特訓
「急にどうした?どういうことだ?」
呼びかけられるが私は放心状態である。
あぁ、やったとしても絶対負けるよ。
このいかれたイカ顔に成すすべなくやられるんだ。
さようならみんな、さようなら私…。
「魔王様!」
パンッ!と目の前で手を叩かれる。
「はっ!ごめん、急なバトル展開についていけなくて」
「しっかりしてください」
「…何か事情がありそうだな、説明しろ」
「え…?あぁうん、実は…」
そうして私は戦いに関してど素人なこと、魔法も基本しかほぼ使えないことなどを説明する。
「なに?そうか…であれば私が圧倒的有利であるな…。しかし強さは魔王には必須…うーむ…」
あれ?この人ちゃんと話せばわかってくれそう。
めっちゃいい人なんじゃないかな。
心の中でイカ顔なんて言ってごめんね。
「ちなみに魔王としてやっていくつもりはあるのか?」
「…!もちろん。さっきのはびっくりしちゃっただけだから」
前にこの世界を本気で生きるって決めたのは嘘じゃない。
結果、それで死んでしまっても私に悔いはない。
「一週間やろう。私に勝てなくてもいい。あっと言わせてみろ」
「海王殿、さすがに難しいのでは…?」
リッチーが反論する。
「しかしこれは必須技能だ。いつかは通らなければならぬ。早い方がよかろう」
「いやしかし…うーむ…」
ん?えーっと…つまり私の言葉が本気かどうか見せろってことか、だったら…。
「大丈夫だよ、リッチーさん」
「魔王様?」
「いいよ、海王さん。一週間だね」
ずいっと前に出る。
「その意気やよし、本気でかかってこい」
このままじゃいられないからね、やってやろうじゃない。
「ルールは単純。それぞれの陣地に何か守るべきものを置き、相手のものを触ったら勝ち、触られれば負けだ」
なるほど、それならあまり怪我はしなさそうだ。
「では一週間後に。楽しみに待っているぞ」
そう言って部屋から出ていった。
「…魔王様、大変なことになりましたね」
リッチーが顔をしかめながら言う。
「いいよ、海王さんの言っていた通りいつかは通らなきゃいけないんでしょ?」
逃げて先延ばしにするより今やった方がいい。
「そうですね…こうなってしまっては仕方ありません。わたくしもできる限りの助力をいたします」
「うん、お願いします」
そうして一週間特訓の日々が始まった。
「では私がファイアボールを打ちますのでシールドを」
7日間、私達はひたすら簡単な対処の訓練を行うことにした。
「いきます…ウォーターボール!」
ゆっくりと水の玉が近づいてくる。
「あ…えーっと…シールド!」
1秒のラグを経てシールドが展開される。
水の玉がシールドに当たり、バシャッと音を立てて消える。
よし、できた。
「ふむ…ではどんどん早くしていきます。ファイアボール」
「え…ちょ…!シールド!」
ギリギリのタイミングでシールドが展開される。
「待って、危ない!もう少し手心を…」
「反撃ができるようになるまで続きます。ウォーターボール」
「うわああぁ!!」
間に合わずバシャッと当たる。
思ったより痛い。
リッチーの訓練は過酷だった。
そして明後日の方向に反撃できる程度になるまで5日かかった。
「じゃあ、もう明後日だけど今できることを軸に作戦を立てようと思う」
アーサーとリッチーを会議室に呼んで話し合いを行う。
「あの…魔王様、大丈夫ですか?」
アーサーが心配している。
私の体は小さな火傷と打撲の跡でいっぱいだ。
「問題ありません、回復魔法を行えば跡形もなく消えますので」
いや問題大ありだよ!すごく痛いんだから。
とはいえリッチーさんの手加減のおかげで跡形もなく消えるのはありがたい。
「それでリッチー様、魔王様はどの程度強くなったのですか?」
「そうですね、わたくし達と同程度のスピードでシールドの展開、魔法の展開は早くなりました。予想以上に上達が早いです」
お、これ私すごいのでは?
「よく言えば持久戦が強く、悪く言えば耐久力のあるサンドバッグになりました」
「おー!私すごい…ん?なんで今悪く言ったの…?」
リッチーさんそんなこと言うキャラじゃなかったと思ってたんだけど…。
「なるほど…」
なるほどじゃないんだよ、アーサーちゃん。
「通常の魔法もその速度でできるんですよね」
「はい、基本魔法でしたら。わたくしが保障いたします」
アーサーが考えこむ。
「…あの、アーサーちゃん?」
「魔王様。今から私が有効だと思う策をいくつか伝えます。それを使いこなせるかは魔王様次第ですが」
アーサーちゃんが笑っている。
「なるほど、ではわたくしもとっておきの魔法を一つ」
リッチーも詰め寄ってきた。
「あはは…お手柔らかに…」
あと二日、大変そうだ…。




