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36:愛の戦士は覚えている


 何の因果だろうか、第一試合を終えたばかりのセルゲイは指名対戦で生徒会長ソフィーの私怨が溢れんばかりに注がれ込められた猛攻に晒された。


逃げ特化な彼の、軽業師を彷彿とさせる動きは立体的で見ているだけなら面白く、会場の観客も、勿論見ていたヒルデガルドもリリも手を叩いて大はしゃぎで笑いながら応援していた。

やってる本人はさておき、それはそれは大盛り上がりで会場を沸かせた。


結果としてはソフィーの方が怒りからか魔力切れで動けなくなり、審判により決した。

セルゲイがあれだけ疲れた様子をヒルデガルドも見た事は無かったので、きっとソフィーはこれからもっと大成するのだろうなと先輩としてとても嬉しく思う。

流石あの幼馴染が仕事を擦り付けるだけある才女だ。


そうこうしている内に魔導祭の局面は進み、第二試合の全ての組み合わせが決まれば速やかに試合が始まる。


第一試合でも出番が早かったリリは第二試合でも早かった。

このまま順当に勝ち上がれば第五試合でヒルデガルドと当たる流れだと気付いた時、リリが本気で対戦表を詳しく見始めたのは可笑しかった。

それでも家族が見に来ている学園での成果を見せる晴れ舞台だ!と意気込みながら軽く第二試合も勝ち進んでいたのは流石というか。


因みにセルゲイは順当に進むと第三試合でモーリスに当たる。

本当にヤツは運が無い。


勿論ヒルデガルドは最後まで勝ち残らなければ、好敵手モーリスと舞台に上がる事は出来ない。

にくい演出をしてくれるものだ講師たちよ、とヒルデガルドがほくそ笑んでいたのを見た人は意外と少ないだろう。



「デイビアせんぱーーーーーい!!!セシルたんと幸せになってくださーーい!」


そう叫びながら一撃で場外へ華麗に吹っ飛んでいった男子生徒を、ヒルデガルドは名前しか知らないし、話した覚えも顔も朧だったので指名対戦を終えた後リリに聞いた。


「ああアレ、金糸雀親衛隊の幹部よ」


こういうものは隊長が出張るものじゃないのだろうか、と小首を傾げるもののまぁどうでも良かった。

ここ数年恒例となっていたヒルデガルドの打ち上げっぷりを喜んでいる観客が居たので、その歓声の方が随分気持ちを盛り上げたり嬉しかった。


「隊長は三年?」

「そ、彼も第二試合まで残ってるし、確かヒルディに近かったから…あ、第三試合サティとやるんだ」


控室の対戦表を見上げながらぱちりと眼を瞬かせた。

ヒルデガルドの第三試合は別の人物だが、リリの言う通り確かにサティはヒルデガルドに程近く、それこそ勝ち残れば第四試合でリリと対戦する流れになっていた。


「勝った方がリリとじゃない。隊長の実力はどうなの?」

「光属性が強かったとしか記憶が無いのよねぇ…終わって急いで戻れば見れるかしら」

「ん、なら今の内に何かつまむ?」

「そうしよっか!セルも回収してこないと」


既に疲労困憊なセルゲイは、どうにかリリの第二試合を見終えたら救護室に下がった。

この状況で仮眠をとると言っていた。

その図太さ、本当に大したものだと思う。


流石に救護室で食べる訳にはいかなかったので寝ぼけ眼のセルゲイを引っ張りながら、出場者達がいつでもつまめるよう軽食が準備された大部屋へ向かった。


既に敗退した学生も楽しそうに、パーティ並みに美しく飾られた料理を頬張り満喫している。

例年通り試合数が進むだけ増える彼等がこの後出場者用観戦席を埋め尽くしてゆくのを経験で知っているヒルデガルドは、興味深い魔導具や魔導を使用していた学生の顔を探しつつ普段より急いで小さなサンドイッチを咀嚼していた。


「あ゛~~~~~…回復薬が抜けねー…」

「ほんと生徒会長の猛攻凄かったもんねぇ」

「魔導具の魔力伝導率上げて節約してなかったら詰んでた」

「辛勝とはいえ、先輩の名誉は保てて良かったわねセル」


もそもそと草食動物のように肉を永遠に噛んでいる幼馴染の姿は気が抜けた炭酸のようなものの、確かにあれを凌ぎ切る実力を在学生達に見せつけた彼は今後一目置かれる事となるだろう。

それを懸念してかリリがセルゲイにぴとりと身体を寄せ、控えめな上目遣いをしてみせる。


「あんまモテちゃいやよ」

「……………ご褒美ぃ…」


天を仰ぎ幸せそうにそう呟きリリの薄墨色の髪に鼻先を埋めた。

普段なら、人前でのいちゃいちゃは彼女が嫌がるからと遠慮がちなセルだが本当に随分疲れているようだ。

匂いを嗅がれ愛でられているリリも分かっているのか、恥ずかしそうに笑ってはいるものの退かさない。


「一生懸命、いや、九死に一生なセルもかっこよかった」

「うん…ソフィーの奴に後でそれ言うわ」

「ソフィーが矛を収めざるをえない言葉だわね」

「良い奴なんだよ、殺意はどっかのだれかの入れ知恵なだけで」

「戦略参謀って重要よね」


軽口を叩きながら軽食で小腹を満たすと、三人とも観戦席へ向う流れとなった。

寝直すかな?と思ったセルゲイだが、更にリリからご褒美をもらったようでそれはそれは大層ご機嫌な様子で手を繋ぎ戻って来た二人を先に観戦席に座っていたヒルデガルドが笑って出迎える。


「顔色良くなっちゃって、まー!」

「知らなかったのかヒルディ?俺の肩書は『愛の戦士』だ」

「『愛の奴隷』の間違いでは?」

「なんとでも言え、痛くも痒くもねぇハハハ!」


リリを真ん中にして三人は並んで座り、順調に進む第二試合を眺めた。

流石にまだ序盤だからか殆どが大技を切らずものの数分で終わらせるのだが、時折因縁の対決なのかねちねちと時間をかけて相手を追い込む人や、遊ぶように魔導を打ち合い笑っている学生も居た。


「セルは第二試合勝ち進んだら次の相手モーリスね」

「ヒルディの近くはやめてくれと毎晩祈っていたらこんな事に…」

「アンタそんな事祈ってたの?」


呆れた、と溜息を吐く幼馴染をちらりと見ては、彼は再び舞台へ視線を向ける。


「『愛の戦士』が本気を出せば幼馴染の魔王など敵ではないのだよ」

「はーーー?!お前、言うに事欠いてそれか?!舞台で待っててやるわよ!!」

「おーおー待ってろ待ってろ、リリの仇め」

「ねぇ私まだ負けてないんだけど」


セルゲイとヒルデガルドが対戦するには、セルゲイはモーリスを、ヒルデガルドはリリを打ち倒さなければならない故のやりとりだが、彼は肩を揺らして泰然と嗤っていたものの少し表情を引き締めると、声を落として口を開いた。


「対戦表見た瞬間、第三試合は捨てたんだが…まぁ幼馴染の為に粉骨砕身してやるよ」


意外な言葉に目を丸くしたのはヒルデガルドだけで、リリは慈愛に満ちた嫋やかな笑みを浮かべ恋人を見上げてはその肩に頭を乗せた。

そういう人だから恋をしたのだと、いわんばかりの幸せそうな二人を茶化す事も出来ず。

独り身寂しく、ヒルデガルドはどこに感謝を向ければ良いのかと口をへの字に曲げて舞台を睨んだ。



 自称『愛の戦士』は軽やかに第二試合で勝利を収め、駒を進めた。

短い休憩を挟んだものの続いて執り行われた第三試合の皮切りはヒルデガルドだ。


ここでまさかの、先日実技場で一緒に戦略を考えた男子が出てくるとは矢張り何かの縁だろうか。

相手は既に青白い顔をして悲壮感たっぷりだったが、ヒルデガルドは歓声の中でも彼へ声を投げた。


「あれからどれだけ努力したのかしら?派手に散る準備は出来ている?」

「…デイビアさんなら、俺を一番派手にぶちのめしてくれそうです」

「籤運に感謝なさい!目にもの見せてあげましょう!」

「観客にですよね?俺にじゃないですよね?」


開始の掛け声と同時に、ヒルデガルドは胸元から火の第一節五章の紋が描かれたカードを数枚取り出し一気に魔力を注ぎ周囲に展開した。

通常、防衛のため障壁魔導具を先に作動するのがセオリーにも関わらず、攻めに転じたのだ。


トンと敢えて一歩前に踏み出しては補助魔導具を動作させ無数の火の弾を放った。

遅れて彼も同じ魔導を放つも、紋を描いてから放たれたそれは彼の随分近くで相殺し打ち落とされる。

爆音とぶつかり合う派手な炎があちらこちらで上がっては、既に数で負けている彼の障壁が光る。

舞い上がる砂埃の中から放たれた反射をヒルデガルドは既に描き上げていた紋を打ち抜き、土柱で防ぐと思われたがそれは自分ごと打ち上げるための動力だ。


彼女の足元で障壁魔導具が作動しわずかに浮いた隙間へ、さらに魔力を込め己の身体を高く空に打ち上げる。


その軌道中も彼女は紋を描いていた。

本来は相手の頭上に、狙撃場所へ描くものだが、彼女は離れた虚空に描いていた。


「爆破はっ!祭りの華ってねぇ!!」


気炎を上げるかの如く嗤いながら紋を打ち抜いた瞬間、虚空が弾け轟音で会場が揺れた。

一面が強い光によって白く染め上げられた後、やがて小石がパラパラと落ちる音だけが周囲に満ちる。

そろりと観客席の人々が薄目を開けた先には大きく抉られた舞台と、設置された障壁魔導具まで転がされた学生の姿だった。


虚空で弾けた爆発も、強い光も攻撃の要ではない。

その直下に注がれる凄まじい風圧と熱がこの魔導の真価であるとヒルデガルドは自負している。

抉り炙られた地面は未だ赤くチラチラと光り、ぼやりとした湯気を上げていた。


これこそが夏の長期休暇中に彼女がセルゲイと一緒に試していた新技だ。


障壁魔導具が反射で使い切りなのは分かっていたから、相手が二撃目に切り札を奮う前に試合を決めるべきなのも、既に彼の身を護る障壁魔導具が無い事もヒルデガルドは知っていた。

故に、派手さを出しつつ余波で吹き飛ばせる自身の新技を披露するに至ったのだが。


(こんな早々出すつもりは無かったのだけど)


結い上げた柘榴色の髪を靡かせ、やっと魔王が空から舞台へと降りてくる。

試合後の讃え合いをしたかったのだが向こうは失神してしまったのか、救護員達に速やかに運ばれていった。

残された少女はその場で軽く礼をし、まばらな拍手を背に受け建物内に戻る。


「ほんと魔王」

「俺、アイツの事これから『勇者』って呼ぶわ」


表情を引き攣らせたリリと、憐憫をたっぷり含み頭を振るセルを後ろに付けながら、魔王ことヒルデガルドは使った紋のカードを補充するために自らに許された控室へ向かった。


第三試合から出場する成績上位者は個別に控室が用意されており、彼女もそこに予備の魔導具をおいているのだ。

中々入る事の出来ない珍しい室内にセルゲイはあちこち顔を向けては眼を輝かせる。


「すっげ、ソファーとか結構良いの置いてんだな」

「奥に仮眠室まであるのよ」


朝の内に先に見に来たリリが我が物顔でセルに解説をしている。


元々この実技場は、学園に隣接していた古い砦を改装したものであるためこうした個室が多い。

現在舞台となっている場と建物を隔てる障壁魔導具はあるものの、この建物自体強固な造りとなっており多少の衝撃で壊れないからこそ再利用されているのだろう。


「おっし、お待たせー行こぉー」


仮眠室の寝具や家具小物を商人顔で見ていた二人に声を掛け、再び廊下へ出ると、観戦席へ向かわず出場者たちが詰める大広間へと向かった。

そろそろリリの出番であるはずなのだが、先程ヒルデガルドが舞台を損壊したので一時休憩を挟む形となり最後の声援と見送りをする時間が持てた。


「リリ、怪我はすんなよ」

「魔導祭でそんな大怪我を講師がさせないわよ」


いくら障壁魔導具を用いり自衛をさせると言っても、対人で魔導を扱う以上、危険性は講義よりもずっと高い。

故に講師や王宮魔導師が舞台の周辺に等間隔で立ち眼を光らせ、もしもの場合は試合を止めたり魔導を防ぐなどの手を貸し、救助をするのだ。

お陰で擦り傷や打撲、短時間の失神はあれども大怪我を負う学生は殆どいない。


ヒルデガルドの好んで扱う魔導はちょっと派手過ぎるので、あまりやり過ぎないでくれと苦言を呈する講師も居るが、それでもこうしてのびのびと戦わせてくれる環境に感謝しかない。


「二人みたいにホイホイ飛ばないもの、大丈夫よ」

「ヒルディと俺を同じ括りにしないでくれ」

「阻害で狂わされる程、ちゃちな腕してないわ」

「南部の人って括りにしておいてあげる」


地元でもそんな浮遊魔導は然程重視されていない。

利便性を鑑みれば当然だが、長距離は無理だとも飛行魔導の方が使いこなす者が多い。


「毎回思うけど、墜落怖くないの?」

「俺は木の高さくらいまでだし」

「木登り感覚なんだぁ…南凄いね」

「人を見下ろすの愉快」

「こっちはただの魔王だった」


曖昧な笑みを浮かべつつ殊勝な心掛けを述べたリリと別れ、ヒルデガルドとセルゲイは観戦席へ向かった。

危険人物の試合が終わったばかりだからか、観戦席の前方はほぼ埋まってしまっていた。


「リリに声届くかしらコレ」

「叫べ、お前の喉が潰れようとも」

「先に貴様の鼓膜を貫いてやるからな」


中程に陣取り、凛々しい面持ちで出て来た親友へ向けて全力で腹の底から声を出す。

隣でセルゲイが耳を塞いでいた。

愛の戦士は耳が弱点なのかもしれない。


流石に第三試合になると使用される魔導も戦略も見ごたえが出てくる。

リリは身体能力を生かし軽やかに舞台を走り周り、相手の裏をかいては魔導を放つ。

その絶妙さがまた、憎らしいほど上手い。

焦った相手の誤爆を誘発させ浮かんだ足元をすかさず魔力を打ち込み崩し、舞台から叩きだした。


「きゃーーーーー!!リリーーー!!かっこいいーーー!!!」

「リリ!キレイだーー!!」


湧き上がる歓声の中で二人の声が聞こえたのだろうか、舞台上で握手を交わした後にリリが二人の方を向いて小さく手を振るのがとても可憐で、更にヒルデガルドは身体を跳ねさせて黄色い声を上げた。

そんな声も出せたのかと、驚いて前列の学生が振り返っているのも気にしない。


浮かれながら未だ興奮冷めやらずセルゲイと騒いでいると、隣に座る気配と背凭れに回される腕があった。


「リリ嬢が羨ましい気持ちと、はしゃいでるヒルデガルドちゃんが可愛いなって気持ちで死にそう~」

「御気分が優れないのなら退席されては?お帰りは彼方です」

「フォーレ先輩、チーっす」

「やあやあ名前は知らない少年よ!先程の生徒会長とリリ嬢、どっちが本命だい?」

「リリと結婚するのは俺です」


軽やかに返しながらもセルゲイの眼は笑っていなかった。


「…ああ、一年の時にリリ嬢に声掛けたの根に持ってるのかい!随分嫌われたものだ!」

「リリが気にしなくとも俺は気にしますよ」

「ヒルデガルドちゃんも気にして欲しかったなぁ」


一年次に二人で学園内を歩いていたら、偶然会ったフォーレ先輩から「君達可愛いね!俺のお嫁さんにならない?」と他の女学生を侍らしたまま言われたのだ。

勿論二人は白々しい目を向けるだけで無視をしたのだが、愚痴を聞いていたセルゲイは覚えていたらしい。

あの頃リリとセルゲイは付き合って間もない時であったから余計腹立たしかったのかもしれない。


「今とても気にしていますよ、早く退席してくれないかなって」

「辛辣…ところでまだセシーとの対戦やらないの?俺午後からデートなんだけど」

「何しに来たんですか」


予定ではヒルデガルドとセシルの指名対戦は正午過ぎだ。

それは双方に知らされており、彼が一応応援として駆け付けたセシルも把握している筈だし、何なら指名出場者の控室にも張り出されている。


「モーリスみたいに捻じ込んでよ」

「…やっぱりアレ、予定変えたんですか」


というより変える事が出来るのか、とヒルデガルドは思った。

そもそも指名対戦は双方の打ち合わせの上で開始時期を事前に決めているのだ。

セルゲイの場合は「いつでもいーぞ」と舐めた真似をしたので、ああなったのだが。


ヒルデガルドだって親衛隊幹部とやらの希望を講師経由で聞いていたから、あの合間に執り行うよう返答した。

つまり一方的に決められる話ではないのだが、テオドールの話ぶりはモーリス側の都合を匂わせた。


「モーリスが第一試合始まってすぐかなぁ…直接打診してたよ」

「本来執り行う指名対戦者の人達は大丈夫だったのですか」

「そこは流石モーリスっていう感じ?

 でも凄くピリついてるからか、セシーもちょっと話しただけで今もほぼ引っ込んでるし。

 モーリスが個室持ってるんだから遊びに行くなり、観戦すれば良いのにね」

「過ごし方は人それぞれでしょうに」

「だねー、俺みたいにこうして誼を深めたりとか、ねっ」


肩に触れて来た手を叩き落とすと速やかに立ち上がり、セルゲイの反対側へ座る。

ヒルデガルド、セルゲイ、一つ空いて、テオドールの席順である。

目が合ったセルゲイが二コリと笑うも胸の前で組んだ腕は以前憮然とそのままだ。


「顔色悪くして差し上げましょうかフォーレ先輩」

「…何これ、どういう状況?」


試合後の手続きを終え出場者用観戦席へ来たばかりのリリがヒルデガルドの隣に腰掛け、囁く。


「あんたの夫が堪った憤悶と因縁をぶち当ててる」

「ええ…?フォーレ先輩と私、何かあったっけ?」

「愛され妻は夫との思い出しか残さないのね」

「親友との思い出もバッチリよ。ね、ホラ、試合見ようよ」


ヒルデガルドの腕を叩き舞台へと視線を促す親友に小さく苦笑を零しながら告げる。


「隊長とサティのはもう終わったわよ」

「はぁー?早すぎない…?勝ったのどっち」

「サティ」


テオドールに話掛けれられながらも、しっかりとヒルデガルドは舞台を見ていた。

隊長の戦い方も気にはなったが何よりも隠され続けた、サーンス講師も協力した魔導具が見れるかもしれないと期待していたのだから見逃すわけがない。

途中、横の雑談に少しばかり、腹立たしいが、気を取られもしたのだが概ね集中して観察出来た。


「サティの障壁魔導具、多少の魔導ならものともせず飛んでくるわよ」

「はぁー?ちょっと意味が分からないんだけど」

「二層…いやもっと層数は多く出来るのかもしれないけど、自分の眼前に展開した障壁とは別に何枚も小さな障壁を相手へ向けて飛ばして、更にそれが捕縛魔導と組み合わされているみたい」


特に特徴的なのは障壁とぶつかった後に、その捕縛が作動するという点だろう。

殆どの障壁魔導具は、障壁を術者の比較的傍に生じさせるものであるという性質を良く考えた展開だ。

障壁を貫通や破壊するなどとは違う着眼点が新しい。


「障壁で防げないんだ」

「見たところ、障壁との接触が作動条件だから敢えて自分の障壁を止めて避けるか受ける、かな」

「はー…めちゃくちゃ相性悪い気がする」


リリは魔力操作や身体能力こそ高いが、紋を素早くその場で描くのは苦手だ。

今までの試合でも紋を打ち抜いて発動させるものや、自分の魔力をそのまま放つなどしかしていない。

サティの飛ばされる障壁がどれほどの強度を持ち合わせているのかにもよるが、あまり払い落とす火力を彼女が準備していないのは確かであった。


「魔力と体力の我慢比べ?ねぇこれって魔導祭だよね…」

「今後、魔導師にも体力が入用だと見せつけてきなさいよ」

「火力ごり押しに言われるのも癪全としない」


どう戦うかを真面目に話し合う二人の横で発生した冷戦だが、時間がセルゲイの味方をしたようだ。

正午の鐘を持ちすごすごと退席したテオドールを囃し立てるように歓声が湧き上がった。



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