第7話 家を作る
[RESTORATION ROUTE UPDATE]
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通信塔 D-12E:低出力待機
中枢塔位置:旧都市中心部
必要条件:移動経路確保/地表環境安定化/防衛設備確認
推奨次段階:居住モジュール外殻の製造
理由:長距離活動拠点の確保
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家を作る。
そう言ったあとで、レンは少し後悔した。口に出すと、急に変な感じがしたからだ。
ここは異星だ。外は有毒の雨が降る。船は壊れている。地下では採掘ドローンが動き、工場は部品を作り、上空には軌道リングが待っている。そんな場所で家を作る。
おかしい。
だが、必要だった。
「ノア。居住モジュールって、要するに何だ」
『長期滞在用の簡易居住区画です。気密外殻、簡易空調、水供給口、作業台、休眠台を備えます』
「休眠台」
『睡眠用の台です』
「ベッドって言え」
『ベッドです』
「最初からそれでいい」
レンは船内を見回した。操縦室は狭い。整備通路は焦げ臭い。床には工具、補修材、ケーブル、よくわからない部品が散らばっている。給水口は使えるようになったが、寝る場所はない。座席を倒して眠ることはできるが、身体が休まらない。
昨日も、寝たというより意識が落ちた。
このまま中枢塔まで行くのは無理だ。
「作る場所は?」
『墜落地点の東側、旧都市外縁の平坦部を推奨します。船から二百六十メートル。水供給ラインと搬送路に接続可能です』
「外か」
『はい』
「船内じゃなくて?」
『船内は構造変形が大きく、拡張に適しません』
「つまり、この壊れた船を家にするより、外に小屋を置いたほうが早い」
『はい』
「小屋って言うと急に身近だな」
ノアが船内の壁に、青い設計図を出した。
四角い箱ではなかった。半円形の外殻を地面に伏せたような形で、側面に短い通路がついている。内部は三つに分かれている。入口区画、作業区画、休眠区画。大きくはない。だが、船の操縦室よりはまともに見えた。
[HABITAT MODULE PLAN]
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名称:簡易居住モジュール
構成:気密外殻/入口区画/作業区画/休眠区画
接続:水供給ライン/補助電源/簡易通信
製造条件:自動工場 D-12F 稼働率 18%以上
不足項目:外殻固定杭/簡易空調フィルター
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「不足してるじゃないか」
『製造可能です。ただし、工場の補助製造ラインを追加調整する必要があります』
「また工場か」
『はい』
「家を作るために、まず工場を直す。順番はわかるが、遠いな」
レンは工具箱の蓋を開けた。中身を確認する。昨日より工具が増えている。工場から拾った旧規格の端子、採掘ラインの固定具、補修材の小チューブ。便利になっている。重くもなっている。
手首を回すと、関節が鳴った。
『本日の作業量は調整可能です』
「優しいな」
『作業効率の低下を避けるためです』
「優しさじゃなかった」
レンは水を飲んだ。今度はむせなかった。喉を通る冷たさで、少し頭がはっきりする。
「やる。中枢塔へ行く前に、戻れる場所がいる」
『了解しました。居住モジュール製造工程を開始します』
外は、昨日より静かだった。
雨は細い。しずくがヘルメットを叩く音も弱い。地表の水路は、黒い岩のあいだを細く走っている。ところどころ、白い蒸気が上がっているが、以前ほど荒くない。
旧都市は少しずつ起きていた。だが、完全に生き返ったわけではない。光っている場所と、死んだままの場所がまだらに広がっている。レンはその境目を歩いた。
『自動工場まで七百九十メートル。搬送路経由で移動します』
「昨日より近く感じるな」
『経路把握による心理的負荷の低下と推定されます』
「慣れただけだ」
『はい』
「そこは否定してもよかった」
工場に入ると、音が増えていた。
かん、ぎい、しゅっ。金属を切る音。板を曲げる音。コンベアが低く動く音。アームの一本が素材をつかみ、別の台へ移す。昨日よりも動きが滑らかだ。
レンは入口で足を止めた。
自分が起こした工場が、自分のいない間も動いていた。
その事実が、少し怖かった。少しだけ、頼もしくもあった。
「ノア。工場、勝手に進めてないよな」
『前回設定された製造指示の範囲内で稼働しています。船体補修材と簡易アンテナ部品の追加製造のみです』
「防衛ドローンとか作ってないな」
『権限不足です』
「その権限、急に増えたりしないよな」
『可能性はあります』
「やっぱり怖いな」
制御卓に手を置く。今度は針は刺さらなかった。青い線が走り、製造画面が開く。
[FACTORY CONTROL]
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自動工場 D-12F:稼働率 21%
主製造ライン:限定稼働
補助製造ライン:一部停止
素材在庫:不足なし
製造候補:居住モジュール外殻/固定杭/空調フィルター
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「稼働率、十八を超えてる」
『採掘ラインからの資材供給により、工場の一部が自己調整されました』
「自己調整」
『軽微な復旧です』
「軽微って言いながら、勝手に伸びるの怖いんだよな」
居住モジュール外殻を選ぶ。画面に警告が出た。
[PRODUCTION WARNING]
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居住モジュール外殻:製造可能
製造時間:42分
追加作業:補助製造ラインの手動同期
注意:製造中に大型アームが稼働します
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「大型アーム」
『天井レール上の組立アームです』
「動くと危ない?」
『可動範囲内にいると危険です』
「どこにいればいい」
『黄色い枠の外です』
床に黄色い光が浮かんだ。広い。かなり広い。レンの立っている場所も、ぎりぎり外だ。
「つまり、あの中に入るな」
『はい』
「工具を落としたら」
『拾わないでください』
「大事な工具でも?」
『拾わないでください』
「二回言ったな」
『はい』
レンは補助製造ラインのパネルへ向かった。工場の左側、低い位置にある制御盤だ。蓋を開けると、三つの回転ダイヤルと、一本の折れたレバーが見えた。
「折れてる」
『手動同期には代替操作が必要です。中央ダイヤルを四十度、右ダイヤルを十二度、左ダイヤルを固定してください』
「十二度って細かいな」
『許容誤差は三度です』
「急に優しい」
『設備が劣化しています』
「優しさじゃなかった」
ダイヤルを回す。固い。指先に力を入れると、手袋の内側で汗が滑る。中央を四十度。右を十二度。左を固定。ノアの表示が補助線を出すので、何とか合わせられる。
だが、左ダイヤルの固定具がない。
「固定具が欠けてる」
『手動保持が必要です』
「手で押さえろってことか」
『はい。同期完了まで八秒です』
「八秒ならいい」
『同期失敗時はラインが停止します』
「先に言え」
レンは左ダイヤルを押さえた。右手で起動スイッチを押す。工場の奥で音が変わった。低い振動が床を通ってくる。
『同期開始。八。七』
「数えるの好きだな」
ダイヤルが戻ろうとする。レンは押さえる。力がいる。指先が痛い。
『四。三』
「これ八秒より長くないか」
『正確です』
「体感の話だ」
『一。同期完了』
ダイヤルが軽くなった。レンは手を離した。指が少ししびれている。
[PRODUCTION READY]
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補助製造ライン:同期完了
大型組立アーム:待機解除
素材投入:可能
安全区域:設定済み
製造対象:居住モジュール外殻
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「始める」
『安全区域の外へ移動してください』
レンは黄色い枠の外へ出た。工具箱も引きずって外へ出す。念のため、もう一歩下がる。
「ここでいいか」
『安全です』
「本当だな」
『現在の計算上は安全です』
「嫌な補足をする」
製造が始まった。
天井の奥で、何かが動いた。ご、と重い音。大型アームがレールに沿って滑り出す。一本ではない。三本。太い関節を持つ腕が、ゆっくりと降りてくる。先端には切断機、圧着器、搬送用の爪。
レンは思わず半歩下がった。
大型アームが金属板をつかむ。別のアームが青い線の入った補修材を重ねる。三本目が熱を当てる。しゅう、と白い蒸気が上がる。工場の中に、熱した金属と樹脂の臭いが広がった。
かん。ぎい。しゅう。
かん。ぎい。しゅう。
音がそろっていく。
床の上で、居住モジュールの外殻が少しずつ形になった。半円形の板が何枚も組み合わさり、骨組みが入り、外側に白灰色の膜が張られていく。青い線が外殻に沿って走り、接合部が光った。
「思ったより、家っぽいな」
『簡易居住モジュールです』
「家でいい」
『家です』
レンは少し笑った。頬が引きつっただけかもしれないが、笑ったつもりだった。
その時、大型アームのひとつが止まった。
嫌な止まり方だった。動作の途中で、関節が引っかかったように固まる。次の瞬間、先端の圧着器が予定より低く落ちた。
がん、と床を打つ。
レンは反射的に肩をすくめた。
『大型アーム三番、動作異常』
「止めろ」
『停止信号を送信。反応が遅延しています』
アーム三番がまた動いた。今度は横へずれた。製造中の外殻の端を引っかける。金属板がゆがみ、ぎい、と嫌な音を立てる。
「このままだと壊れる」
『はい』
「止め方は」
『三番アーム基部の手動遮断レバーを下げてください』
「場所は」
『安全区域内です』
「やっぱりな」
黄色い枠の内側。大型アームの可動範囲。そこに、赤いレバーが見えた。距離は五メートルもない。だが、動いているアームの下を通る必要がある。
『接近は推奨しません』
「代案は」
『製造中止。外殻破損の可能性があります』
「どれくらい」
『七十二パーセント』
「高いな」
レンは息を吐いた。工具箱から短い固定棒を取る。何に使うかは決めていない。手ぶらよりましだった。
「アームの動き、読めるか」
『完全には読めません。三秒間隔で横振れが発生しています』
「三秒」
『はい』
「また三秒か」
レンは黄色い枠の前に立った。足元を見る。アームを見る。赤いレバーを見る。心拍が速い。わざわざノアに言われなくてもわかる。手袋の中が汗でぬれている。
「合図しろ」
『了解しました。三番アーム、右へ振れます。二。一。今』
レンは走らなかった。走ると滑る。早歩きで枠の中へ入る。床が熱い。圧着器の残熱が足元にくる。アームが頭上で動いた。ご、と重い音がする。
『停止してください』
「っ」
レンは足を止めた。目の前をアームの先端が通った。近い。ヘルメットに熱が当たる。息が止まりかける。
『進行可能』
「言うのが遅い」
赤いレバーに手を伸ばす。届く。だが、固い。下がらない。
「固い」
『安全ピンを外してください』
「先に言え!」
レバーの根元に小さなピンがある。レンは固定棒の先で引っかけた。外れない。もう一度。ピンが跳ねて床を転がった。からん、と軽い音。
『三番アーム、左へ振れます』
「待て」
『二。一』
レンはレバーを下げた。下がらない。体重をかける。脇腹が痛む。もう少し。ごん、と頭上で音がした。アームが戻ってくる。
「下がれよ」
レバーが落ちた。
アーム三番が、途中で止まった。低い音が消える。先端の圧着器が床から二十センチのところで固まった。
[MANUAL SHUTDOWN]
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大型アーム三番:停止
製造ライン:継続可能
外殻損傷:軽微
手動点検:必要
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レンはその場にしゃがみ込んだ。膝が勝手に落ちた。床が熱い。慌てて立ち上がろうとして、足がもつれる。
『安全区域から退避してください』
「わかってる」
枠の外へ出たところで、レンは壁に手をついた。呼吸が荒い。ヘルメットの中が曇る。固定棒を握ったままだった。指を開くと、手袋に棒の跡が残っている。
『作業成功です』
「成功した気がしない」
『外殻損傷は軽微です』
「俺の心臓は軽微じゃない」
『心拍は高値ですが、危険域ではありません』
「本当に便利な身体扱いだな」
大型アーム三番を止めたまま、製造は続いた。二本のアームだけになったせいで、動作は遅くなったが止まらない。外殻のゆがんだ部分は、補助材で押さえられた。きれいではない。だが、家は形になっていく。
四十二分の予定は、一時間を超えた。
その間、レンは黄色い枠の外で座っていた。何度か立とうとしたが、ノアに止められた。身体を休めろという意味ではなく、動くと危険だからだ。
工場の音だけが続いた。
かん。ぎい。しゅう。
かん。ぎい。しゅう。
やがて、最後の圧着音が鳴った。
[PRODUCTION COMPLETE]
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居住モジュール外殻:完成
固定杭:完成
簡易空調フィルター:完成
水供給接続部:完成
搬送準備:可能
設置候補地:旧都市外縁 E-04
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「できたか」
『はい。家ができました』
「そこ、ちゃんと家って言ったな」
『指定に従いました』
「よし」
完成した外殻は、工場の床に横たわっていた。大きい。船内で見た設計図より、実物のほうがずっと大きく感じる。人がひとり入って、寝て、作業できる空間。そう思うと、ただの部品とは違って見えた。
レンは近づき、外殻に手を置いた。まだ温かい。表面はなめらかで、ところどころに青い線が走っている。
「これを運べるのか」
『搬送台車を使用します。設置候補地まで自動搬送可能です』
「今回は台車が跳ねないといいな」
『整備済みの台車を選択します』
「前回もそうしてほしかった」
搬送台車が工場に入ってきた。大きな低い台車だ。居住モジュール外殻がゆっくり載せられる。固定具が下り、がちん、がちん、と止まる。
レンも後を追う。外に出ると、雨はほとんど霧のようになっていた。
設置候補地 E-04 は、船から少し離れた平坦部だった。黒い岩盤が広がり、そばに細い水路が通っている。遠くに工場の光。反対側に壊れた船。見晴らしは悪くない。
悪くない、と思ってしまった自分に、レンは少し変な顔をした。
「ここに住む気になってるみたいで嫌だな」
『一時的な拠点です』
「そうだな。一時的だ」
台車が外殻を下ろす。固定杭を打ち込む。杭打ち機が、どん、どん、と低い音を立てた。岩盤に杭が入っていく。外殻が固定される。入口区画が伸び、短い通路が船のほうを向いた。
ノアが水供給ラインを接続する。レンは補助電源セルをはめる。空調フィルターを差し込む。最後に入口の手動ロックを回した。
かち、と音がした。
[HABITAT MODULE STATUS]
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簡易居住モジュール:設置完了
気密:暫定安定
水供給:接続
補助電源:接続
空調:低出力稼働
内部環境:入室可能
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「入れるのか」
『はい』
レンは入口を開けた。中は暗い。ヘルメットのライトを向ける。狭いが、船より整っている。壁は白灰色。床は黒い滑り止め。右に作業台。奥に細いベッド。左に水供給口。空気はまだ少し薬品臭いが、焦げた臭いはしない。
焦げた臭いがしない。
それだけで、思ったより大きかった。
レンは入口で止まった。なぜか、すぐ中へ入れなかった。
『入室しないのですか』
「いや。入る」
一歩入る。床がきしむことはなかった。壁に手を置く。冷たい。だが、船の冷たさとは違う。壊れている冷たさではない。まだ新しい、使う前の冷たさだった。
奥のベッドに腰を下ろす。少し硬い。だが、横になれる。背中を預けられる。天井から火花も散らない。
レンは息を吐いた。
「……家だな」
『簡易居住モジュールです』
「家だって言っただろ」
『家です』
ノアの投影が、入口近くに浮かんだ。外よりはっきりしている。室内に投影補助が入ったのか、輪郭が安定していた。
「ノア、ここだと見えやすいな」
『居住モジュール内に簡易投影補助が組み込まれています』
「つまり、君もここに居やすい」
『投影安定性は向上しています』
「言い方が硬い」
レンはベッドに仰向けになった。脇腹が痛い。腕も重い。足もだるい。だが、床ではない。座席でもない。ちゃんと横になっている。
その瞬間、古い記憶が少しだけ戻った。
狭い部屋。安い折りたたみベッド。窓の外の雨。誰かが床に座って、スマホを見ている。レンが何かを直している。たぶん、壊れた小型ヒーター。声が聞こえた。
――直すのはいいけど、寝る場所まで部品置くなって。
レンは目を開けた。
モジュールの天井が見える。白灰色。青い細線。
「……まただ」
『記憶の断片ですか』
「ああ。部屋があった。誰かがいた。俺が何か直してた」
『人物識別は可能ですか』
「無理だ。声だけ」
レンは額に手を乗せた。顔は出てこない。名前も出てこない。だが、声の調子だけが残っている。少し怒っていて、でも本気ではない。
胸の奥が、変なふうに詰まった。
『記録しますか』
「してくれ。俺が忘れても、君は残しておいてくれ」
『了解しました。記憶断片を記録します』
ノアは静かに答えた。
その声を聞いて、レンは少しだけ目を閉じた。
ここは帰る場所ではない。仮の拠点だ。だが、壊れた船の床で丸まるよりは、人間らしい。たぶん、それだけでかなり違う。
モニターが壁に浮かぶ。
[BASE UPDATE]
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仮設拠点:設置完了
活動範囲:旧都市外縁 → 中心部方面へ拡大可能
長距離行動支援:改善
次段階:防衛設備確認
理由:中枢塔への経路上に未確認自律機械あり
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「防衛設備」
『はい。中枢塔へ向かう前に、周辺の防衛設備を確認する必要があります』
「つまり、敵かもしれない機械がいる」
『可能性があります』
「家を作ったら、次は防犯か」
『表現としては近いです』
「嫌な近さだな」
レンは起き上がった。身体は重い。だが、今すぐ行く気はなかった。
「今日はここまでだ。防衛設備は明日見る」
『推奨します』
「明日は、家の周りを確認する。勝手に撃ってくるものがあるかどうか」
『防衛設備確認を予定に登録します』
「撃ってくる前提で言うなよ」
ノアは答えなかった。
外では、搬送台車が工場へ戻っていく音がした。ごろ、ごろ、と遠ざかる。水路の音は細い。雨はほとんど止んでいる。
レンはベッドにもう一度横になった。
壊れた船。水路。採掘ライン。工場。通信塔。そして、家。
ひとつずつ増えている。生きるために必要なものが。帰るために必要なものが。危ないものも一緒に。
「ノア」
『はい』
「この家、鍵はあるか」
『手動ロックがあります』
「それだけ?」
『現状では、それだけです』
「明日は鍵も作る」
『防衛設備確認と合わせて検討します』
「物騒な家だな」
レンは目を閉じた。
焦げた臭いのしない空気。低く動く空調の音。遠くの工場音。ノアの気配。
眠れる気がした。
たぶん、ここに来て初めて。
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