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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
地上港を、帰る場所にする

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第168話 第一ロック保守手順を小さくする

 出発待機線の黄色い枠に、重量体と出発箱がまだ収まっていた。


 レンは朝の点検をそこから始めた。外部扉、除塵区画、入口選別点、給水棚、食事区画、静養室、寝台区画。前話で一人分を通した線は、どれも白い表示を保っている。保温棚には試験用の温食容器が二つ、水容器は満水、静養室の入口側一床は再開放済みだった。


『地上港機能、待機状態です』


「待機線を残したまま、別の作業を入れる」


『第一ロック保守手順ですか』


「そうだ。ただし、ロックにはまだ触らない」


 通信塔の方向を示す運用図を開くと、軌道アンカー第一ロックの表示が橙のまま浮かんだ。その下には、保守受信口、既知損傷、未解除、信号未送信という四つの短い行が並ぶ。見慣れた警告なのに、基地が地上港になった後では意味が少し変わっていた。


 ここから先の失敗は、機械だけを止める失敗では済まない。


 レンは表示の横に、生活系統を並べた。出発待機線、給水、水処理、温食、医療、休息、ガタ充電。白い線が基地の床に沿って走り、通信塔へ向かう細い補助線とは別の色で表示される。


「第一ロックを見るために、こっちを黄色にしたら負けだ」


『生活系優先を推奨します』


『本機の充電も生活系です』


「お前は出発待機線の搬送担当だ。右輪は?」


『黄色。ですが充電中なら文句は少ないです』


 ガタは整備台の横で低く駆動音を鳴らした。右輪の表示は、昨夜から変わらず黄色の帯に入っている。充電端子は白で、搬送台のロックも白。レンはそこへ、通信塔補助出力の線が食い込まないよう、運用図の上で境界を引いた。


「第一ロック保守を四つに割る。姿勢確認、保守信号送信、保持確認、即時停止」


『登録候補を開きます』


「候補じゃなく、作業台だ。大きすぎる手順を、そのまま現場へ持ち込まない」


 ノアが第一ロックの既知データを呼び出した。軌道上の構造図は細かすぎて、レンには歪んだ輪と赤い欠損線の束に見える。だから彼は、表示の中央から手元へ引っ張るように、地上で確認できる項目だけを別枠へ落とした。


 第一段階、姿勢確認。


 軌道アンカーへ何かを送る前に、基地、通信塔、E-03、保守棟の地上網が同じ基準を見ているか確かめる。通信塔の向き、E-03の水循環、保守棟の補助電池、基地の生活系。その四つが白でなければ、姿勢確認は失敗とする。


「ここで止まれる?」


『可能です。信号生成前の照合です』


「停止条件。生活系が一つでも黄色へ寄る。通信塔出力が上限未満を外れる。ガタの充電が切り離される。出発待機線が塞がる」


『記録しました』


『本機の充電を停止条件へ入れた点は評価します』


「右輪が黄色の搬送担当を空にして試験はしない」


 第二段階、保守信号送信。そこへ進むと、表示だけでも急に重くなった。軌道アンカーへ低出力の保守信号を投げる本番の枠だからだ。レンは指を止め、項目名の頭に「模擬」を付けた。


「今日は本送信なし。内部ループだけ」


『軌道アンカーへの実信号は生成しません。通信塔内の模擬パルスへ置換します』


「保守受信口の形だけ合わせる。外へ出さない」


『はい。第一ロックは未解除を維持します』


 第三段階、保持確認。信号を投げた後に返事を待つのではなく、地上側がその短い状態を抱えたまま生活を落とさないかを見る。レンは温食加熱器を試験用に一つ起動し、給水口から容器へ水を満たした。低い送風音と水の細い音が同時に立つ。静養室では簡易診断器が白い待機光を点け、寝台区画の空調も変わらない。


『温食、給水、医療待機、休息床、ガタ充電、すべて白』


「保持確認の停止条件。白が一つでも欠ける。出発待機線の重量体が動く。通信塔が保持を優先して生活系から電力を持っていく」


『保持より生活系優先として制限します』


 第四段階、即時停止。


 レンはこの枠だけ、他より大きくした。止め方が小さければ、手順は現場の道具にならない。通信塔模擬パルスの遮断、保守棟補助電力の通常監視復帰、E-03水循環の維持、基地側加熱器と給水の継続、ガタ充電の維持。止めるのは保守試験だけで、人が飲む水と温かい食事は止めない。


「即時停止で、温食の鍋まで冷えるのは違う」


『鍋ではありません。加熱容器です』


「冷えるなら同じだ」


『加熱容器は継続、保守試験のみ停止。記録しました』


 レンは一度、実物の床を見渡した。出発待機線には重量体と出発箱がある。給水棚の水容器は動かず、食事区画の加熱器は低く鳴っている。静養室の診断器は白、寝台の布は張り直したまま、ガタは充電端子につながっている。


 この状態を崩さないで、第一ロックへ触る前の練習だけをする。


「ノア。内部ループを一回。軌道アンカーへは出さない」


『模擬パルスを通信塔内で折り返します。外部送信なし。第一ロック未接触』


『右輪への振動は来ますか』


「来たら失敗だ」


『では来ないことを希望します』


 レンは承認を押した。通信塔の表示が一瞬だけ細く白くなり、基地の床下で低い振動がひとつ鳴った。外へ抜ける音ではない。壁の内側で工具箱の蓋が軽く震える程度の、短い確認音だった。


 温食加熱器の送風は続いた。給水口の流れも細くならない。静養室の白い待機光は乱れず、寝台区画の空調は変わらなかった。ガタの充電表示も白いまま、右輪だけが黄色の細い帯を保っている。


『内部ループ応答、地上網内で確認。軌道側応答ではありません』


「応答再取得じゃないな」


『違います。通信塔内の模擬折り返しです』


「第一ロックは」


『未解除。保守受信口への実信号なし。軌道移送なし』


 レンは息を吐いた。成功というには小さい。だが、失敗しなかっただけでもない。水も、温食も、医療も、休む場所も、出発待機線も、ガタの充電も残ったまま、第一ロックへ触る手前の台だけが白く固定された。


 彼は即時停止を実行した。


 通信塔の模擬パルス表示が消え、保守棟補助電力が通常監視へ戻る。E-03の水循環は途切れず、基地の加熱器は最後まで容器を温めた。給水容器の規定線まで水が届くのを待ってから、レンは蓋を締め、温食容器を保温棚へ移した。


「止めても飯が残る」


『第一ロック保守試験停止後も、地上港機能は維持されています』


『本機の充電も維持です』


「そこはもう分かった」


『重要です』


 重要だった。レンは言い返さず、運用図へ安全手順を登録した。登録名は大げさにしない。軌道アンカーだのロック再取得だのと書けば、次に見る自分が押していいものだと勘違いする。


「第一ロック地上保守、実送信前手順」


『登録名を確認しました』


「四段階。姿勢確認、模擬保守信号、保持確認、即時停止。保護対象は、出発待機線、給水、温食、医療、休息、ガタ充電」


『安全手順として登録します』


[FIRST LOCK GROUND MAINTENANCE DRY RUN]

――――――――――

段階一:姿勢確認/基地・通信塔・E-03・保守棟が白表示

段階二:模擬保守信号/通信塔内折り返しのみ、軌道送信なし

段階三:保持確認/生活電力と補給を優先、白表示を維持

段階四:即時停止/保守試験のみ停止、地上港機能は継続

保護対象:出発待機線/給水/温食/医療・休息/ガタ充電

第一ロック:未解除/応答再取得なし/軌道移送なし

次作業:基地・通信塔・E-03・保守棟の担当固定

――――――――――


 ログを閉じても、床の状態は変わらなかった。重量体は出発待機線にあり、水容器は満ち、温食は保温棚で湯気を閉じ込めている。静養室も寝台も空き、ガタは右輪を黄色のまま充電を受けていた。


「ノアは監視の候補。ガタは現地安全の候補。俺は承認の候補」


『候補として記録しました。固定は未実施です』


『現地安全は、右輪が黄色でもできますか』


「だから次で決める。できる場所と、やらない場所を分ける」


 第一ロックはまだ閉じている。返事も取り戻していない。だが、そこへ手を伸ばすための台は、生活を踏みつぶさない高さに下がった。


 レンは保温棚から温食容器を一つ取り出し、出発待機線の横の低い台へ置いた。保守試験の後でも、誰かが来たら温かいものを出せる。その事実を見てから、彼は第百六十九話の担当固定へ渡す欄に白い印を入れた。

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