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31話 女の宿命

「へぇ……この俺とやろうってのか?」


「まぁね、それが一番手っ取り早いでしょ」


正直、多少のブラフも含んでいる。この状況における最も最悪な展開は、私が弱ったタイミングをバルロスが狙おうとすることだ。そうなってしまえば勝ち目がない。一方的に蹂躙されて終了。


であれば、先にこちらから戦いを申し込んで、真っ向勝負に持ち込んだほうがまだ勝率はある。その方がシンプルで私好みだし。


立ち塞がる壁は手っ取り早く破壊するに限る。あとはバルロスがくるかどうかだけど………。


「デカイ口叩くじゃねぇか。テメェのその眼、確かに悪くねぇ力だがコントロールが不十分だろ」


「っ………………」


魔力炉はほんの一瞬しか使わなかった筈だが………なるほど。これが傭兵の観察力というわけか。まさか先程の動きだけでそこを見抜かれるとは。


内心驚きつつも、私は表情を崩さない。自慢のポーカーフェイスでバルロスの返答を待つ。


「………賭けの内容はどうするつもりだ?」


「私が勝ったらさっきの『劣等種』って言葉を訂正して。あと、金輪際私を妨害しようとしないで」


「で、俺が勝てばテメェはもちろん冒険者を辞めンだよな?」


「そうだね。辞めるし直ぐに荷物をまとめてこの都市から出てくよ。それに二度と戦わないって誓う」


「………へぇ」


もう勝利した気でいるのだろう。私の言葉を聞いたバルロスはニヤリと笑みを浮かべた。


「その条件でノッてやる。なんならテメェが勝てば俺のポイントを全部くれてやろうか?」


「いらないよそんなの」


たしかにポイントを得る事は大事だが、今回に限っては余分な物だ。


なぜならこれは私の意志を証明する戦い。バルロスのプライドをへし折って、私が冒険者を目指すのを認めさせられるならそれでいい。


なによりコイツ、ミーシャやエールさんの事も含めて侮辱しやがったからな。一発ぶん殴ってやるのが最優先だ。


「それじゃあ明日の朝『闘技場』で」


「ハッ、女如きじゃ届かねぇ圧倒的な力の差を教えてやるよ」











――――――


「「はぁ!?あのバルロスと喧嘩だぁ!?」」


「正気ッスかシャロンの姉御……!?」


どよめきが室内を包み込む。バルロスとの話を終え部屋へと戻った私は、ルームメイト達に先程の件を伝えた。


ダンさんとオロイさんは大声をあげ、カニス君はドン引きといった様子で目を丸くしている。


「正気も正気だよ。っていうか、最初にふっかけてきたのは向こうだし」


「いやいや、喧嘩つってもよーシャロンちゃん。あいつだけは本当に別格なんだぜ。なんせギルドに入った初日にA級冒険者を何人も倒したバケモンだ……ぶっちゃけ、俺等見習いがどうこうできるレベルじゃねぇよ……」


ダンさんからの忠告。

その表情はいつになく曇っており、私の身を心から案じているのが伝わってくる。


けど、戦うのはもう決まったことだしなぁ……。仮にこの戦いから逃げてたとして、次は四六時中狙われるだろうし。


まぁその辺の細かな経緯は伝えないでおこう。話がややこしくなる。


「たしかにダンさんの言う通り、バルロスはかなり強いと思うよ。めっちゃムキムキだったし。それにスキルも不明だからぶっつけのアドリブ力が試される。加えて、傭兵としての実戦経験もあっちが上だ」


「………そ、それならよぉ……やっぱ棄権しようぜ…。今ならまだ間に合うかもしれねぇし……」


「今回ばかりはそうもいかないんだよねぇ〜。私もまぁ、勝手に背負っちゃってるもんがあるからさ」


そう、これは私だけの戦いではない。人の強さは性別なんぞに左右されないとバルロスに示し、発言を撤回させる。私の大切な人達を愚弄した事への意趣返しでもあるのだ。


この戦いだけは、「女」という肩書を背負わせてもらおう。


告白する。

正直私は、バルロスの言い分にかなりムカついたのだ。


「ってなわけだから、みんなも明日応援しに来てね」


「了解ッス!」


「お、おい……カニス……」


「そうだぜ……応援つってもよ……」


平然と頷くカニスを見て、ダンさんとオロイさんが狼狽える。


まるで狂人にでも会ったような戸惑いっぷりだが、それもそのは

ず。なにせ他人の目線から考えれば、自ら負けに行くようなもんだからな。


それにダンさんとオロイさんは、私がどれだけ戦えるのかを噂程度にしか知らない。


この場で私の力を理解しているのは、使い魔のハンゾウを除けばカニス君くらいだろう。


二人の反応を受けたカニス君は、一度私の眼を真っ直ぐ見てから、ダンさんとオロイさんへ向き直る。


「ジブンは姉御が負けるとは微塵も思ってねぇッスよ。そりゃあ最初に話を聞いた時は『どれだけトラブルメーカーなんスか』って呆れたッスけどね。けどまぁ、ジブンは姉御のそういう所を尊敬してるっつーか……ぶつかった壁を嬉々として壊すのがカッケーっんスよ。姉御は。だから心配する必要は微塵もねえッス」


え、呆れられてたの私?と思ったが、ここは口を挟まないでおこう。大人のレディだからね。空気くらいは読めますとも。


「………………」


「………………」


互いに沈黙のまま目を合わせるダンさんとオロイさん。

しばらくして、二人は通じ合うように頷いた―――。


「「よっしゃぁぁ!!それなら俺等も腹をくくるぜ!!!!」」


両者ともに肩を組み合い、その場にガタッと立ち上がった。


先程までの空気が嘘のよう。なにやら吹っ切れた様子で今にも飛び出しそうな勢いだ。


「あのー……これから戦場に行くみたいな雰囲気だけど、戦うのは私だからね?」


「いーや!!俺等も心はシャロンちゃんと一緒に戦うぜ!!」


「そんで、もしシャロンちゃんが負けるような事があれば、次は俺等がバルロスの野郎をぶっ飛ばしてやる!!!!」


「おっ、いいッスねそれ。ジブンもそうするッスよ姉御」


え、えぇーー……余計にプレッシャーなんですけど……。

なんか、さらに勝たなきゃいけなくなってきたぞ……。


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