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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
エピローグ「73週後」
180/181

第179話「崩壊する境界」

7月5日 火曜日。


凛はもう自分が誰だか分からなくなっていた。


鏡を見る。そこに映る顔。凛? 誰?


「私は……」凛が呟いた。「佐々木凛……いや……違う……私は香織……いや……真理子……いや……」


境界が完全に崩壊していた。


凛と他者の境界。個と集合の境界。


ある時、凛は母として料理を作ろうとした。でも食材がない。


「あれ……」凛が困惑した。「お鍋はどこ……凛のために作らなきゃ……」


ある時、凛は父として語りかけた。「凛、勉強しなさい……大学に行くんだろう……」


ある時、凛は美波として笑った。「凛、一緒に遊ぼうよ……映画見に行こうよ……」


誰が誰だか分からない。時間も曖昧。今は何年? 何月?


凛は床に座り込んだ。頭を抱えた。


「私は誰……」凛が泣いた。「私は……何……」


無数の声が答えた。


「あなたは凛……」


「佐々木凛……」


「でも同時に……」


「私たちでもある……」


「みんな……」


「一つ……」


凛は叫んだ。「いや! 私は私! 凛だ! 個でいる!」


でももう遅かった。境界はない。凛は溶けていた。無数の意識の海の中に。


夜。凛は幻覚を見始めた。


美波がそこにいる。笑っている。


「美波……」凛が手を伸ばした。


でも触れない。幻だ。


母がいる。父がいる。みんながいる。


「お帰り凛……」


「ご飯できてるわよ……」


「一緒に食べよう……」


凛は泣いた。「みんな……本当にいるの……?」


「いるよ……」みんなが答えた。「ここに……あなたの中に……」


凛は理解した。これは幻覚じゃない。記憶だ。凛の中に生きている記憶たち。


「そっか……」凛が微笑んだ。「みんな……いるんだ……本当に……」


凛は幸せだった。一瞬。


でもすぐに現実が戻った。誰もいない部屋。冷たい床。空腹。孤独。


凛は床に倒れ込んだ。もう動けない。

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