おまけ(31) 【ジャスパー視点】小王国支部のギルド長はだいぶおかしい
本日はコミカライズの更新日です!
謎の新キャラ(笑)が出てきたところで終わった前回。
さて今回は…?
是非ご覧ください!
…というわけで、今回の小話はジャスパー視点。
時系列は少し前に遡り、小王国支部のギルド長、カルヴィンがロセフラーヴァ支部に来た時のお話です。
それではどうぞ!
「…小王国支部のギルド長の世話をしてほしい?」
ある朝、冒険者ギルドロセフラーヴァ支部の受付カウンターで告げられた指名依頼の内容を、俺はぽかんとしながら復唱した。
受付に立つ生真面目なギルド職員は、申し訳なさそうな表情で頷く。
「はい、ジャスパーさん。小王国に出没する魔物が固有種──新種ではないかという話が持ち上がっておりまして、その根拠資料として、小王国支部ギルド長であるカルヴィン様の鑑定魔法の結果を使用したいそうです。ですが、鑑定魔法の表示は個人の技量により差が激しく、まずはカルヴィン様の鑑定魔法が正しいということを証明する必要がある、とのことで…」
鑑定魔法は、かなりレアな魔法だ。
元々は小王国の王族だけが使える特殊な魔法だったらしいのだが、今では平民でも、使える者はいる。ただし、その絶対数は多くない。
しかも、使えると言ってもその精度は様々で、鑑定魔法を使っても適当な1単語しか出ない者もいれば、対象の名前、性質、その他諸々を一度に表示させることができる者もいる──らしい。
俺が今まで見たことがある鑑定魔法は、精々2、3単語の情報くらいだ。それを魔物の新種登録に使おうなんて、なかなか度胸がある。
「なるほどな…つまり、小王国支部のギルド長がこっちに来て、こっちの魔物を鑑定して、その内容が正しいかどうか、魔物鑑定士が検証するってことだな?」
「その通りです」
職員がホッとした顔で頷いた。
聞けば小王国方面に出現する魔物は上位種、または最上位種相当だという主張だそうで、鑑定魔法の正しさの証明のため、この街周辺に出没する上位種の魔物を鑑定するという計画らしい。
なるほど理屈は通る。
そして、魔物を鑑定するからには、まず魔物を倒さなければならない。
「…ってなると、適任者は俺しかいないな…」
ガシガシと頭を掻く。
ロセフラーヴァ支部の所属冒険者はかなり多いが、上位種を安定して狩れる実力者となると限られる。
そして、それに該当する冒険者パーティは今、護衛依頼などで丁度他の街へ出払っている。俺と同じ上級冒険者、魔法使いのキャロルは、新人研修の実技講師として新人指導の真っ最中だ。
結果、消去法で、俺だけが残る。
あと……一応、曲がりなりにも、この支部の筆頭冒険者だからな。
相手は小王国支部のギルド長。最低限の礼儀は弁えている必要があるし、一方で舐められるのも困るだろう、この支部のギルド長──エイブラム的には。
……ああいうヤツじゃないといいんだけどな。
脳裏に脂ぎったジジイの胡散臭い笑みがよぎり、一瞬口元が引きつるのを感じる。
正直言って、俺はこの支部のギルド長が嫌いだ。だが、生まれ育った街に愛着はあるし、せめて新たに冒険者になる新人たちにはマトモな価値観を持ってほしい。
だから、新人研修の実技担当講師の一人として、支部そのものを見捨てて他の支部に移るという決断が、どうしてもできない。早々に見切りをつけて出て行った冒険者をうらやましく思うこともあるが。
「──分かった。引き受ける」
「ありがとうございます」
目の前の依頼に思考を戻して頷くと、職員は安心したように笑みを浮かべ、一礼してすぐに奥へと引っ込んだ。どういうことかと眉を寄せていると、慌ただしく戻ってくる。
「──お待たせしました。ジャスパーさん、こちらが小王国支部のギルド長、カルヴィン様です。カルヴィン様、こちらはロセフラーヴァ支部の筆頭冒険者、ジャスパーさんです」
…オイ、もう来てたのかよ。
職員の後ろから現れたのは、目が覚めるような美丈夫だった。
艶やかで真っ直ぐな黒髪に、切れ長の紫紺の瞳。背はすらりと高く、一方できちんと筋肉がついている。腰には少し凝った装飾のついた長剣が一振り。服装は簡素だが、本格的に着飾ったら貴族にも勝るとも劣らない迫力が出そうだ。
が──
「小王国支部のギルド長をやってる、カルヴィンだ。様付けも敬語も要らねぇ、よろしく頼む」
ニカッと笑うと、途端に近寄りがたい空気が霧散する。口調もざっくばらんで、親しみが持てる雰囲気だ。
差し出された手を、俺はしっかりと握り返した。
「ロセフラーヴァ支部筆頭冒険者、ジャスパーだ。こちらこそよろしく頼む」
「おう!」
カルヴィンが楽しそうに笑う。
その手の皮は分厚く、はっきりと分かる剣ダコがついている。普通に鍛錬しただけではこうはならない──実際に、今現在も、実践的な剣を振るっている証だ。ギルド長という肩書きに見合わないその感触に、俺は内心驚愕する。
…どうやら小王国支部のギルド長は、エイブラムとは全く違うらしい。
──という予想は、その日のうちに正しかったと証明された。
ロセフラーヴァの街の北、たまに上位種のアークゴブリンが出現するエリア。
初級冒険者は絶対に近付いてはいけないと言われている、岩場と木立が点在する場所に出向くと、カルヴィンはいきなり魔法を使った。
「氷槍!」
「は!?」
掲げた剣の先、魔力の輝きと同時に巨大な氷の槍が出現──しかも複数。それが、かなり離れたところにいた数体のゴブリンを串刺しにする。
──ギャア!
──グギッ!?
そのうちの1体は身体の色が違った。上位種、アークゴブリンだ。
魔法の発動時間の短さ、一度に出現させる量、この距離で命中させる精度、上位種を一発で仕留める威力。──おかしい。魔法剣士だっつってたのに、本職の魔法使い以上じゃねぇか。
「──っし!」
カルヴィンはそのままそちらに向けて突っ込んだ。俺が慌てて後を追うと、カルヴィンが剣を振るった先、アークゴブリンの首と胴体がおさらばしている。
アークゴブリンが振るい損ねた剣が、明後日の方向へ飛んで行った。
「は──?」
俺が呆然とする中、カルヴィンはさらに剣を振るい、魔法を放ち、あっという間にゴブリンの群れを血祭りに上げた。
通常種のゴブリンが6体、上位種のアークゴブリンが4体。上位種との混成群は上位冒険者でも苦戦するはずなのだが、全く、欠片も、苦労した様子がない。それどころか無傷だ。
「よーし、鑑定すんぞ。チャーリー、早く来い」
長剣についたゴブリンの血を払い、カルヴィンが剣を鞘に収める。
その視線の先、ウチの支部の魔物鑑定士の一人、チャーリーが息を切らしながら走ってきた。
「ま、まったく、少しはこちらの体力も…考えてくれ、たまえ…!」
普段身体を動かしていないからそうなる。そう思ったが、口には出さないでおく。
「俺は早く帰りたいんだよ。さっさとやるぞ」
カルヴィンが欠片の同情も見せずに言い切った。こちらは魔物と一戦交えた後だというのに、息を乱す様子すらない。どうなってんだよ。
ヴォン、と独特の音が聞こえて、カルヴィンの眼前に四角い光る極薄のガラス板──のようなものが出現した。鑑定魔法の『表示パネル』だ。
その内容は恐ろしく詳細で、図鑑かと思うような記載もあった。
…何だあれ。俺の知ってる鑑定魔法じゃねぇ…。
「上位種、アークゴブリン。肌は褐色、指の足の本数は6本。基本種ゴブリンと混成群を構成し、人里を襲うこともある。弱い魔法の適性があり、使用するのは主に身体強化魔法──」
「ま、待て! 早い!」
「仕事しろ魔物鑑定士」
チャーリーが慌てた様子で手帳を取り出し、カルヴィンの鑑定魔法の結果を書き写す。
鑑定魔法の表示については突っ込むところではないらしい。つまり、あれがカルヴィンの『普通の鑑定魔法』…。
いやいやいや、おかしいだろ──という突っ込みを、ギリギリ喉の奥で押し留める。
俺の長年のカンが言っている。ここで驚いていたら身が持たないと。
「…まだ、1ヶ所目だしな…」
俺の口から乾いた呟きが漏れる。
その予想通り、その後もカルヴィンは単独で魔物の群れを殲滅して回り──ロセフラーヴァの街周辺から、一時、上位種の姿が消えた。
……なあ、俺、いなくてもよかったんじゃねーの?
前回のSSでは頭を抱えていたギルド長ですが、他支部の人の目線で見ると彼も結構アレだったりします。
だって小王国の住民だもの。
さて。
本日はコミカライズ13話その①の更新でしたね!
みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?
そしてコミック2巻はお手に取っていただけましたでしょうか…!
今回更新分の原作者的イチオシポイントは、
・ジャスパーが忠告してくれたそばから仮眠室をオススメするギルド職員(表情w)
・自称じゃないといいけど…で想像される自称ベテラン中級冒険者(前例がアレなので…ね…)
・夜のロセフラーヴァの街並み(雰囲気が小王国の首都アルバトリアとは全然違うんですよ…!)
・ぷっはーするユウさん(飲みっぷりが良い)
・「あのギルド長おかしいだろ」のジャスパー(おかしいです。ハイ)
・新人研修、開始!(メラニアがイメージ通りで…!)
・チャーリーの扱い(ユウさんの「殴っていい」はかなりバイオレンス(笑))
…です!
今回の注目ポイントは何と言ってもジャスパーですね。
前回ラストでいかにも怪しい雰囲気で登場した彼。ユウさんに思いっ切り警戒されてます。が、普通に良い人です。良い人。苦労人ポジション(←)
そしてお気付きでしょうか。新人研修開始あたり、後ろ姿ですが、『あの人』がいます。あの人が…!
…というわけで、いよいよ始まった新人研修にワクワクしつつ、次回更新は2月24日(火)の予定です。
絶賛発売中の小説1巻とコミカライズ1・2巻、
そしてカドコミ&ニコニコ漫画にて好評Web連載中のコミカライズ!
みなさま、引き続き応援をよろしくお願いいたします!
【追伸】
連載中の別作品『定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~』の第1章が完結しました。女性主人公・転生者・お仕事(?)もの。恋愛要素(微糖)ありです。
この後第2章も続きますが、第1章は全40話ですっきり読める内容になっておりますので、お時間ある方、よろしければ是非。
URLはこちら↓
https://ncode.syosetu.com/n7466lo/




