おまけ(35) 【ルーン視点】ロセフラーヴァからの連絡
本日はコミカライズの更新日です!
前回、ソルジャーアントの群れを前に「私が行く」と宣言したユウさん。
さて今回は…?
是非ご覧ください!
…というわけで今回のSSは、お久しぶりのルーン視点。
ケットシーしか出てきません。ひたすら会話してます。
もっふい姿を想像しながらご覧ください。
《よう兄弟! 元気にしてるかー!?》
突然頭の中に無遠慮な念話が響き、俺は出窓から転げ落ちそうになった。
麗らかな午後の日差しが差し込む、冒険者ギルド小王国支部の受付ホール。入り口横の出窓は、この時間、絶好の昼寝スポットになっている。
だから今日も今日とて、気持ちよく昼寝を決め込んでいたのだが──色々台無しだ。
《あれ? おーい、聞こえてるかー?》
見渡す限り、周囲には誰もいない。エレノアは書類を片付けに奥の事務所へ、ノエルは夕飯のための買い出しに行っている。ギルド長のカルヴィンも冒険者の面々も、今頃それぞれの請け負った依頼をこなしているはずだ。
それ以前に、頭の中に響く独特の感覚は、普通の念話ではない。だからここに念話の発信源がいるはずがない。
いっそ無視した方が平和なのではと半ば本気で考えていると、聞き捨てならない単語が聞こえた。
《おーい、返事しろよ、弟!》
《弟じゃない! 俺が兄!!》
ブワッと背中の毛が総毛立ち、念話で叫ぶ。するとすぐ、ケラケラとわざとらしい笑い声が返ってきた。
《なーんだ聞いてんじゃないか! 無視とは躾がなってないな、ルーン!》
《うるさいよ弟。大体、躾がなってないって言うならもれなくお前だってそうだろ、アル。母さんは兄弟に差をつけなかったんだから》
俺の同腹の兄弟、アル。俺と同じ金色の瞳に、俺とは真逆の真っ白い被毛のケットシーだ。
とはいえ、目の前には居ない。
この念話は、特定の条件を満たした者同士だけが使える遠隔念話──遠く離れた相手と会話ができる、特別な念話なのだ。
正直、アルは神経を逆撫ですることしか言わないし、遠隔念話なんか使えなくていいのにと心の底から思ってるんだが。親兄弟は例外なく対象になるんだよな…。
ちなみに、お互いがお互いのことを『弟』呼ばわりしているのには理由がある。
その昔、どっちが兄かで喧嘩になり、決着がつかなかったからだ。同腹の他の兄弟に止められ、母には「どっちを先に産んだかなんて覚えてないわよ、大変だったんだから」と至極もっともなことを言われて、そのまま有耶無耶になった。
決着がつかなかったと言うより、今もその喧嘩が続いている、と表現するのが正確かも知れない。
とにかく、俺が兄だ。身体は俺の方がちょっとだけ、ほんのちょっとだけ小さかったけど、独り立ちするのは俺の方が早かったんだから。
《──で、何の用》
不機嫌なのを隠さず用向きを訊ねると、アルはけろりとした様子で返事をした。
《いやなに、たまには兄弟の声でも聞こうかな、と》
《念話、切るぞ》
《待て待て冗談! こんな昼寝するのに最適な時間帯に、何の用もなく遠隔念話なんか使うわけないだろ?》
それはもっともだ。が──
違和感に気付いて、俺は眉をひそめた。
《……ユライト王国の王都は、まだ午前中だろ?》
俺たちが生まれたのは、ユライト王国の地方都市。小王国よりずっと西にある、そこそこの規模の街だ。
母親の庇護を離れて独立した後、俺は東へ向かい、小王国に流れ着いた。
アルは遅れて独立し、俺とは逆、西に向かって、最終的にはユライト王国の王都に居を定めたと聞いている。すっげーヤツと友だちになった、と一時期うるさく遠隔念話で自慢していた。
そのユライト王国の王都は、ユライト湖の西岸だ。
大陸をほぼ横断する勢いの巨大湖の、東と西。小王国の首都アルバトリアとユライト王国の王都では、時差がある。今頃、ユライト王国の王都はまだ午前中のはずだ。
まあケットシーだから、午前中から昼寝をしていても、全く、欠片も、おかしくはないが、最適の時間帯とは言い難い。
俺が鼻にシワを寄せると、ははっとアルが笑った。
《気付いたか! 実は今、友人の手伝いでロセフラーヴァの街まで来てるんだよ!》
《はあ!?》
《俺にしかできない仕事があってなー。いやー人気者はつらいぜ》
無駄に胸を張る真っ白なケットシーの姿がリアルに思い浮かぶ。なんかムカつくな。
《あーそう。はいはい。で、本題は?》
さっさと終わらせようと決意して話を本筋に戻すと、アルはちょっと真面目な雰囲気に戻った。
《お前、今は冒険者ギルド小王国支部に居るんだよな?》
《まあ一応、ナワバリの一部が小王国支部だし》
小王国支部に、いるのではない。俺のナワバリの中に小王国支部が組み込まれている。そこは間違えないでもらいたい。
俺が強調すると、あーはいはいと心底どうでもよさそうな相槌が返ってきた。何だよ、訊いてきたのはそっちのくせに。
《──でな、そっちの支部に、ユウとシャノン、っているだろ?》
出てきた名前でピンときた。アルは今、冒険者ギルドロセフラーヴァ支部にいるらしい。
《新人冒険者のユウと冒険者見習いのシャノンだったら、確かにこっちの所属だぞ》
《おっ、そうそうそいつら》
肯定すると、アルはホッとしたように話を続けた。
《でまあ、シャノンはいいとしてだ。──ユウって、召喚された日本人じゃないか?》
《む》
疑問の形を取っているが、ほぼ確信しているような言い方だった。
俺は少々答えに迷う。初めて会った時、召喚されたとは吹聴しない方がいいとユウに忠告したのは俺だ。いくらアルが兄弟だからといって、ユウが言っていないことを俺が伝えるのは流儀に反する。
そんな迷いを見透かしたように、アルの笑い声が響いた。
《まー言えねぇか! 分かった! ──ちなみに今、こっちには俺と一緒に冒険者ギルドサブマスターのマグダレナが来てるんだが》
《は!? サブマスターって『銀の秘蹟』──いや待て一緒にって何だ一緒にって》
情報量が多すぎる。
冒険者ギルドのサブマスターといえば、冒険者ギルドの創設者の一人。魔法を極めて不老となった、伝説級の魔法使いだ。
小王国では、冒険者ギルドの創設者というより、召喚魔法の開発者、そして建国の英雄の一人と言った方が通りがいい。
建国の勇者コテツは、マグダレナの導きで勇者となった──と、言われている。
禁足地の石碑に書かれた文章を読む限り、そんなお綺麗な話ではなさそうだが。
とにかく、その伝説級の魔法使いが、ロセフラーヴァ支部に来ている。しかもアルと一緒に。
《……お前、王都で友だちになったって、マグダレナのことだったのか…》
《ははは、驚いただろ!》
驚いたというより呆れの方が大きいが、アルには伝えないでおく。
…アルのことだから、どうせ美味しいものを求めて変な所に入り込んでマグダレナに捕まったとか、そんな感じだろうな…。
《つってもまだ表立っては動いてないけどな。マグダレナは変装して入り込んでるし、俺もコソコソ動いてるし》
《何してるんだよ……ああいや、説明しなくていいや。面倒そう》
《何だよ、ノリ悪いなー》
説明したかったらしい。止めて正解だった。
まあいいや、と呟いたアルは、再度、ちょっと真面目な雰囲気になった。
《それでな、ユウってやつがどこまで使えるのか──どういうヤツなのか、教えてほしいらしい》
らしい、ということはこれはアルの興味ではなくマグダレナからの要請だろう。俺は1回伸びをして、姿勢を正す。
《端的に表現するなら、小王国の固有種のゴーレムをウォーハンマー一振りで粉砕できる主婦》
《いや何だそれ。そんな主婦がいてたまるか》
《いるんだよ……あああと、規約とか法律とかやたら読み込んでるぞ。多分ほとんど覚えてるんじゃないか?》
元々ユウは仮眠室に泊まっていて、夜、暇を持て余して資料室の本を読み漁っていたのだが、ロセフラーヴァ支部に出発する前、小王国支部2階の資料室でギルドの規約と小王国の法令集を端から端まで確認していた。
曰く、必要ないならないでいいが、覚えておいた方が何かあった時に便利だから、だそうだ。それに触発されて、シャノンも一緒に勉強していた。
俺が証言すると、ははあ、とアルが感心したように呻いた。
《野生の勘でも働いたのか? すげぇな》
《野生の勘?》
《あーまあ、その事前準備が大いに役立ってたとだけ教えとく》
予定通りなら、今日は新人研修2日目。まだ座学のはずだ。そこでギルドの規約と法律の知識がどう役に立ったのか、聞きたいような聞きたくないような。
…何か、ものすごく嫌な役立ち方をしてそうだな。
《じゃあ、性格の方はどうだ?》
《基本的には真面目な常識人でお人好しでお節介、ただし理不尽には躊躇なく屁理屈と物理で対抗するパワー系》
《…なあそれ、本当に同一人物のことだよな?》
《もちろん》
肯定した後、俺はぼそりと付け足した。
《あと、ものすごいケットシー好きだな》
《ケットシー好き?》
《ケットシーの腹に顔面を埋めてきて、顔に肉球を押し付けると「ご褒美ありがとうございます」とか恍惚とした表情で言うタイプ》
《ああ、そっちの変態か》
それで通じてしまうあたり、多分アルも似たような経験があるのだろう。
《…で、ユウはそっちで何をやらかしたんだ?》
俺が訊くと、アルの呆れた声が返ってきた。
《やらかす前提なのかよ》
《性格を考えたら当然だろ。ロセフラーヴァ支部も何か色々あるみたいだし》
《あーまあなぁ…》
そもそも、冒険者ギルドサブマスターのマグダレナが『変装して入り込んでる』時点でお察しってやつだ。多分、査察とかそういうやつだろう。それも、結構ヤバい方の。
そんな予想を立てていると、アルがお気楽な口調で言った。
《うーん…そうだな、とりあえずこっちのギルド長には面と向かって啖呵切ってたぞ》
《は?》
《研修の妨害、やれるもんならやってみろってな》
…研修の妨害?
新人研修は冒険者の義務なわけで…それをギルド長に妨害されかねないってことか? なんで?
頭の中を疑問符が埋め尽くす。
《いやー格好良かったぜ! あんなのが新人とか、小王国支部も大変だなー!》
まあ詳細は秘密だけどな! と笑うアルは、これ以上の情報を提示する気はないらしい。腹立つな。
《心配すんなって。マグダレナはユウたちのこと、結構気に入ってるみたいだからな。悪いようにはしないだろ》
《…だといいけど》
それもアルの推測にすぎないわけで、マグダレナの人となりを知らない俺には不安しかない。
その後、じゃーな! という陽気な挨拶と共に、遠隔念話が切れた。
俺は改めて伸びをして、溜息をつく。
…今の話、みんなには内緒にしておこう……。
さり気なく小王国支部の仲間たちへの気遣い…らしきものを見せるルーン。
何の解決にもなってませんが、ほら、下手に不安を煽るよりは…ね!(何)
…さて。
改めまして、本日はコミカライズ第15話その①の更新でしたね!
みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?
そしてコミック2巻はお手に取っていただけたでしょうか…!
今回更新分の原作者的イチオシポイントは、
・「おっ よく知ってるな」からのジャスパーの流れ(ノリ突っ込みw)
・「全部倒せばいいんでしょ」のユウさん(ユウさん格好良いー!!)
・豪快に薙ぎ払うユウさんと躊躇なく魔法をぶっ放すシャノン&ユリシーズ(女性陣の恐ろしさよ…)
・パコン!で終わる女王アリ(一撃必殺!)
・初登場、キャロル&バリー(キャロルが可愛い! バリーが苦労人の雰囲気!)
…です!
今回の見せ場は何と言ってもソルジャーアントの群れに突っ込んで行くユウさんですね。
ウォーハンマーのリーチの長さを活かした豪快な戦い方。そりゃあみんなに「そこから動かないで」って言いますわ…だって敵味方区別できないもんな、打撃武器じゃ。
そして何気に初戦闘のシャノン、滅茶苦茶頑張ってます。キリッとした表情が可愛い!素敵!
ユリシーズはまあ…ユリシーズなので!(笑)
一方で、ひたすら唖然としている今回の変顔要員ことジャスパーとフェイ。良い味してます。いいぞもっとやれ。
…というわけで、「はあ!?」とキャロルとバリーが叫んだところで、次回更新は4月28日の予定です。
好評発売中の小説1巻&コミック1巻・2巻、
そして絶賛Web連載中のコミカライズ!
みなさま、引き続き応援よろしくお願いします!




