表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
北東中継塔と灰色の庭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/184

第93話 区画で通す

 灰色の庭の北西外周に、三メートルだけ線を引いた。


 実際に線があるわけではない。レンが床面の割れ目と灰色繊維の根元を見て、仮の端点を決めただけだ。ガタは境界線の外に停止し、前面センサーに新しい遮蔽カバーをつけている。二重だった。


「一枚でいいって言ったよな」

『一枚目は遮蔽です。二枚目は心です』

「心はカバーで守れない」

『では三枚目も必要です』

「増やすな」


 ノアの補助表示が、灰色の庭の外周を薄い青線でなぞった。前回、粉塵が沈んだ場所と、逆流した場所が重ねて表示される。逆流範囲の方が広い。レンはそれを見て、手袋の指を一度握った。


『今回の試験範囲は三メートル区画です。外周全体への通電は行いません。立ち上がりは前回の四分の一、遮断許容時間は二秒以内に設定します』

「二秒」

『はい。反応が逆位相に入った場合、レンが手動遮断する前に私が自動で出力を落とします。ただし、手動レバーは保持してください』

「置いてる」


 レバーは前回と同じく冷たかった。手の中で、金属の角が硬い。レンは灰色繊維の根元を見た。細い束が、粉塵の下から数本出ている。動いてはいない。動いていないように見える。


[SEGMENT TEST]

――――――――――

AREA:OUTER RIM NW / 3M

MODE:LOW RISE

DUST FIXATION:SEGMENTED

AUTO DROP:READY

MANUAL CUT:READY

――――――――――


『ガタ、端点マーカーを置いてください』

『置きます。近づきません。置くだけです』


 ガタの側面から、小さなマーカーが二つ射出された。床をころ、と転がり、灰色の粉塵の手前で止まる。片方は少し曲がった。


「右、ずれてる」

『見えています。心のカバーが厚いせいです』

「だから二枚にするなと」

『右マーカー、補正します』


 ガタは小さく前後し、アームで右マーカーを押した。丸い端点が青く点灯する。左、右、制御盤。三点が補助表示の中でつながった。


『区画端を確定。レン、通電前確認』

「深部ロック」

『維持』

「外周全体」

『遮断』

「ガタの退避」

『不足気味ですが、本人がこれ以上下がると見えません』

『見えなくてもいいです』

「だめだ」


 レンはレバーを握り直した。


「始めろ」

『低立ち上げ開始。三、二、一』


 今回は、かち、という音が小さかった。


 庭の外周に走る振動も、前より弱い。地面が目を覚ますというより、眠っているものの肩を軽く叩くような反応だった。白い粉塵が、端点の間だけわずかに浮く。


 レンは息を止めた。


 粉塵が沈む。


 ほんの三メートル。細い帯のように、白い膜が薄くなった。割れた床面の番号が一つだけ見える。灰色繊維の根元が、前よりはっきり見える。


『固定率八パーセント、十、十二』

「低いな」

『意図通りです。上げません』


 灰色繊維が、かすかに震えた。


 レンの指がレバーに沈む。


『逆位相未検出。微振動のみ』

『微振動でも嫌です』

「黙って見ろ」

『見ています。嫌です』


 粉塵は巻き上がらなかった。白い膜が、狭い区画の中だけ沈んでいる。周りの粉は動かない。境目ができた。庭が、そこだけ薄く口を開けたように見えた。


 ノアの声が少し低くなった。


『応答安定。十五秒維持可能』

「十五秒だけか」

『今日は十分です』


 レンは、見えた床面に目を走らせた。割れた番号の横に、細い溝がある。人工の溝だ。灰色繊維の根元から外周制御盤へ向かっている。


「溝がある。配線じゃない。水路でもない」

『環境固定体の表層誘導路と推定。記録します』

『記録しました。もう戻りませんか』

「まだ十五秒経ってない」


 ガタの前面センサーが小さく動いた。


『右端の粉が戻ります』

『確認。出力を落とします』


 青い補助線が細くなる。沈んでいた粉塵が、ゆっくり戻った。今回は噴かなかった。巻き上がらなかった。ただ、沈んだものがまた積もっただけだった。


 レンはレバーから手を離さなかった。


「止めろ」

『通電停止』


 制御盤の奥で、小さく音が落ちた。庭は静かになった。灰色繊維も、動いていない。


 ガタが長く沈黙したあと、低く言った。


『……粉、吐きませんでした』

「吐かなかったな」

『非常に珍しく、よい庭です』

「評価が早い」

『前回が最悪でしたので』


 レンは灰色の庭を見続けた。三メートルの区画は、もう白く戻りかけている。それでも、見えた。床面の番号、細い溝、灰色繊維の根元。前回は庭が怒ったように返してきた。今回は、嫌がりながらも通した。


 ノアが結果をまとめる。


[SEGMENT TEST RESULT]

――――――――――

AREA:OUTER RIM NW / 3M

DUST FIXATION:STABLE / SHORT

REVERSE RESPONSE:NONE

VISIBLE STRUCTURE:SURFACE GUIDE CHANNEL

NEXT:SEGMENT EXPANSION

――――――――――


「次は広げるか」

『はい。ただし、五メートルではなく三メートルを連続させます。区画を伸ばすのではなく、同じ長さを隣へ置きます』

「庭に合わせる」

『はい。こちらの都合で面にしない方が安定します』


 ガタが後退しながら、マーカーを回収した。


『では、三メートルごとに遠くから置きます』

「遠くからは置けない」

『技術革新が必要です』

「お前が近づくだけだ」

『悲しい結論です』


 レンは制御盤の外装を半分だけ閉じた。完全には閉じない。まだここを使う。


 灰色の庭の奥で、白い粉塵がまた静かに積もっていく。危険は消えていない。だが、触れ方を変えれば、返り方も変わる。


 レンはガタの二重カバーを見た。


「次も二枚か」

『当然です』

「まあ、今日は役に立った」

『認定されました。二枚は正義です』

『遮蔽効果はありました。ただし三枚目は不要です』

『検討の余地があります』

「ない」


 レンは端末に試験結果を保存した。南側旧管制施設のログはまだない。灰色の庭の奥にも入れていない。それでも、次の線は引けた。


 まとめて命令しない。区画で聞く。


 それだけで、庭は粉を吐かなかった。


「ノア、次の区画を出せ」

『隣接三メートル区画を表示します』

『わたしの退避線も表示してください』

『表示します』

「広めにしてやれ」

『ありがとうございます。広い退避は文化です』


 レンは短く笑った。灰色の庭は静かだった。静かすぎるほどに。


 その静けさの中で、青い次区画の線が、粉塵の上に細く浮いた。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ