たのは確かだ。


「まー良いが…んで、アレは切り札か?」

「十分なり得る脅威ね」

「剣は回路無さそうだけど魔力伝導率が凄いな、杖代わりだありゃ」

「って事はもう一つ魔導具あるかー」


実際に試合をしたセルゲイの言葉を聞きつつモーリスの手札を考えるが、そう間合いを置かずに今度はリリとサティが舞台に上がって来た。


「リリーーー!!!やったれー!」

「リリ―!次は私よーー!」


はしゃぐ二人にリリが苦笑を浮かべると、背を向けていたサティも振り向き似た笑みを浮かべていた。


「サティにまで苦笑されたんだけど」

「元気だねぇって事じゃん?」


そういえばサティの応援にモーリスは観戦席へ来ていないのだろうか。

ふと思ったヒルデガルドがぐるりと辺りを見渡すが、彼の姿は見つけられなかった。


(まぁ出入口付近とかでも見えるしなぁ…見てないって事は、流石に無さそうだけど)


魔導具制作の手伝いをしていたのを差し引いても彼等は仲が良いのだ。

ヒルデガルド達のように声を張り上げて応援していなくとも、何処かから見守っているのだろう。


開始の声が掛かるとすぐにリリは導図を打ち抜き、複数の紋を待機させた状態で走り出す。

サティも障壁魔導具を作動させながら距離を取る様に走る。


詰めるのはリリが早い。

数弾、魔力を込めて魔導を放つとサティ側から障壁が飛んできた。

それを打ち落とさんと、初撃よりも魔力を込めて待機していた紋を光らせる。


魔導を受け流したサティの障壁がリリの展開出力を上げて広がっていた障壁に接触すると、捕縛魔導を展開し鎖のような靄が伸びた。

距離的猶予を保ったままリリは魔力でそれを絡めとり、放っていた魔導の軌道上へ引っ張り上げ霧散させる。

柔軟で精密な魔力操作を走りながら出来るのは流石リリである。


「っ!」


サティは更に障壁を飛ばすも軌道を読まれ、それはまっすぐに場外へ向かい他の講師たちに魔導で打ち落とされた。


(成程、やっぱり魔導でも打ち落とせるけど魔力攻撃は流されがちかぁ)


既に講師たちは情報を得ていたのか、試合の中で見て気付いていたのだろう。

火や水を使う者は少なく、ほぼ土で覆い落としたり氷漬けにしていた。


リリが更に追撃で紋を打ち抜く。

それは走るサティの少し先の足元に展開され、思わず止まろうと減速したが間に合わず踏み抜き、眩い閃光が彼の足元から弾けた。


「きゃっ!」


が、それはすぐさまリリの視界を覆った。


(障壁魔導具とは別に持っていたのが、反射の魔導具)


思わずヒルデガルドも顔を顰める。

リリの取った目晦ましの術はヒルデガルドが進言したものだったからだ。


反射魔導は障壁に取り込むのが主流だ。

にも関わらず、わざわざ魔導祭で持ち込める一枠を使ってまで取り入れるとは予想出来なかった。

サティの魔力量を考えれば、あの特殊な攻守一体型の障壁魔導具を使用するために魔力増幅の魔導具一択だと考えていたのだ。


「はぁ…!っ!」


現に今、閃光をリリに反射させたサティは既に息が上がっている。

慌てて懐から紋を取り出し杖で打ち出し、眼を手で覆ったリリを障壁ごと外に吹き飛ばした。

着地する前になんとか体勢を整えようとするも視界が無いからか、観客席の障壁まで滑り、控えていた王宮魔導師を巻き込んでたたらを踏んでいた。


「あー…おい参謀ぉ」

「責任をとって辞任します」


視界が戻ったのであろうリリが魔導師の女性に何度も頭を下げているのを見つめながら、ヒルデガルドは歯痒さに顔を顰めてしまう。

自分の詰めの甘さもそうだが、これが実戦だったらと思うと背筋が冷えた。


「ま、奈落で無かったからまだ良かった」

「リリの優しさのお陰ね」


最初の提案では奈落、落とし穴を発生させるものだったが、リリが「それは流石に」と修正したのだ。

でもきっと奈落であれば反射は現象の重さに耐えきれずリリまで届かなかったかもしれない。

閃光という速く重さのない現象であったからこそ、あんなに早く反射されたのだ。


「サティも随分腕を上げたんだなー、リリ―!お疲れー!」

「お疲れ様リリー!かっこよかったよー!」


リリにぺこぺこサティが頭を下げていてはどっちが勝者だか分からない。

歓声と共に拍手している視線の先、リリは屈託のない笑顔で大きく手を振って見せた。

下策を怒らずにいてくれる親友の姿に胸が熱くなる。


「見てよセル、あの可愛い笑顔」

「ヒルディの策で勝った先でヒルディと戦わずにすんで安心したんじゃねーの」

「そんなん邪推…いや…うん、そう見えてきてしまった…」

「彼氏様を舐めんな」

「セルがリリに邪気を感じてたって言いつけてやる」

「そんなリリも可愛いんだよ」


愛の奴隷は強かった。



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