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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
北東中継塔と灰色の庭

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第90話 拠点は、外へ作業を出せる基地になった

 朝二。外作業時間表の丸印が、壁で青く光っていた。


 レンは外作業棚の前に立ち、反射マーカー、外周端末、水分パック、短いケーブル、洗浄布を順番に取った。手が迷わない。昨日まで床に散っていた道具が、棚の上段と中段に収まっている。ガタは充電台から降り、前面表示を点滅させた。


『ガタ席、離れます』

「出発だ」

『OUTER PATROL-01、短巡回を開始できます』

「今日は確認だけで戻る。締めの点検だ」

『締めの嫌ですか』

「嫌じゃない。できるようになったことを確かめる日だ」

『良い確認です』


 エアロックが開いた。外の粉は薄い。接近点一の反射マーカーが見える。レンはマーカーの固定を確認し、接近点二まで歩いた。中間点までは行かない。今日は長く広げる日ではなく、今の拠点が外へ出て戻る動きに耐えられるかを見る日だった。ブーツに粉が付く。ガタの車輪にも細い灰色が入る。レンチの溝にも粉が噛む。


 それでいい。戻れば落とせる。


「帰るぞ」

『戻ったら、ここで落とす』

「覚えたな」


 エアロックに戻ると、除塵区画のファンが低く唸った。ぶん、と風が引き、ブーツの裏から粉が抜ける。ガタの底面から灰色がふわっと浮き、床の溝へ吸われる。レンは温水ノズルを取り、ブーツ、レンチ、ガタの前輪と車軸を順に洗った。ぬるい水が粉を流し、こぽ、と排水が受ける。


『四番、終わりました』

「次、排水」

『五番、見ます』


 ガタが排水溝の前で止まる。


『詰まりの嫌、少しです』

「少しなら掃除する」


 レンは網を外し、湿った粉を小ブラシで払った。前より早い。道具が棚にある。布もある。排水用の皿もある。戻って、落として、洗って、片づける。動きがつながった。


『帰還後洗浄、完了。粉塵持ち込みは低下しています』

「よし」


 レンは洗ったレンチを中段へ戻し、水分パックの残量を補給箱に書き込んだ。ガタはガタ席へ移動し、充電端子を合わせた。前面表示が小さく光る。


『帰る場所、確認しました』

「よし」


 次に旧生活区画へ向かう。箱の畑は、弱い光を灯していた。透明蓋の内側に水滴がついている。レンは蓋に顔を近づけた。黒い培地の上に、細い白い点があった。


「……ノア」

『確認しています』


 白い点は、種の割れ目から出た小さな根だった。芽と呼ぶには早い。葉もない。食料にはほど遠い。だが、外周から拾った温水の余熱が、除塵区画を動かし、足を温め、工具を洗い、最後にこの小さな根を起こした。


『知らない芽ですか』

「根だな」

『根の嫌ですか』

「嫌じゃない」

『発芽前反応を確認。種子の一部は生存しています』

「生きてたか」


 レンは中央端末へ戻った。ノアが設備表示を一枚にまとめる。


[BASE STATUS]

――――――――――

OUTER PATROL-01:ACTIVE

RETURN CLEANING:ACTIVE

WARM WASH:ACTIVE

FLEX WARM TANK:READY

BOX FARM:SPROUT RESPONSE

GATA SEAT:ACTIVE

SUPPLY BOX-01:READY

――――――――――


 レンは端末横の手書き札も一枚にまとめた。外へ出る棚、戻って落とす場所、温まる槽、箱の畑、ガタ席、補給箱。短い言葉だけで、今の拠点にあるものが分かる。


『簡略ですが、現在の拠点機能を示しています』

『分かりやすいです』


 レンは入口を見た。外作業棚に道具が並び、補給箱が足元にある。除塵区画のファンが低く回り、温水ノズルの先から一滴落ちる。簡易温水槽には薄い湯気。奥では箱の畑が弱く光り、ガタ席では充電ランプが点滅している。風の音、水の音、循環の音、充電の音が拠点の中に重なっていた。


 拠点が動いている音だった。


「ノア。灰色の庭への本格接近、今なら前より行けるか」

『条件付きで可能です。外周巡回、帰還後洗浄、温水回復、補給箱、ガタ整備が機能しています。長時間作業には追加準備が必要ですが、短時間の接近作業なら成功率は上がっています』

「行ける形になったな」

『はい。危険を分解し、戻れる形を作りました』


 ガタが充電台から前面表示を光らせた。


『外は嫌です』

「知ってる」

『でも、戻る場所があります』

「ある」

『なら、少し行けます』


 レンは笑った。外へ出るための線ができた。粉の時間が読めた。戻って落とす場所ができた。温水が戻り、足を温める槽ができ、箱の畑に小さな根が出た。ガタの席もある。ひとつひとつは小さい。並ぶと、拠点の形が変わる。


 レンは外作業棚から、次に使う反射テープを一本取った。補給箱の蓋を閉め、ガタ席の充電表示を確認する。温水槽の札をまっすぐに直した。


「明日は、灰色の庭の入口まで行く」

『推奨準備を作成します』

『明日の嫌です』

「明日の仕事だ」

『仕事なら、欄が必要です』

「作るよ」


 中央端末の地図で、灰色の庭の外縁が淡く光った。その手前に、OUTER PATROL-01の青白い線。拠点側には、入口設備の表示。外へ行く線と、戻る場所がつながっていた。


 レンは少しだけ深く息を吸った。粉っぽい空気の奥に、温水の湿った匂いが混じっている。前よりも、拠点の匂いがする。閉じた部屋の匂いではなく、使われている場所の匂いだった。


 ノアの声が響く。


『拠点外作業支援、D段階相当を完了』

「その言い方、危ないぞ」

『表現を修正します。拠点は、外へ作業を出せる状態になりました』

「それでいい」


 ガタが小さく車体を揺らした。


『基地です』


 レンはうなずいた。


「ああ。基地だ」


 灰色の庭は、まだ外にある。レンたちには戻る場所ができた。洗える場所ができた。温まれる場所ができた。道具を取り、補給を持ち、ガタを整えて、もう一度外へ出る準備ができた。


 拠点は、外へ作業を出せる基地になった。

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