おまけ(29) 【ロセフラーヴァ支部職員視点】小王国支部の新人冒険者にかける期待
本日はコミカライズの更新日です!
前回、謎の剣(?)が現れました。
さてその正体は…?
是非ご覧ください!
本日の小話は、ロセフラーヴァ支部のギルド職員視点。
小王国支部の新人と見習いが新人研修に来る、と聞いた人々の反応をどうぞ。
小王国支部の冒険者と冒険者見習いが新人教育を受けに来る。その通達が届いた時、冒険者ギルドロセフラーヴァ支部職員の反応は真っ二つに割れた。
大多数の職員は、あの弱小支部に新人が入ったのかと半信半疑ながら冷笑し。
ごく少数の職員は、これからその新人に振りかかるであろう不幸を思い、その不運に同情した。
「これで冒険者を辞めるなんてことにならないといいが」
「…そうだな」
ぼそりと呟く同僚に、俺は小さく頷く。
ロセフラーヴァ支部は、大陸東部最大級のギルド支部だ。歴史こそ浅いが、所属する冒険者の数は多く、その担当区域も広い。よって、振り分けられる予算は多く、ギルド内での発言力も高い。
その地位は、現ギルド長であるエイブラムのたゆまぬ努力によって確立された。
…いや、倫理観を放り投げたような卑劣極まりないやり方を、たゆまぬ努力と評するのは語弊があるが。
そもそも小王国支部所属の冒険者が少ないのは、ロセフラーヴァ支部発足当初、エイブラムが小王国支部の冒険者に引き抜きをかけたからである。
ロセフラーヴァの街は、南の港湾都市と運河で繋がったことにより、近年、急速に発展した。それに伴って冒険者ギルドの支部が置かれ、初代支部長としてエイブラムが就任した。
だが、支部ができたからといってすぐに腕利きの冒険者が集うわけではない。ではどうするか。
──近隣の支部から、見込みのある冒険者を引っ張ってくればいいのだ。一番近い小王国支部は小さいわりにやたらと冒険者を抱え込んでいるようだし、丁度いい。
いや、実務的には、常識的に考えれば、全くよくない方法なのだが…エイブラムはそう考え、実行し、実際に多くの冒険者がロセフラーヴァに移籍してきた。
それほどまでに小王国支部の待遇は悪かったのだろうか。疑問を感じざるを得ない。
冒険者ギルドサブマスターからの依頼で、職員としてロセフラーヴァ支部に潜入して半年。
それなりに同僚とは信頼関係を築けているが、なかなかエイブラムの尻尾は掴めない。ようやく小王国支部の冒険者が急減した理由を知ることができたくらいだ。
「小王国支部の冒険者か…また騙されるかもな」
少し離れた所で、同僚の一人が冷笑している。
所属支部とは別の支部で新人研修を受ける場合、冒険者は普通、『新人研修受講申込書』という書類を提出する。
だがロセフラーヴァ支部では、そうしてやって来た別支部の新人冒険者に『冒険者登録申請書』を書かせるという行為が横行していた。エイブラムの指示である。
冒険者登録申請書は、初めて冒険者になる時、または所属支部を変える時にのみ提出する書類だ。騙されて書いて提出すると、その新人冒険者の所属支部は自動的にロセフラーヴァ支部に変更されてしまう。
そうやって騙し討ち的にロセフラーヴァ支部に組み込まれてしまった冒険者を、俺は今まで何人も見てきた。多くの者は泣き寝入りだ。
俺は冒険者ギルドサブマスターの指示の下、ロセフラーヴァ支部に潜入捜査に入っている。
だから尻尾を掴むまではエイブラムの指示に従って然るべきなのだが…色々と、思うところはある。
例えば、ロセフラーヴァ支部の冒険者の序列と、下位の者の扱い。
冒険者にはランクがあり、活動実績によってランクアップしていく。ところがルールの裏をかき、見かけだけの活動実績を積み上げてランクアップする冒険者が、ロセフラーヴァ支部には相当数、いるのだ。
そうしてランクアップした冒険者の質は推して知るべし。大した実力もないのにランクをかさに着て、下位の者に威張り散らし、理不尽を押し付ける。
ロセフラーヴァ支部の共用の保冷庫の中身は、誰のものかに関わらず上位冒険者なら好きに食べていい、などという暗黙のルールさえある。
それを知った時は、常識のない冒険者にも、それを許容する支部職員にも衝撃を受けたし、正直吐き気を覚えた。
それを下位の者が受け入れている、というのも異様だ。
どうやらそれを許容する者には、似非上位冒険者がランクアップの『裏技』を教えているようだ。そしてそれで成り上がった者が、また下位の者に無体を働く。それがこのロセフラーヴァ支部の『伝統』らしい。
当然、それに耐えられずに冒険者を辞めたり、他の支部に移籍する者もいる。
だからロセフラーヴァ支部は支部自体の規模に対して人手不足で、常に熱心に新人冒険者を募っている。他支部の新人冒険者への詐欺紛いの行為も、人手不足対策の一環だ。
…もっと他にやることがあるだろ、という突っ込みは胸のうちに仕舞っておく。
とはいえ、そんなどうしようもない支部にも、ある程度の常識人はいるわけで──
「お疲れさん。依頼の完了処理を頼む」
「承ります」
受付カウンターの業務につくと、その数少ない常識人がやって来た。
上級冒険者、剣士のジャスパー。この支部では屈指の実力者であり、その実績から筆頭冒険者の役割を担っている人物だ。
筆頭冒険者とは、いわば冒険者たちの取りまとめ役。特に何か優遇措置があるわけではないが、他の冒険者たちに一目置かれる存在である。その地位にジャスパーのような常識人が座っているあたり、まだ救いがあると思う。
「──はい、確認しました」
ジャスパーから渡された依頼完了証明書を処理し、報酬を渡す。硬貨の入った袋を受け取りながら、ジャスパーが少しかがんで、俺に目線を合わせてきた。
「……ところで、小王国支部から新人冒険者が研修を受けに来るって聞いたんだが」
情報が早い。
いや、彼は新人研修の実技担当でもあるから、そちらから話が行ったか。
「はい、新人冒険者が1名、冒険者見習いが1名。合計2名ですね」
別に秘密にすることでもないが、一応ジャスパーに合わせ、声を潜めて答える。すると、ジャスパーが顔を顰めた。
「…またトラブルが起きそうだな」
「……否定はしません」
ジャスパーは常日頃、素行の悪い冒険者たちに頭を悩ませている。彼が強く言っても、適当に言い訳を並べて逃げる者が多いのだ。状況は一向に改善されない。
「そろそろ、劇薬が必要だとは思いませんか?」
俺がぼそりと呟くと、ジャスパーが目を見張る。
「…あんた、意外と過激だな……けど、劇薬なんてそこら辺に転がってるか?」
「私としては、小王国支部の新人冒険者に期待したいところです。何せあのカルヴィン氏の支部ですからね」
「ああ……」
少し前、小王国支部のギルド長、カルヴィン氏が、自身の鑑定魔法の有用性を証明するため、この支部を訪れた。
鑑定魔法は特殊な魔法で、そもそも適性がないと使えない。さらに、使い手によって鑑定結果の精度と情報量が大きく異なる。
それを魔物の新種登録の根拠資料として使うため、まずはカルヴィン氏の鑑定魔法が正確かつ詳細であると証明したい。そんな理由だった。
その時は近隣に出没する魔物の鑑定を行うということで、上位種にも対応できるジャスパーが同行したのだが…結論から言うと、ジャスパーが活躍する場は一瞬たりともなかったらしい。
魔物の群を見るや瞬時に魔法を発動し、自らも突っ込んで剣と魔法で的確かつ迅速に魔物を仕留める。現役の冒険者ではなく、弱小支部のギルド長が、である。
当時、俺にそう教えてくれたジャスパーは、死んだ魚のような目をしていた。上級冒険者の目から見ても、カルヴィン氏は異常だったのだ。
そんなカルヴィン氏がギルド長を務める小王国支部の新人と見習いである。ギルド長と同じく、常識外れなのではないか──そんな期待がある。
「…ならやっぱ、俺が担当しといた方がいいか…」
ジャスパーが呟いた。
聞けば、次の新人研修の実技も彼が講師の一人を務めるらしい。担当する新人は通常適当に割り振られるが、講師が希望を出すこともできる。
彼は、この支部の慣習に染まっていない新人冒険者を守るつもりだろう。実技研修で難癖をつけられて不合格になるという事態を防ぐには、マトモな人間が担当すればいい。
変化を期待するならなおさら、おかしな横槍が入るのを防ぐべきだ。
「そうですね。よろしくお願いします」
「おう」
俺がこっそり頭を下げると、ジャスパーはにやりと笑って頷いた。
──なお、数日後。
ジャスパーが「俺のフォローなんて要らなかったんじゃないか…?」と疲労感を滲ませて呟いていたが、俺には慰めの言葉をかけることができなかった。
俺にとっても、何というか、完全に予想外の事態が起こったからだ。
……来るなんて、聞いてませんよ……!!
名前が出てない職員氏、実は色々水面下で頑張っておりました。
ちなみに職員氏が潜入捜査中だとジャスパーは知りません。が、腐った支部の中のマトモな人として、お互いに信頼し合っております。がんばれ。
…さて。
改めまして、本日はコミカライズ12話その①の更新でしたね!
みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?
そしてコミック2巻はもうお手に取っていただけましたでしょうか…!!
今回更新分の原作者的イチオシポイントは、
・制御装置の説明会(理解度が三者三様w)
・久々登場! アレクシス!(勇者()&せいじょ、姿は見えてないのに存在感が抜群です(笑))
・ドンドンパフパフ! なギルド長(テンションの落差よ…)
・説明するギルド長の背後でこっそり荷物を漁るルーン(あるあるw)
・大丈夫です、のシャノン(キリッとした顔が素敵ですね…!)
・イーノックの劇的ビフォーアフター(の、アフターの方)
…です!
今回のポイントは何と言ってもイーノックですね!
髪をバッサリ切って服装も一新。みんなが「誰!?」となるのも納得の変身っぷりです。
表情もすっかり明るくなってますね。よかったねイーノック…!
…というわけで、小王国支部に新たな戦力を迎え、ユウさんとシャノンは一路、ユライト王国のロセフラーヴァ支部へ!
次回更新は、1月27日の予定です。
絶賛発売中の小説1巻とコミカライズ1・2巻、
そしてカドコミ&ニコニコ漫画にて好評Web連載中のコミカライズ!
みなさま、引き続き応援をよろしくお願いいたします!




