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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
地上港を、帰る場所にする

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第174話 第一ロックが少しだけ動く

 通信塔の基部は、朝から低く熱を持っていた。


 レンは手袋越しに外装を触り、すぐに手を離した。熱い、というほどではない。だが、昨日までの待機温度より明らかに高い。上振れ値を試験計画へ入れただけで、塔は仮解除の入口へ向けて体を温めている。


『通信塔、試験出力へ移行可能です』


「先に生活系」


『給水、白。温食、白。医療・休息、白。出発待機線、白。E-03補助電源、白』


『右輪、黄色。白ではありません』


「そこは分かってる」


 ガタは通信塔前の白線に乗り、前輪灯を床へ落としていた。右輪の黄色い帯は昨日と同じ太さだ。レンはその帯を確認してから、中央卓へ戻る。今日の試験は第一ロックを開けるためのものではない。通常応答の外へ、どこまで安全に触れるかを見るための一段目だった。


 中央卓には三本の線が開いている。通常値、上振れ値、停止値。レンは通常値の照会を先に通した。床下の低音が短く鳴り、通信塔の白線が細く伸びる。


『第一ロック、閉鎖保持。通常低出力応答。生活系低下なし』


「基準、白」


『記録しました』


 次に、補助電力を試験出力へ上げる。保守棟側の補助電池が一段明るくなり、E-03の水循環音がわずかに太くなる。基地の給水棚では水音が続き、温食棚の保温表示も落ちない。そこを見てから、レンは承認キーに指を置いた。


「上振れ値の半分。保持じゃない。入口確認だけ」


『試験出力、半段上昇。第一ロック仮解除入口確認を開始します』


『嫌が増えたら言います』


「言うだけじゃなく止める」


『止めます』


 承認キーが沈む。床下の音が、通常照会より少し深くなった。通信塔の白線は明るく伸び、中央卓の第一ロック窓に細い円が浮かぶ。円は閉じたままだ。だが、その縁が一瞬だけ震えた。


『第一ロック、通常応答を超過。微小変位を検出』


 レンは息を止めた。


 動いた。


 開いたわけではない。解除でもない。軌道アンカーが姿勢を変えたわけでもない。それでも、閉じたままの第一ロックが、通常応答の線を越えて微かに動いた。画面上の白い円が、指先で押した古い蓋みたいに、ほんの一拍だけ浮いた。


「戻せ」


『試験出力を通常へ戻します』


 音が細くなる。白い円は元の閉鎖保持へ戻った。レンはすぐに生活系を見る。給水、温食、医療・休息、出発待機線、白。ガタ右輪、黄色維持。通信塔基部、温度上昇あり。E-03補助電源、白から黄白へ移行しかけている。


「E-03」


『温度が想定より上昇しています。危険域ではありません』


『黄白は好きです。でも、少し嫌です』


「今は好きの方を捨てろ」


『嫌にします』


 レンはE-03の表示を拡大した。補助電源そのものは落ちていない。水循環も止まっていない。だが、試験出力を半段上げただけで、E-03の温度予測が思ったより早く上がっている。成功の片鱗は出た。だからこそ、次に長く持たせるなら、ここが先に悲鳴を上げる。


 レンは端末越しではなく、E-03側の実物確認へ切り替えた。中央卓だけで終えると、また数字がきれいに見えすぎる。ガタに白線上で待機させ、レンは補助電源の点検口まで歩いた。通路の空気は朝より少し乾いていて、金属の壁に触れると、手袋越しにじんわり熱が返った。


 点検口の小窓には、水循環の細い光が残っている。予備電池の表示も落ちていない。けれど、冷却板の端に、いつもより早い結露が出ていた。熱を逃がすための水が、先に仕事を増やされている。


「E-03、落ちてはいない。だが、余裕は削れた」


『現地確認を記録します。水循環継続、冷却板結露増加、補助電源余力低下』


『床、少しぬるいです』


「ぬるいも正式化するか」


『嫌です。正式なぬるいです』


 レンは短く笑い、点検口を閉じた。笑える程度で済んでいる。そこが今日の報酬だった。第一ロックは微かに動き、地上港は落ちず、E-03は危険域へ行く前に熱を教えた。やりすぎる前に、設備の方から小さな声が出た。


 通信塔側から、ぱき、と小さな音がした。


 レンは顔を上げる。パネルの膨張音だ。床鳴り二回ではない。停止値ではない。けれど、止める前に聞いておくべき音だった。


「ノア、床鳴り一回を黄色へ入れろ」


『停止値ではなく注意値として登録します』


「ガタ」


『現地安全。砂なし。振動、小。右輪黄色維持。E-03の嫌が来ています』


「お前の嫌じゃなくてE-03の嫌か」


『床から来ます』


 レンは承認キーから手を離した。今日の試験は、動かすために成功した。止めるためにも成功した。第一ロックは微かに動き、E-03は想定より早く熱を持つ。どちらも、次へ進むための情報だった。


[FIRST LOCK LOAD STEP]

――――――――――

状態:第一ロック通常応答超過、微小変位を検出

出力:試験出力半段、保持なし

維持:給水/温食/医療・休息/出発待機線を継続

注意:E-03温度、想定より早く上昇

現地:ガタ右輪黄色維持、床鳴り一回

未実施:仮解除保持/軌道移送/高出力切替

次作業:保持試験の前にE-03温度上昇を監視条件へ追加

――――――――――


 ログを閉じても、レンの目には白い円の震えが残っていた。閉じたまま、少しだけ浮いた円。行けそうだ、と思わせるには充分で、油断するには危ない小ささだった。


「次は保持試験だ。長くしない」


『推奨します。E-03温度上昇を主停止条件へ追加します』


『嫌が増えました。でも、動きました』


「分かってる」


 温食棚の蓋を開けると、湯気は残っていた。水音も止まっていない。第一ロックは閉じたまま、通常応答の外へ一度だけ触れた。


 地上港は、まだ地上港のままだ。


 そのまま上へ手を伸ばすために、レンはE-03の黄色い温度線を見続けた。

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