おまけ(32) 【採点者視点】割に合わない仕事
本日はコミカライズの更新日です!
前回、いよいよ始まった新人研修。さて今回は…?
是非ご覧ください!
…というわけで、今回の小話はロセフラーヴァ支部の職員視点。
コミカライズの今回更新分とも繋がりがあります、新人研修の舞台裏です。
それではどうぞ!
新人研修は、各新人の知識量を把握する筆記試験から始まる。
問題用紙と解答用紙が別々に用意された形式の試験は、基本的な読み書き計算能力と冒険者としての一般常識を確認するものだが、新人冒険者には難しいと評判だ。
特に文章問題では読解力が試され、正答率はぐんと下がる。新人冒険者には学校に通った経験のない者も多いから、致し方ないことではあるが。
「回答が出揃いました!」
若い職員が、紙の束を抱えて事務室に入ってくる。
今回の受講者はそれなりに多い。小王国支部の新人と見習いも含まれているからだと聞いている。
「よろしくお願いします」
「ああ」
解答用紙の束を受け取ると、俺は改めて自分の席に座り直した。
新人研修の最初の筆記試験の問題は、3パターンしかない。答えは全て頭の中に入っているが、一応今回分の正答例も机の上に並べ、赤ペンを手に採点していく。
「……ふむ…」
今回の新人たちの正答率は、おおよそ7割といったところだろうか。可もなく不可もなく、いつもと同じくらいだ。後半の文章問題で途端に正答率が下がるのも同じ。──と、思っていたのだが…
「………お?」
最後の方に差し掛かると、1枚、ほとんどバツがつかない解答用紙があった。字も丁寧で読みやすく、真面目な性格が見て取れる。
名前は、シャノン。語感からして女の子のようだ。
「すごいな…」
1問だけ間違いがあったが、他は全て正解。間違っていたのは引っ掛け問題で、出題者が意図した通りの間違い方はむしろ好感が持てる。大変素直だ。
「どうした? ……って、すごいな、95点か」
同僚の一人が背後から解答用紙を覗き込み、感嘆の声を上げた。
新人研修の小手調べとはいえ、明らかに頭一つ、抜きん出ている。
声を聞きつけた他の職員たちも、何だ何だと集まってきた。
「へえ、やるなあ」
「…ってこれ…小王国支部の見習いじゃない?」
「え、じゃあ昨日来てたあのちっこい方か? 受付でケンカ売ってた」
「いや、その後ろでキョドってた方だろ。何か初々しかったし」
「あー、背の低い方は妙にスレてる感じだったもんなぁ…」
言いたい放題言っている。
俺はその姿を直接見たわけではないが、目撃した職員は結構多く、昨夜もこの部屋で話の種になっていた。
曰く、冒険者登録申請書を書かせようとしたらあっさり拒否されて、新人研修受講申込書を出せと要求された。
どうやら、登録申請書に記入すると支部を移籍することになると知っていたらしい。冒険者を騙す不届き者だと吹聴されたくなかったらさっさと正しい書類を出せと脅されたという。
まあそのあたりは完全に受付を担当した者の自業自得だろう。知っている者は知っているし、拒否されてもおかしくはない。
ロセフラーヴァ支部は万年人手不足で、冒険者の数を確保するため、少々危ういことをやる職員もいる。俺は裏方だからそういったことに縁はないが、受付担当は、ギルド長の指示で色々と手を回しているらしい。
出世には一番の近道だというが、正直この支部で出世してもあまり楽しくなさそうだと思う。
「──ああ、いたわね!」
そのギルド長お気に入りの古株職員、メラニアの声が響いた。
出入り口に立つ彼女の手には2,3枚の紙が握られていて、視線は明らかにこちらを向いている。周囲を囲んでいた同僚たちがサッと散り、自分の席へと戻っていった。
「これ、正答例の追加よ」
「……?」
立ち上がって紙を受け取りながら、首を傾げる。採点はもうほぼ終わっているのだが…追加とは何だ。
「一人だけ、違う問題を解いた新人がいるの。これはその正答例よ。これに則って、きちんと、厳格に、採点して頂戴」
「………分かりました」
念押しの声が重い。どうやらその新人は、メラニアに嫌われているらしい。
メラニアは俺に紙を押し付けるだけ押し付けて、さっさと部屋を出ていった。
すぐに席に座り、正答例とやらを確認する。
「……」
……どう見ても新人研修用の問題ではない。割引率など複数の要素を含んだ計算から、法律に絡んだ問題まで、幅広く複雑な問題が並んでいる。
当然、正答例も一筋縄ではいかない。文章で解答する部分もある。しかも、『ギルド職員としての志望動機』だのなんだのの項目があるところを見るに、恐らくこれはどこかの支部、あるいは冒険者ギルド本部の、職員採用試験の問題だ。
どこから入手したんだよ……何で新人冒険者にこんな問題出してんだよ……これを採点しろと……?
頭の中を、疑念と愚痴がものすごい勢いで通り過ぎていく。
深く深く溜息をついて、俺は赤ペンを手に取った。上の階では、新人研修の受講生たちが試験結果を待っている。ここで俺が悩んでいる暇はない。
正答例を机に並べ、次の解答用紙に移ると──丁度最後の一人、例の問題を解かされたと思しきものが出てきた。
最初の方は計算問題だ。答えが合っていればいいので、何も考えずに値だけで判断する。
が──俺はすぐに、ペンを止めざるを得なくなった。
解答欄には、ちゃんと答えが書いてある。が、そこにご丁寧に、『小王国の法律に準拠した場合』と但し書きがあるのだ。
名前を確認すると、ユウ、とあった。昨日受付を返り討ちにした、小王国の新人冒険者だ。
…どうも、それで一部職員の──というかうちのギルド長の逆鱗に触れて、無駄に難易度の高い問題を出されたらしい。
そんなことをするこちらもこちらだが、普通に採点者泣かせの解答をする新人も新人だ。
小王国の法律なんか知るわけないだろ……。
呻きながら改めて回答を見ると、但し書きの下に小さく『なおこの条件に該当する税率は◯◯』と、具体的な数字があった。
その数字が正しいかどうかは分からないが、一応現実的というか、それっぽい値ではある。
……これが正しいって前提で、計算するか……。
模範解答に使われている税率の数値は、また別だ。多分ユライト王国の税率だろう。つまりユウの計算が正しいかどうかは、俺が自分で計算してみないと分からない。
「……ああくそ」
新しい紙を出し、計算式を書き記していく。
計算問題なんかこの支部の採用試験以来だ。しかも、その時より明らかに複雑。何故こんな問題を平然と新人冒険者が解いているのか、全く理解できない。
「…おい、大丈夫か?」
様子に気付いた同僚が近付いてきたので、即座に俺が書いた紙を渡す。
「この計算が正しいかどうか確認してくれ」
「は? ……いや何だよこれ!?」
「新人冒険者の一人が解いた問題だ。前提となる数字が模範解答と違うから、計算しないと採点できない」
「誰だよこんな問題渡したやつ!?」
「メラニアだが」
「………うぁー……」
同僚の口から絶望感あふれる呻きが漏れた。
そのまま、肩を並べて計算をすること数十分。
俺はようやく、採点を終えた。
「………75点か…」
「なあこれ、本部職員の採用試験問題じゃないか? 75点だったら余裕で合格ラインだよな?」
「……だ、な」
認めたくはないが、問題の文言を見るにそうとしか思えない。
本部職員の採用試験は狭き門で、筆記試験も格段に難しいと言われている。
俺は挑戦したことはないし、問題文は本来外部に流出することはないので今まで見たことがなかったが……なるほど、半分正解すれば万々歳と言われるだけのことはある。
なお、25点分の失点は『問題に対する間違い』ではなく、志望動機の欄に「職員になるつもりはない。ふざけんな」といった意味合いの文章が書かれていたり、来歴の部分に「個人情報の開示には応じられない」と書かれていたりして、採点のしようがなかったからだ。
通常の計算問題や文章問題は全て正解だった。
「……これが、小王国の新人冒険者か……」
思わず遠い目になる。
冒険者じゃなくてギルド職員の方が向いてるんじゃないかと思うが、かなり苛立った様子の『志望動機』の回答を見るに、本人はそれを欠片も望んでいない。多分、売られたケンカを買っただけだ。
……末恐ろしいな。
「──採点は終わりましたか?」
図ったようなタイミングで、メラニアがやって来た。俺から解答用紙を受け取り、パラパラとめくって──
「…………75点?」
盛大に眉を顰める。
思い通りに行かなかったという顔だ。正直ざまあみろという感じだが、さて、この後どう出るか。
「……」
期待して待っていたのだが、メラニアは無言のまま、足早に事務室を出て行った。多分ギルド長のところに行くのだろう。
何となく予想はしていたが、こちらに労いの言葉も礼の一つもない。苦労して採点したってのに。
俺は溜息をついて、業務に戻った。
──この仕事、やっぱ割に合わないよな……。
巻き添えを食う採点者。いやこれ実際やられたら泣くんじゃないでしょうか。
こんな答案採点したくないなぁ……(笑)
さて。
改めまして、本日はコミカライズ第13話その②の更新でしたね!
みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?
そしてコミック2巻はお手に取っていただけましたでしょうか…!
今回更新分の原作者的イチオシポイントは、
・補足講義の追加もございます、のメラニア(明らかに誰かさんを意識してますねぇw)
・主婦舐めんな、のユウさん(兼業主婦の本領発揮)
・頑張ったシャノン(基準がユウさんなので彼女も色々おかしいんですが本人は気付いてません)
・「あの それって…」と呟く新人冒険者()(おやあ? この人物は……?w)
・初登場、エイブラム(イイ顔してます(笑))
・炸裂!ユウさん節!(売られたケンカは全力で買うスタイル)
…です!
今回の注目は何と言ってもエイブラムの前でのユウさんですね。
立て板に水、淡々と冷静に、でも中身は「上等だクソ野郎」的な感じ(笑)
服装と相まって滅茶苦茶格好いいんですよこれが。いいぞもっとやれ。
エイブラムの絶妙に胡散臭い笑顔といい、しれっと出てきた某新人冒険者()といい、注目ポイントが満載ですので、是非隅々まで、舐めるように、見てください…!
他支部のトップに売られたケンカを全力で買いつつ、次回更新は3月10日(火)の予定です。
好評発売中の小説1巻&コミック1巻・2巻、
そして絶賛Web連載中のコミカライズ!
みなさま、引き続き応援よろしくお願いします!




