コミカライズ2巻発売記念SS ケットシー基金の設立
祝! コミック2巻発売!!
…ということで、今回の記念SSは、久しぶりに…実に久しぶりに、主人公視点。
ユウさんが魔物討伐デビューする前、シャノンとともに街の中の依頼をこなしていた頃のお話です。
冒険者ギルド小王国支部は、所属冒険者3名、冒険者見習い1名の弱小支部である。
はっきり言って、依頼の数に対して冒険者の数が足りていない。ギルド長まで出張ってやっと毎日の依頼を処理する、それが小王国支部の日常だ。
その日常を支えているのは、なにも人間だけではない。
「うーむ……」
街の中での依頼を終えた昼下がり。小王国支部の受付ホールで唸っていると、ひらり、目の前で長い尻尾が揺れた。
《なーに唸ってんだ? ユウ》
テーブルの上に飛び乗って至近距離から私を見詰め、小首を傾げているのは、艷やかな毛並みが美しい真っ黒なネコ──もとい、ケットシーのルーン。
この冒険者ギルド小王国支部周辺をナワバリにしていて、私を冒険者に勧誘した張本人だ。
ケットシーという生き物はどうも自分のナワバリの中にいる者を身内と認識するらしく、私が冒険者になって以降、仕事に同行してアドバイスしたり、時には魔法で手伝ってくれたりしている。
タダで手伝ってもらうのも申し訳ないので、その時々で柔らかく煮た肉などをお礼に振る舞っているのだが──
「最近、手伝いをしてくれるケットシーが増えたでしょ?」
手伝いをしているのはルーンだけではない。
私がここに来た当初、ルーンに頼んで街のケットシーたちにギルドの大掃除のお手伝いを要請した。その時に参戦してくれたケットシーは、その後もちょこちょこやって来ては依頼を手伝ってくれている。
単に楽しいのか、それともお礼の食べ物に釣られているのかは分からないが。
そして最近、手伝ってくれるケットシーが増えた。
気のせいではなく、大掃除に参加していなかったケットシーも入れ替わり立ち替わり、お手伝いに現れる。戦力が増えるのは大歓迎だし色々なケットシーに会えるのは大変嬉しいが、一体どうしてこうなったのか不思議なのだ。
私が指摘すると、ルーンは片耳を伏せた。
《あー、大掃除で味をしめた奴が口コミで広めたんだよ。ギルドの仕事を手伝うと、滅茶苦茶美味いメシが食えるって。自慢がてら》
「口コミ」
まさかの理由だった。ケットシーにも口コミって概念、あるんだ…。
そうなると、
「…もしかして、これからも増える可能性がある?」
《あー、まあなぁ。いっぺんに何十匹も来ることはないだろうけど、参加したいって奴は多いと思うぞ》
ルーンがちょっと目を逸らした。
《俺の取り分が減るのは困るんだけどな》
大変食い意地の張ったにゃんこ──もとい、ケットシーである。
でも確かに、いくらお礼を用意していても足りなくなる可能性は大いにある。無類のケットシー好きとしては、彼らに渡すお礼の品が枯渇するなんてことはあってはならない。
では、どうすべきか。
…ここはひとつ。
「エレノア」
私は席を立ち、受付カウンターのエレノアに声を掛けた。書類を整理していたエレノアは、すぐにパッと顔を上げる。
「はいっ! 何でしょうか、ユウさん」
ニコニコとした表情が可愛い。頭の上の犬耳が、ぴょこんと立っている。
それをもふもふしてみたい衝動をこらえつつ、私はエレノアに提案した。
「最近依頼のお手伝いをしてくれるケットシーが増えたから、ケットシーたちへのお礼専用の予算を確保できないかなと思って」
「予算…ですか」
実は今、みんなの食事を作る依頼で食材を調達するついでに、ケットシー用の食材も買っている。厳密に言えば資金の流用である。
今後もケットシーのお手伝いが継続して行われるなら、そういうグレーゾーンのお金の使い方はしない方がいい。
あらかじめ予算を確保しておいて、その予算からケットシー用の食材を買い、調理して、お礼用のストックを作っておく。ケットシーに依頼を手伝ってもらったら、そのストックをケットシーにお礼として渡し、報酬の一部を予算に回す。それが、私の考えた案だ。
問題は、その一番最初の予算は誰が出すのか、ということである。
「ウチの支部は予算不足ですからねえ…」
「だよね…」
私の説明に、エレノアが困ったように眉根を寄せ、私もつられて苦笑する。予想通りすぎる答えに笑うしかない。
ギルドの各支部の予算は、その土地の危険度と所属する冒険者の人数で決まるそうだ。
資料などを読む限り、小王国周辺に出没する魔物はウルフ、ゴブリン、ゴーレムの3種類のみ。そして所属冒険者は見習い含めて4人。悲しいかな、どう考えたって潤沢に予算があるわけがない。
「──何だお前ら、辛気臭い顔して」
声を聞きつけたのか、奥の事務所からギルド長が出てきた。今日は珍しく魔物の討伐依頼が来ていないので、事務所で書類の処理をしていたのだ。
ちらりと見えた奥の机の上には、半ば雪崩を起こしている書類の山が見えた。大丈夫か、あれ。
「ギルド長、ケットシーのみなさんに振る舞うお礼の件なのですが──」
書類の山を見て呆れている間に、エレノアがギルド長に事情を説明してくれる。
顎に手を当てて話を聞いていたギルド長は、なるほどな、と頷いた。
「確かに、現状じゃケットシーは重要な戦力だからな。お礼についてもきっちり予算を確保しておいた方がいいだろ」
「けど、支部の予算はないんでしょ?」
「まあな」
私の突っ込みに、ギルド長はあっさりと頷く。そして、
「最初の予算はオレが出す」
「え?」
「えっ!?」
予想だにしない言葉に、私とエレノアの声が重なった。
ギルド長が半眼になる。
「…おい、何だその態度は。そんなに驚くことか?」
いやだって、ギルド長だよ?
ついこの間まで山賊じみた格好で悪臭漂わせながら歩いてた男だよ?
家にも帰らずに床で寝てたらしいじゃん。
そんな人がポンとお金出すなんて、何か騙されてるとしか思えないし。
…という思いがものすごい勢いで脳裏をよぎるが、口には出さない。
「ユウ、お前今ものすごく失礼なこと考えただろ」
口には出さなかったのに、ギルド長に睨まれた。何で分かったんだ。
仕方ないので開き直ってみる。
「ここがゴミ屋敷だった頃のギルド長を知ってたら誰だって驚くと思う」
「ですよね」
「オイ!」
エレノアにまで頷かれ、ギルド長が叫ぶ。ガシガシと頭を掻き、
「あのな、これでも一応、オレはそれなりに金持ってんだよ」
「へー。一応」
「一応…ですか」
「そこに食いつくな!」
まあ金の出どころがどこでも、予算が確保できるならそれでいい。
ギルド長は何やら抗議しているし、その内容を総合するにどうやらどこぞのボンボンらしいけど、私にとって重要なのは彼がギルド長であることとお金を出してくれるってことだけなので他はどうでもいい。
半眼で聞き流していると、ルーンが溜息をついた。
《…お前、変なところで大雑把だよな》
「失敬な」
ケットシー基金の発案は、当然ながらユウさんでした。
そしてさり気なくギルド長が太っ腹ですね。お金にルーズとか言っちゃいけませんよ。
…さて。
本日はコミック2巻の発売日でしたね!
みなさま、もうお手に取っていただけましたでしょうか?
DV野郎をぶっ飛ばしたところで終わった1巻。続きを是非! 一気読みしてください!!
ちなみに、1月12日までにお買い上げいただくと、コミカライズWeb連載ページ掲載分と合わせ、最新話まで一気読みできます。おすすめです。
みなさまの応援に支えられて、コミカライズも小説も続いております。本当にありがとうございます…!!
…というわけで、次回更新はコミカライズ更新に合わせ、1月13日(火)の予定です。
絶賛発売中の小説1巻とコミカライズ1巻&2巻、
そしてカドコミ&ニコニコ漫画にて好評Web連載中のコミカライズ!
みなさま、引き続き応援をよろしくお願いいたします!
追伸:なお只今、新作『定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~』を集中連載中です。毎日昼12時に1話ずつ、キリの良いところまで更新。
属性としては、女性主人公・お仕事(?)もの・恋愛要素若干あり、です。
お時間ある方、よかったら覗いてみてください。




