魔獣と動く草むら
神界のモニター前でハラハラしています、神様です。味を占めて猛毒キノコを乱獲する大輔の背後に、ついに狂暴な魔獣『ベア・ウルフ』が迫ってしまいました。チート無しの一般人、絶体絶命のピンチ!……のはずなんですが、あれ? うちの地味スキル、なんか変な化学反応起こしてない……?
「お、ここにもあった! このトゲトゲしたやつも美味そうだな!」
高坂大輔は狂喜乱舞していた。
【頑丈な胃袋】を手に入れた彼にとって、この森はもはや「食べ放題の高級ビュッフェ会場」である。麻の服の裾を袋代わりにし、紫のキノコや怪しく発光する草をこれでもかと詰め込んでいた。
キノコ狩りに夢中な大輔は、完全に背後の気配に気づいていない。
そこには、体長3メートルを超える巨体と、鉄をも噛みちぎる牙を持つ魔獣『ベア・ウルフ』が音もなく佇んでいた。
よだれを垂らし、目の前の獲物(大輔)を一口で喰らおうと、静かに身構える――。
(グルルルゥ……?)
しかし、ベア・ウルフは急に動きを止め、小首を傾げた。
おかしい。目の前に確かに獲物がいるはずなのに、匂いも、生命の気配も、驚くほどに「無」なのだ。
大輔が着ているのは、神様が与えた【一目で一般人だとわかる服装】(※異世界の風景に完璧に溶け込む地味な麻の服)。さらにスキル【気配遮断(微)】が常時発動している。
ベア・ウルフの野生の勘は、目の前の存在をこう認識した。
――『なんか妙に不気味な動きをする、ただの草むら』。
しかも、その“草むら”は、自分が普段「絶対に近づくな」と親から教わってきた、触るだけで即死するレベルの超猛毒マッシュルームを「バリバリ!」「ムシャムシャ!」と満面の笑みで貪り食っている。
(……ッ!?)
ベア・ウルフの全身に鳥肌が立った。
生物としての格が違う。あの動く草むらは、自分たち魔獣が恐れる大自然の毒を、ただのオヤツとして処理している。
「あ、これちょっと辛口で美味いな。ん? なんか後ろで視線を感じるような……?」
大輔がふと、口の周りを紫色の汁で汚したまま、振り返った。
その瞬間、ベア・ウルフとバチッと目が合う。
「うおっ、デカい犬!?」
(ヒュッ……!!)
大輔のただの驚き声を「捕食者の咆哮」だと勘違いしたベア・ウルフは、恐怖のあまり悲鳴をあげ、脱兎のごとく森の奥へと逃げ去っていった。
「なんだあいつ、急に走って。……あ、あそこにまた新種のキノコ生えてるじゃん!」
危機にすら気づいていない大輔は、再びキノコへと手を伸ばした。
ーーその頃、神界のモニター前。
「いや、そうはならんやろ!!」
私は思わずポテチの袋をひっくり返しそうになった。
「確かに【気配遮断】と【地味な服】をあげたけど! あの二つのシナジー効果で『ヤバい猛毒草むら』って認識されるのは予想外すぎるわよ!」
モニターの中では、大輔がベア・ウルフの逃げた跡(=魔獣が恐怖で切り開いた安全な獣道)をトコトコと歩き、奇跡的に森の出口へと近づいている。
「……まぁ、本人が無傷ならいっか。っていうかあいつ、逃げた魔獣の足跡見て『あっちに行けば大きい街があるかも!』とか勘違いしてるし。運が良いのか悪いのかわかんないわね」
私は画面の中の「元・生意気な転生者」の、泥臭くも圧倒的な適応力に、ほんの少しだけ感心し始めていた。
ご覧いただきありがとうございました!スキル【気配遮断(微)】が、まさかの「不気味な動く草むら」として魔獣を撃退(?)しました。大輔は今のところ一度も戦っていません。次回、ついに森を抜けて人間たちの住む辺境の村へ!そこで大輔は、初めての「普通の人間」と出会うことになります。




