格式高い男爵様は皿まで舐めたい
神界のモニター前でポップコーン(キャラメル味)を準備した、神様です。
大輔の「毒キノコパスタ」のおかげで、寂れた食堂は大繁盛。
ですが、美味しい匂いには当然、面倒くさい奴らも釣られてやってくるわけで……。
本日のお客様は、いかにもテンプレな傲慢貴族様。店を潰すと脅す彼に対し、大輔が仕掛ける料理とは?
「おい! ここのシェフを呼べ! 私を誰だと思っている、グルメール伯爵家のギルバート男爵だぞ!」
おひさま食堂の静寂を破り、いかにも成金といった風貌の肥満体型の貴族が机を叩いた。
大輔のパスタが口コミで広まり、村で行列ができるようになった噂を聞きつけて、わざわざ街から護衛を引き連れてやってきたらしい。
「ひゃぅっ……! ご、ご注文は何にいたしますか……?」
ミリアが怯えながらメニューを出すが、ギルバート男爵はそれを扇子で叩き落とした。
「ふん、こんな辺境の小汚い店にまともな食材があるわけなかろう! 噂のキノコパスタとやらを出せ! もし私の舌を満足させられなければ、不衛生な店として即座に営業停止処分にしてくれる!」
うわぁ、本当に教科書通りの悪徳貴族が来たよ。
厨房の隙間から覗いていた大輔はため息をついた。ここで怯えても生活の拠点を失うだけだ。大輔は地味な麻の服のまま、ひょっこりと厨房から顔を出した。
「男爵様、もし俺の料理が美味しかったら、営業停止を取り消すどころか、今後うちの店を貴族の権力で守ってくれます?」
「な、なんだと平民のガキが……! ふん、良いだろう。万が一にもそんなことがあれば、私の名にかけて仕入れでも何でも全面支援してやるわ! 出せるものなら出してみよ!」
「言いましたね。じゃあ特製のやつ、作ります」
大輔は不敵に笑うと、厨房のまな板の上に、あの禍々しく紫に光るトゲトゲの『マギ・マッシュルーム(猛毒)』をドサッと並べた。
「ひっ!? 貴様、それは魔の森の即死キノコではないか! 毒殺する気か!?」
「いえいえ、これが一番美味いんですよ。男爵様ほどのグルメなら、この価値が分かりますよね?」
大輔自身は気づいていないが、【頑丈な胃袋】のパッシブ効果により、彼が触れて調理している間、キノコの毒素はみるみるうちに「極上の旨味成分」へと分解されていく。
じっくりとバターと白ワインで炒めると、厨房の中に、異次元の芳醇な香りが立ち込めた。
「な、何だこの香りは……!? 脳が直接揺さぶられるような、暴力的なまでに美味そうな匂いは……っ!?」
男爵はよだれを垂らし、座席から身を乗り出した。
「はい、お待たせしました。マギ・マッシュルームの濃厚スープパスタです」
差し出された料理は、紫色の怪しいスープのはずなのに、香りは完全に宮廷料理を超えている。男爵は恐怖を忘れ、フォークで麺を口に運んだ。
一瞬の静寂。
「――っ!? ぶ、ぶらぼぉぉぉぉぉぉ!!! 美味すぎる、美味すぎるぞぉぉ!!」
男爵は椅子から転げ落ち、格式高い服をタレで汚しながら、涙目でパスタを貪り食い始めた。
「なんだこの超濃厚なコクは! ピリッとした心地よい刺激! 身体の芯から活力が湧いてくる! 頼む、皿をおかわりだ! いや、皿まで舐めさせろ!」
「男爵様、お上品な服が汚れてますよ」
大輔とミリアが呆れる中、男爵は本当に皿の底までペロペロと舐め回していた。
「約束だ! この店は私が守る! 街の新鮮な肉や野菜も私がタダで回してやろう! だから明日もこれを私に食べさせてくれぇ!」
こうして、おひさま食堂は戦わずして、最高に面倒くさくて強力なパトロン(貴族のコネ)をゲットしたのだった。
ーーその頃、神界のモニター前。
「あはははは! あのデブ貴族、本当に皿まで舐めたわよ!?」
私はベッドの上でローリングしながら大爆笑していた。
チートスキルを全部没収して、MOBとして地味に生きろって放り出したのに、あいつ、現代人の図太いメンタルと地味スキルだけで、貴族の権力を完全に手玉に取っちゃったじゃない。
「……あーあ。仕入れ値までタダにしてもらってさ。大輔のやつ、どんどん生活がイージーモードになっていくわね。……まぁ、あの男爵の様子じゃ毒の心配もないし、お店を守ってもらえるなら、神様としても一安心だけどさ」
ポテチを齧りながら、私は画面の中でミリアとハイタッチして喜ぶ大輔の姿を見て、どこか誇らしげな、温かい笑顔を浮かべていた。
ご覧いただきありがとうございました!
傲慢だったギルバート男爵様、無事に大輔のパスタの奴隷となり、最強の盾へとジョブチェンジしました。これで食堂の経営は安泰です。
次回、貴族のコネで手に入った「王都の最高級食材」と、大輔の「魔界の毒食材」が融合!
異世界の誰も見たことがない、究極の創作フルコースが誕生します。しかし、店の噂はついに村を飛び出し、王都の『天才料理人』の耳に届いてしまい……?




