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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
エピローグ「73週後」
179/181

第178話「記憶との最後の会話」

6月25日 土曜日。


凛は部屋で横になっていた。もう動く力もない。


「みんな……」凛が呟いた。「話して……」


頭の中で声が答えた。たくさんの声。


「何を話そうか……」


「昔の話……」凛が言った。「幸せだった時の話……」


真理子の声。「私ね、子供の頃、よく母と公園に行ったの……桜がきれいだった……」


美咲の声。「私は初恋の話……彼、優しかったな……今でも覚えてる……」


隆の声。「凛が生まれた日……あの日は人生で一番幸せだった……小さな手が私の指を握って……」


香織の声。「隆と出会った日……運命だと思った……この人と一緒になるって……」


美波の声。「凛と友達になった日……あなたが微笑んでくれて……嬉しかった……」


無数の声。無数の記憶。無数の人生。


老人の声。「妻と過ごした50年……喧嘩もしたけど……愛してた……」


少女の声。「お母さんが作ってくれたお弁当……美味しかった……」


料理人の声。「初めて作った料理を褒められた時……料理人になろうと決めた……」


教師の声。「教え子が『先生ありがとう』って言ってくれた時……この仕事を選んで良かったって……」


医師の声。「患者さんが元気になった時……命を救えた時……」


無数の、小さな幸せ。無数の、大切な瞬間。


凛は泣きながら聞いていた。


「みんな……」凛が言った。「幸せだった?」


「幸せだった……」声が答えた。みんなで。


「辛いこともあった……」


「悲しいこともあった……」


「でも……」


「生きて、良かった……」


「愛せて、良かった……」


「出会えて、良かった……」


凛は微笑んだ。痩せ衰えた顔で。


「そっか……」凛が呟いた。「みんな……生きてたんだ……ちゃんと……」


「うん……」声が答えた。「ちゃんと生きてた……」


「そして今……」


「あなたの中にいる……」


「永遠に……」


凛は目を閉じた。涙が頬を伝った。


「ありがとう……」凛が囁いた。「話してくれて……」


「こちらこそ……」声が答えた。「聞いてくれて……覚えていてくれて……」


静寂。


でも温かい静寂。


凛は一人じゃなかった。数十億人の記憶と共にいた。

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