それ、魔王軍でもスープのダシに使わない猛毒よ?
異世界に放り出されて丸一日。チートなし、魔力なしの極限状態で、大輔は早くも餓死寸前です。さて、神界のモニターを覗いてみたら……ちょっと目を疑うような光景が広がっていました。あいつ、一体何口に入れてるの……!?
「おい、嘘だろ……。ステータス画面すら出ねえ……」
鬱蒼とした森の中で、高坂大輔はガタガタと震えていた。
トラックに跳ねられ、白い空間で神様っぽい美女に偉そうな口を叩いたところまでは覚えている。しかし、次の瞬間には見知らぬ森の中にポイ捨てされていた。
チート能力はない。魔法も使えない。
あるのは、地味な麻の服と、神様が最後に言っていた『気配遮断(微)』と『頑丈な胃袋』とかいうふざけたスキルだけだ。
「せめて、せめて水と食料くらい置いてけよクソ神……!」
グウウゥゥゥ、と情けない音が腹の底から響く。
異世界に来て丸一日。何も食べていない大輔の体力は限界に達していた。
その時、大輔の視界に鮮やかな紫色に光るキノコが飛び込んできた。
禍々しいトゲが生え、見るからに「食べたら死ぬ」と主張している。
「いや、無理だろこれ。どう見ても毒キノコじゃねえか……」
だが、背に腹は代えられない。飢え死にするか、一か八か賭けるか。
大輔は覚悟を決め、紫のキノコをむしり取ると、そのまま口に放り込んでバリバリと音を立てて噛み砕いた。
「う、美味い……!? いや、苦い! 辛い! 痺れるーー!!」
強烈な刺激が襲う。普通の人型生物なら3秒で心停止するレベルの猛毒である。
しかしその時、大輔の体内で眠っていたスキルが凄まじい勢いで駆動し始めた。
『ピコーン! スキル【頑丈な胃袋】が発動しました。毒素を全て100%安全な栄養素に分解します』
「げ、ゲップ……。あれ? お腹痛くない。むしろ、めちゃくちゃ元気になってきた……?」
脳内に響いた無機質なアナウンスと共に、大輔の全身に凄まじい活力がみなぎっていく。
実は彼が食べたのは、魔力を過剰に含んだ超危険な『マギ・マッシュルーム』。通常の人間には猛毒だが、100%栄養に変えられる大輔にとっては、一本で一週間分のエネルギーを補給できる「超高カロリーの完全栄養食」だったのだ。
「これ……もしかして、俺、何でも食えるのか?」
大輔の目が、ギラリと獲物を狙う肉食獣のように輝いた。
ーーその頃、神界のモニター前。
「いやいやいや! 何食べてんのあいつ!?」
私はベッドの上でポテチを食べる手を止め、思わず画面に顔を近づけた。
「それ、魔王軍の幹部でもスープのダシに使うのを躊躇するレベルの猛毒キノコよ!? 確かに『頑丈な胃袋』はあげたけど、まさか初手からあんな生化学兵器みたいなの自ら進んで食うやつがある!?」
画面の中の大輔は、完全に味を占めた顔で、今度は近くに生えている「トゲだらけの動くツル植物(これも猛毒)」をサラダ感覚でムシャムシャと食べ始めている。
「……ま、まあ、お腹壊してないならいいけどさ。っていうか、なんか妙に生き生きしてない?」
昨日の生意気で調子に乗っていた態度が嘘のように、今の彼は生きるために必死だ。泥を払い、涙目になりながらも、与えられた地味なスキルだけで異世界に順応しようとしている。
「ふん、まあ、ちょっとは見直してあげてもいいわよ。……あ、ヤバ。次のキノコ探すのに夢中で、すぐ後ろに狂暴なベア・ウルフ(魔獣)が来てるじゃん! 逃げて大輔!」
私は思わずクッションを抱きしめ、画面に向かって声を上げた。
ご覧いただきありがとうございました!『頑丈な胃袋』を覚醒させ、生化学兵器レベルの植物をサラダ感覚でムシャムシャ食べ始めた大輔。神様(私)のドン引きをよそに、本人はすっかり味を占めて元気いっぱいです。しかし、キノコ探しに夢中になる彼の背後には、凶暴な魔獣『ベア・ウルフ』の影が……!次回、もう一つの地味スキル【気配遮断(微)】が、まさかの形で大活躍(?)します。




