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おまけ(36) 【マグダレナ視点】ロセフラーヴァ支部ギルド長の疑惑

本日はコミカライズの更新日です!


前回、豪快にソルジャーアントを殲滅したユウさんたち。

しかし、新人研修が平和に終わるはずもなく…?

是非どうぞ!


さて、今回の小話はマグダレナ視点。

少し時を遡り、彼女が行動を起こすに至った経緯を少々。


それではどうぞ。




「マグダレナ様、ご相談が」


 低く雲が垂れ込める、ある日。

 冒険者ギルド本部の私の執務室に、ノックの音が響いた。


「どうぞ」

「失礼いたします」


 キビキビとした動作で入ってきたのは、本部職員の一人。表向きはただの一職員にすぎないが、その実態は私の直属の部下、内偵員の一人だ。

 難しい顔をしている時点で、何か問題が発生したことは明らかだった。私は部下にソファーを勧め、対面に座る。


「それで、相談とは?」

「──こちらを」


 部下が差し出したのは、1枚の書類だった。本部内に常設されている投書箱──職員から様々な意見を募るための箱に入っていたという。

 それにざっと目を通し、私は思わず呻いた。


「……これは、どういうことでしょう」


 眉間に深いシワが寄るのを止められない。

 私に負けず劣らず渋面になった部下が、書面通りです、と生真面目に返してくる。


「昨年の本部職員採用試験での不正。ロセフラーヴァ支部支部長のエイブラムのご息女は、試験問題を事前に入手し、筆記試験を不正に突破した可能性があります」


 確かに、書面にはそう書いてある。これはいわゆる内部告発文書だ。


「…証拠は、ありませんよね」


 私は辛うじてそう呟いた。

 試験問題が流出したのが事実だとしても、もう1年近く前の話だ。この告発文だけでは処罰するにも根拠が薄い。

 何より、正直、こんな面倒なことにかかずらっている暇はない。


 私は冒険者ギルドサブマスターだが、このユライト王国の魔法師団の顧問も務めている。

 今日は冒険者ギルドにいるが、明後日からは国王の外遊に同行するため、1ヶ月ほど不在になる。できればこの話、聞かなかったことにしたい。


 だが、部下は非情だった。


「証拠も何も、彼女の仕事ぶりを見れば誰の目にも明らかでしょう。筆記試験を高得点で突破したとは思えぬ言動ばかりですから」

「……」


 …そう。そうなのだ。


 ロセフラーヴァ支部支部長エイブラムの娘、鳴り物入りで本部に採用された新人職員は、半年も経たないうちにお荷物として扱われるようになった。

 理由は簡単。仕事をしない、やってもまともにできない、ミスや失敗をすぐ他人のせいにする、そもそも知識も常識も判断力も自制心も足りていない──有り体に言えば、我儘な子どもが大人の皮を被っているような女性だったからだ。


 いや、訂正しよう。あれを子ども扱いしたら、今時の子どもたちに失礼だ。昨今の子どもは大人をよく見ていて、判断力もあるし常識もある。


「マグダレナ様、そろそろ行動に移してもよろしいのでは?」


 部下が期待の眼差しを向けてくる。

 彼はあの問題児と同じ部署に所属しているから、直接的な被害も(こうむ)っているのだろう。実際気の毒ではあるし、このままでは全体の士気にも関わる。


「──そうですね…」


 私は机に肘をついて胸の前で手を組み、考える。


 ……そういえばこのポーズ、昔コテツに「悪の幹部とか怪しい重鎮がよくやるやつ」と笑われましたね…。

 思わず現実逃避しかけて、無理矢理思考を戻す。


 職員採用試験の問題が流出したのなら、まずこの本部の中に試験問題を盗み出した下手人がいるはずだ。だが、一人一人聞いて回るわけにもいかないし、そんな輩が簡単に尻尾を出すとも思えない。本部の内部を調査するのは当然として、他のルートも当たらなければ。


 となると…


「──では、貴方にはロセフラーヴァ支部での調査を命じます」

「……は」


 部下がぽかんと口を開けた。


「あちらに試験問題そのものが残っている可能性があります。それを探してください」

「なるほど、承知しました」


 具体的な指示を出すと、部下はすぐに頷いてくれた。流石は私の直属だ。


「──実際に試験問題を不正入手したのは、娘ではなく父親の方でしょう。そんな輩が、真っ当にギルド長の仕事をこなしているとは思えません。エイブラムの素行、及びロセフラーヴァ支部の現状についても調査してください」


 エイブラムは本部職員からロセフラーヴァ支部の支部長──ギルド長になったという、異例の経歴の持ち主だ。本部にいた頃は真面目に職務に励んでいたが、別の支部の立ち上げに関わったことを高く評価されてギルド長に就任して以降、あまり良い噂は聞かない。


 私はにっこりと笑みを浮かべた。


「証拠が揃えば親子共々放逐。揃わなくても、釘を刺すことくらいはできるでしょう。──期待していますよ」

「はっ!」


 部下の額に冷や汗が浮いていたのを、私は見なかったことにした。





 ロセフラーヴァ支部の内偵は、思いのほか難航した。


 部下を長期休暇扱いにしてロセフラーヴァの街に向かわせ、ロセフラーヴァ支部の採用試験を普通に受けさせて、内部に送り込む。そこまでは順調だったのだが、以降、なかなか調査が進まない。エイブラムは予想以上に守りが堅かった。

 自分の息のかかった職員で周囲を固め、重要書類はその中で完結するよう配備。さらに、ギルド長権限で各職員が出入りできる部屋を指定する。


 新人職員として入った私の部下は、重要書類が保管された部屋などには入れない。加えて、一般職員はエイブラムの権力を恐れているため、不正の証言がなかなか集まらない。


 一般職員と信頼関係を築くまでお待ちを、と部下は報告していたが…調査開始から半年と少し、私は自分の仕事が一段落したところで、行動を開始した。


「冒険者の登録手続きをお願いします」


 偽装魔法で髪と目の色を変え、いかにも新人冒険者風の姿になると、私は冒険者ギルドロセフラーヴァ支部の受付カウンターの前に立った。


「…っ、しょ、承知しました」


 奇しくも、目の前に受付担当として立っているのは、潜入捜査を任せている直属の部下。

 どうやら、顔立ちと声で私だと気付いたらしい。観察眼は素晴らしいが、対応はギリギリ及第点、といったところだろうか。…顔が引きつっていますよ。


「それでは、こちらの書類に記入をお願いします」


 差し出された『冒険者登録申請書』に、適当な情報を書き込もうとして、私はペンを持つ手を止める。

 ……名前……


 流石に『マグダレナ』ではばれるだろう。一応、エイブラムは私の顔を知っている。名前が同じだったら、顔を確認しようとするに違いない。この支部の現状を探るために来たというのに、エイブラムに目を付けられては本末転倒だ。


「…」


 部下が固唾を呑んで見守る中、私は記憶の中から当たり障りのない名前を探す。


 …そういえば、コテツが教えたくれた『あちらの世界』の話の中に、面白いものがあった。

 戦争中の要塞都市の外に巨大な木馬を置いて敵にそれを街の中に持ち込ませ、頃合いを見計らって木馬の中に潜んでいた兵士が内部を蹂躙するとか…そういう話だった気がするが。


 確か、主人公の名前は──


「これでお願いします」


 さらさらと書き上げた書類を提出する。受け取った部下が、頷きながら眉をひそめた。


「──はい、ユリシーズさん、ですね。承りました」


 聞いたことのない名前だろう。ありきたりな名前だと自分のことだと認識できそうにないので、これでいい。


 手続きを終えて一旦外に出ると、目の前に小さな影が着地した。


《よう! 終わったな》


 白い毛並みが美しい、金色の目のケットシー。私の友、アルだ。

 数年前に王都の立ち入り禁止区域で出会い、以降美味しいご飯を提供する代わり、その能力を活かして様々なことに協力してくれている。


 今回は潜入調査の助っ人として、一緒に来てもらった。


「ええ、無事に済みました」

《さっすが()()()()()だな》


 アルがピンとヒゲを立てる。

 先ほど名乗ったばかりの仮名を知っているのは、彼もあの場にいたからだ。ただし、居合わせた人間は誰も気付いていなかった。


 非常に高度な隠形魔法。その気になれば音も気配も消せるケットシーの身体能力。アルは、下手な人間以上に、潜入に向いている。


《じゃ、景気付けにメシ食べに行こうぜ! あっちに美味い川魚料理を出す店があるらしいんだよ》


 食欲旺盛すぎるのが玉にキズだが。


「分かりました」


 私は苦笑して、アルの先導に従って歩き出す。


《そういえば、今回は丁度、小王国支部からも新人研修を受けに来る冒険者がいるらしいぜ。しかも2人、両方女だってさ。職員が言ってた》

「あら、珍しいですね」


 一体どこまで入り込んでいたのかは聞かないことにする。


 しかしこのタイミングで他支部の女性冒険者が新人研修を受けに来るとは、運がいい。女性が複数いれば、注目を浴びる可能性も低くなるだろう。

 目立たず、当たり障りなく、しかししっかりとこの支部の現状を把握する。そしてアルには、支部内の立ち入り禁止区域で物証を探してもらう。それが今回の潜入調査の目的だ。


 …それにしても、小王国、ですか。


 かつて、ユライト王国の王子の一人が王都を出奔し、ユライト湖の東岸、特に利用価値はないとされていた湿地帯に居を定め、ユライト王国から分離独立する形で国を造った。それが、大まかな小王国の成り立ちだ。

 そこに多くの者の苦労と心労と労力が費やされていたことは、あまり認知されていない。


 特に、建国の勇者コテツと讃えられている異世界人の苦労は全て『輝かしい』伝説に塗り替えられ、彼自身の真実はほぼ残っていないのが現実だ。召喚魔法の開発者として、小王国の建国に関わった者として──その国名を聞くたびに、何とも複雑な気持ちになる。


 同じタイミングで新人研修を受けることになる小王国支部の冒険者とは、どんな者たちだろうか。…小王国の初代国王のような輩ではないといいのだが。


 そんなことを思いながら、私はアルの後を追う。



 ──私が、小王国支部のユウとシャノンに出会うのは、それから3日後のことだった。










コネ就職でもね、ちゃんと仕事してればよかったんですよ…仕事してれば………



…さて。


改めまして、本日はコミカライズ第15話、その②の更新でしたね!

みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?


今回更新分の原作者的イチオシポイントは、


・屁理屈をこねるガルシアに正論で返すユウさん(ノリツッコミのジャスパーが良い味してます(笑))

・救出方法について真面目に議論するバリーとキャロル(この2人もベテランなんです…活躍の場はユウさんたちに取られちゃったけど…)

・不合格に動揺する周囲と冷静なユウさん(ユウさんの肝の据わり方がよく分かりますね…!)

・「誰が誓うか」のユウさん(ユウさん格好いいー!)

・出現! ロリば……ゲフンゲフン、マグダレナ様!(出たー!!)


…です!


今回のハイライトは何と言っても、ユウさんの啖呵と「辞めるのは貴方の方です」からの流れですね。

エイブラムの勧誘を断った時はわりと冷静でしたが、今回は嘲笑してスパッと切り捨てる方を選びましたユウさん。

琴線に触れたってやつですね。だって言い草がどこぞの浮気野郎と一緒でしたからね。その場で机を叩き割らなかっただけまだマシです。ハイ。


そしてとうとう出現しました、マグダレナ様!

ユリシーズのデザインを踏襲しつつ、明らかに普通じゃない雰囲気を醸し出しております。可愛い。怖い。だがそこがいい!


ちなみに小ネタですが、ユウさんよりマグダレナ様の方が身長は高いです。あと胸もありま(殴)


…ゴホン。



というわけで、な、なんだってー!?となったところで、次回更新はゴールデンウィーク明け、5月12日(火)の予定です。


絶賛発売中の小説1巻とコミック1巻&2巻、

そして絶賛Web連載中のコミカライズ!

みなさま、引き続き応援よろしくお願いします!



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