34話 VSバルロス 迫る猛威
「――――『黒灰域』」
バルロスがスキルを発動。
その瞬間、奴の周囲から熱風が吹き荒れ、メラメラとした突風が私に襲いかった。咄嗟に腰を落として踏ん張っていなければ、勢いのままに吹き飛ばされていただろう。なにより、身構えた腕が火傷しそうなほど熱い。
熱風が止んだ。
ひとまず焼け死ななかった事に安堵した私はバルロスを注視する。
先ほどの風はかなりの熱気であったが、人体へ影響を与える程ではなかった。いやまぁ、戦闘服でなければ今頃焦げてただろうけどね。大衆の面前で全裸にならなくてよかったよ。
気になるのはこれから起きる出来事である。
私の予測では先程の熱風はスキルではない。というより、厳密にはあれもスキルの一部なのだろうが、恐らくは予備動作、助走のようなものだ。この後こそがバルロスのスキルの本領と見ていいだろう。
「まさか女如きにスキルを使わされるとはな。………だが、これで終いだ」
「………………なるほどね」
そう告げたバルロスの周囲を粉状の物質が舞っている。灰だ。
無数の灰が円形に集まり宙を泳いでいた。ただそれは灰と言うにはあまりに黒く、不気味で、猟奇的な集合体である。明らかにただの燃え殻ではない。少しでも指を突っ込んだら跡形もなく削り取られてしまいそうだ。
「灰螺散牙ァ!!!!」
「なっ!?」
バルロスによる中距離からの攻撃。
黒灰が螺旋を描き、地面をゴリゴリと削りながら私へと迫る。その先端は牙のように鋭い。
まずい………!防御を………っ!!
「ガハッ!!」
咄嗟に刀で迎え撃つも推進力に耐えきれず、黒灰の嵐に飲み込まれてしまった。
無数の牙が私の全身を削る。まるで獰猛な獣に噛みつかれているかのように体中が痛い。
なんとか脱出しようと試みるも、身体を動かすほど余計に深手を負った。
「どうだ痛てぇだろ!!!その黒灰は使用者の精神力に比例して密度と強度が増す!!!テメェみてーな女と俺じゃあ、戦いに対する覚悟がちげぇんだよ!!!!!」
「…………ッ!!」
悩んだ末、私はひと想いに身体を左横へ倒れ込ませた。
全身傷だらけとなったが、ひとまず黒灰から逃れる事には成功。けれどいたる所から血が滴っている。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
刀を支えに起き上がる。
ちくしょう、想定以上の大ダメージを受けてしまった。あの黒灰、かなりの威力だ。もう一度モロに喰らったら次は立ち上がれない確信がある。
「使用者の精神力に比例して密度と強度が増す」とか言っていたが、このアリーナ全域を黒灰で埋め尽くさない辺り、力の増加には上限があるのか。それとも、元々の黒灰の威力が凄まじく低いのか…………おそらく後者だろう。一撃必殺ではなかっただけ幸運だ。
痛む身体に鞭を打ち、私は刀を構え直した。次はこちらの番。
縦横無尽に荒れ狂う黒灰を回避しつつ、バルロスへ接近。反応したバルロスが身に纏うように黒灰を集結させるが、私は守りの薄い箇所へ的確に刀を振るう。しかし。
「『黒灰壁』―――」
「チッ!!」
それでもなお、私の刃は無慈悲に弾かれた。
反動でよろめく身体。間髪入れずにバルロスの掌が私の首元へと伸びてくる。掴まれた。
「ッ………ァ!!」
そのまま放り投げられた私は背後の壁へと激突。
壁に走った亀裂の数が、私の受けたダメージを表している。
「ぐっ……」
痛みに耐えきれずその場に倒れ込む。くっそ、この状況は……まずい。
私の刀さえ防ぐ流動的な黒灰。体感では訓練中のザッパ教官と同じ………いやそれ以上の防御力だ。
密度が小さい箇所でさえあの硬さ。他の箇所はさらに強度が高いとすれば、正面から切り崩すのはほぼ不可能。
しかもそれが攻撃にも転じるとなると……どうする………。どうすればあれを突破できる……。生半可なやり方ではまず無意味だ。
「何度も同じ事言わせんじゃねぇ。女のちっぽけな精神力じゃあ俺には届かねぇよ。テメェら劣等種はそうやって倒れ込んでんのがお似合いだ」
聞くな。
あれはノイズ、微塵も受け止める必要がない言葉。
今考えるべきは勝利への手順だけ。そのために全リソースを脳へ捧げろ。
「終わりだ。『灰螺散牙』」
迫り来る灰の牙。まるで咆哮にも似た摩擦音が耳に響く。
回避しようとする私の体は―――――――蓄積したダメージによりピクリとも動かなかった。
万事休す。打てる手はない。
再び現れた黒灰の災害が私をまるまる呑み込み―――私の意識はそこで途絶えた。




