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おまけ(33) 【盗人視点】保冷庫の罠

本日はコミカライズの更新日です!


前回、ロセフラーヴァ支部のギルド長、エイブラムに喧嘩を売ったユウさん。さて今回は…?

是非ご覧ください!


…というわけで、今回の小話はロセフラーヴァ支部の不良冒険者、エルヴィス視点。

こやつ、一応名前はついておりますが本編ではちょい役でした。ガルシアのパーティメンバーで、76話、突発的カレーパーティのやられ役ですね。

その前に実はヒイロコガシおにぎりを食べていたわけですが…それを本人視点でご覧ください(笑)





「……腹減ったな」


 受付ホールのテーブルに陣取り、俺はぼそりと呟いた。


 冒険者ギルドロセフラーヴァ支部は、この辺りでは最大規模の支部だ。所属冒険者は多く、ギルドの受付には食堂も併設されている。

 とはいえ、そのメニューはありきたりで、毎日食べていると飽きてくる。街に繰り出せば食堂はいくらでもあるが、大体はギルドの食堂より高くつく。


 できるだけ楽して稼ぐために冒険者になった俺としては、安くて美味いものをたらふく食いたい。タダならなお良し、ってやつだ。


「また食いに行くか? エルヴィス」


 対面に座るパーティの仲間、ビルがにやりと笑った。


 どこへ、などと聞く必要もない。俺は口の端を上げて頷き、連れ立って席を立った。

 受付の横から、奥の冒険者共用のキッチンへ入る。金を払えば調理器具一式を借りられるらしいが、この支部にそんな面倒なことをする奴はいない。目的は一つ──そこに常設されている、大型の保冷庫だ。


 今日は新人研修が行われている。ギルド職員の案内に従って、ここに昼メシを保管している新人も多いはずだ。

 …この支部の職員も大概だよな。ここに入れた物は先輩冒険者に食われるって分かってて、わざわざ誘導するんだからよ。


 別にこれは盗みじゃない。ロセフラーヴァ支部の伝統だ。俺たちも新人の頃、痛い目を見た。

 だから、ベテランになった今は俺たちが世の厳しさを教えてやっている。

 といっても、ただ痛い目に遭わせるだけじゃない。昼メシを食わせてもらった代わりに、上手い依頼の受け方や冒険者ランクの楽な上げ方を教えるって寸法だ。親切だろ?


「…おっ」


 保冷庫の扉を開けると、3つ、包みが入っていた。それぞれ、『ユウ』『シャノン』『ユリシーズ』と書かれた木製のタグがついている。


「思ったより少ないな」


 新人同士で、情報交換でもしているんだろう。最近は小賢しい新人も増えたと聞いている。


「ま、3つあれば十分だろ」


 一応、入口ドアの鍵をかけて、調理台の上に保冷庫から出したものを並べる。それぞれ柄の違う布に包まれていたが、一つは木製の箱、残り二つは大きな葉で巻かれた何かだった。


「……何だこりゃ?」


 葉を開いたビルが、思い切り眉を寄せた。そこに入っていたのは、白い粒状の物の塊が3つ。


「…これ、米だよな? 食えるんだよな?」


 完全に引いている。だが俺には、その物体に心当たりがあった。


「これ、おにぎりってやつだろ。米の中に具材を入れて成形するっていう」


 ロセフラーヴァの街でも、少数派だが米を出す店はある。ただし、この形──三角形の塊の形で売っている店はほぼない。


「確か、小王国じゃよく食べられてるはずだ」


 贅沢品ではなく、庶民の食べ物。多分、昨日小王国の支部から来て、ウチの受付職員と揉めたっていう新人冒険者の弁当だろう。なら、遠慮は不要だ。

 残る木箱を開けると、中身はサンドイッチと唐揚げだった。こっちはロセフラーヴァの街でもお馴染みの構成だ。ビルが目を輝かせる。


「唐揚げとは分かってるじゃねえか!」

「おい待て、山分けだ山分け。1人2つな」

「おう!」


 まず唐揚げを平らげ、サンドイッチを堪能する。キュウリとハム、卵ペースト、そしてベーコンとトマト。なかなかに美味い。


「いい趣味してんなあ。明日も期待できそうだ」


 ビルが相好を崩して言い放つ。俺も深く頷き、大きな葉の上に鎮座する白い塊を手に取った。


「…で、こっちはどんなもんだろうな」


 思い切って口に入れると、まず感じたのは塩気。次いで噛み締めると、微かな甘さが広がる。

 思わず咀嚼(そしゃく)回数が多くなる。気が付くと、次の一口が欲しくなる。

 一気に一つ平らげて、俺は首を傾げた。


「……何も入ってなかったな?」

「なんだよ、具材なしかよ!」


 ビルの方も同じだったらしい。悪態をついているが、しっかり一つ食べ切っている。塩だけなのに何だこの美味さは。


「…まあ、食えるは食えるだろ」


 言い訳じみたことを呟きながら、2つ目に手を伸ばす。


 頬張った瞬間、さっきとは違うことがすぐに分かった。

 香ばしい香りと共に、ほろほろとした食感で甘じょっぱい何かが口の中に入ってきた。それが、米と合う。むしろ米と合わせるためだけに用意された具材、という感じだ。何だ、これは。


 咀嚼しながら手元にあるおにぎりを見ると、真ん中に茶色いものが入っていた。どうも、肉っぽいが…初めて食べる味なのに、滅茶苦茶美味い。


「……うっまー!!」


 ビルが至近距離で叫んだ。気持ちは分かるがうるさい。


「なんだこれ!? さっきのと別物じゃねーか!」


 ガツガツ食い切ると、即座に3つ目に手を伸ばす。

 俺も慌てて2個目を口に押し込んだ。味わう暇がないのが勿体ないが、3つ目をこいつに取られるよりマシだ。

 そうして口に運んだ3つ目も、茶色い肉が入っていた。やったぜ。


 結果──3つ目のおにぎりも、あっという間になくなった。


「……すげえ……何だこれ」


 流石に3人分を2人で山分けしたら腹も膨れる。水を一気飲みしたビルが、心底驚いた顔で空になった包みを見遣った。


「こんなの持ち込むとか、詐欺だろ」


 それには大いに同意する。


「…明日も食えるかもな」


 俺が呟いたのは、ただの願望だ。

 美味い。美味すぎる。具の入っていないやつも美味いが、肉入りはたまらない味だった。見た目は白い塊で、食べてみるまで味が分からないのも良い。ちょっとしたギャンブルだ。


「……よし、明日も来ようぜ」


 真剣な呟きに、俺も真顔で頷いた。





 翌日。


 昼前に共用キッチンの保冷庫を開けると、そこには一つだけ、包みが置かれていた。

 3人中2人は、昼飯を食べられたことに気付いてここに保管するのをやめたらしい。残る1人は…なかなか図太い神経の持ち主のようだ。


「……『食べるな危険 ユウ』…か」


 包みに括り付けられている札の文字を読み上げる。ご丁寧に自分の名前まで書いて、必死さが見て取れる。

 だが、詰めが甘い。包みの形からして中身はおにぎりだ。どうせ、脅し文句は本当にただの脅しだろう。この程度で怯んでいたら、冒険者などやっていられない。


 ビルが鼻歌交じりに包みを手に取り、保冷庫の扉を閉めた。


「さーって、今日の具材は何だろうな」


 調理台の上で包みを広げると、中には昨日と同じように、米の塊が3つ──いや4つ、入っていた。


「おっ、これなら山分けできるな」

「おう」


 3つだったら争奪戦が起こるところだ。仲間内でそれは避けたい。

 俺は内心少しホッとして、端の一つを手に取った。ビルも反対側の端の一つを食べ始める。


「…む、今日のは具なしか…」


 ほんのり塩気があるだけで、具材は入っていない。だがまあ、これはこれで美味いから別に構わない。

 後で街の屋台で串焼きでも買うか。


 そんなことを考えつつ、2つのおにぎりを一気に食べ切り、包みの残骸をゴミ箱に放り込んで、俺たちは受付ホールに戻った。


「………ん?」


 異変は、その直後に起きた。


 手のひらに、ムズムズとした(かゆ)みが走る。と思ったら、それはあっという間に増幅し、ピリピリとした痛みまで感じるようになった。


「……!?」


 それだけではない。唇、喉、さらに体の中まで、次々に同じ感覚が──猛烈な勢いで襲ってきた。


「な、なんだこれ……っ!?」


 ビルも同じらしい。俺はたまらずその場に膝をつき、ぐげっとえづいて嘔吐する。


「何だ!?」

「なにやってんだ!」


 受付ホールに居合わせた冒険者や職員たちが声を上げ、ざっと退いた。が、俺には説明することができない。


 喉が焼ける。唇がわなわなと震える。

 喉を掻きむしり、手のひらを床に叩きつけ、それでも焼けるような痒みと痛みが引かない。むしろどんどん強くなっていく。


 ──()()()()()()


 包みについていた木札の言葉が、一瞬だけ脳裏に浮かんだ。

 ……そういうことか…!?


「──おい、どうした!?」


 馴染みのある声が聞こえた。必死に目を向けると、うずくまるビルに、うちのパーティのリーダー、ガルシアが駆け寄っている。


「何があった!?」

「ゆ、ユウってやつの、弁当、食べっ…!」


 声が半ばで途切れ、びしゃびしゃと吐く音がする。

 頬にその吐しゃ物が飛び、ガルシアはそれを手の甲で拭うと、殺気立った表情で立ち上がった。


「ユウ、だな…!!」


 ガルシアが階段を駆け上がっていく。

 それを見届け、俺は自分の吐いたものの横に倒れた。


 痒い。痛い。痒い、痛い、痒い痛い痒い痛い──



 あのおにぎり、マジで毒入りだったのかよ…!!



 口から泡を吹いて痙攣(けいれん)する俺たちを、周囲がドン引きしながら見詰めていた。









みなさま、『食べるな危険』って書いてあるものは食べちゃダメですよ!(迫真)



…さて。


改めまして、本日はコミカライズ第14話その①の更新でしたね!

みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?

そしてコミック2巻はお手に取っていただけましたでしょうか…!


今回更新分の原作者的イチオシポイントは、


・お名前登場! ユリシーズ! (ユリシーズです。ハイ)

・食べ物の恨み…! なユウさん(今回の顔芸)

・ドン引きするジャスパー、シャノン、ユリシーズ(そりゃなw)

・ガルシアとユウさんの体格差(すっごい大男なんですよ。ガルシア)

・メキョッといってそうなガルシアの腕(ユウさんの握力の勝利)

・倒れている盗人たち(食べるな危険、って書いてあったのにねえ…)


…です!


今回一番の注目は、しれっとお名前が登場しましたユリシーズと、初登場のガルシアですね。

ユリシーズは原作よりもさらに冷静沈着。よく周りを観察しているのが分かりますねぇ。流石は(以下自粛)

そしてガルシア。身長もさることながら、何とも分厚い筋肉です。そりゃあユウさんを片手で持ち上げられるってもんです。まあその後がアレですけども(笑)


ヒイロコガシおにぎりを仕込むユウさんの顔はきっと終始笑顔だったことでしょう。

食べ物の恨みは恐ろしいのですよ…。


…というわけで、盗人にサクッと復讐したところで、次回更新は3月24日(火)の予定です。


好評発売中の小説1巻&コミック1巻・2巻、

そして絶賛Web連載中のコミカライズ!

みなさま、引き続き応援よろしくお願いします!


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