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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
地上港を、帰る場所にする

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第166話 受け入れられる人数

 レンは寝台区画の床へ、二十個目の資材箱を置いた。


 中身は固定具と洗浄済みの接点片だが、上には水袋を縛り、人ひとり分に近い重さへ合わせてある。箱は寝具の中央へ沈み、張り直された薄い敷材がゆっくり形を変えた。


『二十床、荷重確認』


「寝かせただけだ。水も飯も、怪我人の場所もいる」


 通路の入口で、ガタが低い運搬台を押してきた。右輪は黄色。重い箱を右側へ寄せないよう、運搬台の荷は左へずらして固定してある。


『急旋回は嫌です』


「寝台の間で曲がるな。まっすぐ置いて、まっすぐ戻れ」


『それなら可能です』


 二十個の箱は、基地へ人が着いたつもりで並べた。実在の避難者を連れて試すわけにはいかない。だが端末の人数欄へ二十と打ち込むだけなら、寝具の隙間も、給水口までの遠さも、担架が通れない角も見えない。


 レンは寝台の間へ身体を入れた。肩幅一つ分の通路は残っている。だが手前の箱へ医療用の折り畳み担架を差し込むと、持ち上げた端が隣の寝具へ当たった。


「これじゃ奥の怪我人を出せない」


『二列配置を一列減らすと、寝台区画内の定員は十六になります』


「残り四人を追い出すんじゃない。外へ分ける」


 寝台区画の奥を休息用十六床にし、出入口に近い四床を隣の静養室へ移した。静養室には壁面電源と洗浄口があり、医療棚から近い。折り畳み担架を広げ、止血材、固定帯、簡易診断器、保温布を四組置く。


 箱を一つ、担架へ移す。レンとガタで入口まで運び、除塵区画から静養室へ入る線を実際に通した。ガタは右輪を黄色のまま低速で回し、角では一度止まって左輪だけを小さく動かした。


『接触なし。右輪、黄色』


「医療はここだ。入口で選別、歩けない人は静養室へ直行。寝台区画を横切らない」


『四床を医療優先として固定します』


 次は水だった。


 レンは給水口へ二十本の容器を並べた。一本ずつ規定線まで満たし、蓋を締め、寝具の足元へ運ぶ。給水口だけで配れば通路が詰まるため、十本は食事区画、十本は寝台区画入口の低い棚へ分けた。


 最後の二本を同時に満たすと、片方の流れが細くなった。


「二口でこれか」


『水処理量は足りています。給水枝管の圧力が低下しています』


「全員を並ばせる設備じゃないな」


 レンは洗浄用の予備容器を外し、寝台区画側の棚へ満水の容器を先置きした。蛇口を増やす代わりに、基地へ到着する前から補充を始め、空になった容器だけを戻す。給水口の前には、箱二つ分の通路が残った。


 食料加熱器へ保存食を入れると、低い送風音が上がった。豆と乾燥菜、合成タンパクの容器を十食ずつ二回に分ける。二回目を起動しても、水循環と寝台区画の空調は白い表示を保った。


 蓋の縁へ触れると、指先へ熱が返る。


「二十人なら、作業を止めなくても温かいものを二回で出せる」


『通信塔は停止中監視を継続。E-03の水循環と予備電池維持充電も継続しています』


『本機の充電も継続です』


「お前はさっきから働いてるだろ」


『右輪は黄色ですが、基地内の直進搬送は許容範囲です』


 二十食を保温棚へ並べると、金属棚が小さく軋んだ。湯気の立つ容器、満たした水、実際に荷重を受けた寝具、入口から通せる担架。数字ではなく、二十人分の場所が基地の中にできていた。


 だが四十人目の箱を運び込むと、同じ配置は崩れた。


 寝台区画は埋まっている。静養室は医療用で動かせない。レンは修理棚の前に立ち、床へ引かれた作業線を見た。ここへ寝具を敷けば、工具箱を開けられない。洗浄台も半分塞がる。


「四十人を入れるなら、外部作業は止める」


『通信塔の高出力照会、外部巡回、回収材修理を停止します』


「停止中監視と生活系は残す。修理棚の危険物だけ閉じる」


 工具を壁面庫へ戻し、接点箱と導電布を固定した。洗浄台は給水と食器洗いに使うため残し、その手前から整備床まで、折り畳み寝具を二十組広げる。


 ガタの整備台は動かさなかった。右輪を浮かせたまま、周囲に黄色い境界線を引く。充電端子と整備具へ誰かが足を取られない幅を残し、寝具は反対側へ寄せた。


『本機の場所は、受け入れ人数に含まれますか』


「含めない。お前は設備だ」


『不満です』


「じゃあ黄色の設備だ」


『もっと不満です』


 乾いた声を聞きながら、レンは四十人分の水を満たした。二十人分を追加すると、給水口の前へ空容器が溜まる。そこで食事区画側を配布、寝台区画側を回収と決め、満水容器と空容器が逆向きに流れるよう棚を分けた。


 食料加熱器は十食ずつ四回。三回目の途中で、修理床側の空調表示が黄色へ寄った。


「寝具を増やした分、風が抜けてない」


『床面吸気口が二か所隠れています』


 レンは温かい容器を保温棚へ移し、加熱を止めずに寝具をめくった。箱の下から低い吸気音が戻る。二列の間を広げて床の格子を露出させると、黄色だった空調線が白へ戻った。


「寝具は吸気口から手の幅二つ離す。四十人の時は、ここから修理場じゃない」


『作業停止時の二十床を固定しました』


 四十食目の加熱が終わる。温かい容器が四段の棚を埋め、水の容器が二つの配布棚へ並んだ。寝台と修理床には四十個の重量体が横たわり、静養室の四床だけは担架を入れ替えられる。


 四十人なら、基地の仕事を止めて迎えられる。


 五十人目までを横にする場所はなかった。


 外部扉から入ってすぐの床へ寝具を敷けば、砂を持ち込んだ人と休む人が重なる。レンは追加の十組を収納へ戻し、食事区画の机を壁へ畳んだ。空いた壁沿いへ折り畳み椅子を八脚、通路の短辺へ固定腰掛けを二席出す。十個の箱を座位の重さで置いても、外部扉から静養室まで担架一本分の線は残った。


『寝床四十、座位退避十。作業、食事着席、通常除塵を同時には行えません』


「緊急時だけだ。外から入れたら、扉を閉じて一斉除塵。終わるまでは寝具へ上げない」


『長期滞在には不適です』


「分かってる。五十は短時間だ」


 最後の十本へ水を入れた。給水圧は落ちたが、空容器の回収を止め、満水側だけへ流せば規定線まで届く。食料加熱器では五回目の十食が温まり、保温棚に入らない分を断熱箱へ移した。これは到着直後の一食だけだ。同じ五十食を次の時間にも繰り返せる在庫ではない。


 医療位置も増やした。静養室の四床は動かさず、除塵区画を出た正面に選別点を一つ置く。簡易診断器、止血材、保温布、識別帯。歩ける人は左右へ、担架が必要なら中央の線を静養室へ通す。


 レンは五十個の箱の間を、空の担架を持って歩いた。


 椅子の脚へ一度つまずき、壁際へ固定し直す。水棚の前で肩が当たり、下段を奥へ押す。食事区画の断熱箱を半歩ずらすと、ようやく外部扉から静養室まで止まらず通れた。


 ガタも同じ線を走った。右輪は黄色のまま、急旋回せず、椅子にも水にも触れない。静養室の前で停止すると、振動表示は開始時の帯に収まっていた。


『五十人配置。医療搬送線、通過可能』


「温食」


『五十食、到着直後の一食として実加熱済み。二十食は保温棚、三十食は断熱箱』


「水」


『五十人分、実給水済み。寝台側、食事側、緊急側へ配置』


「休める場所」


『寝床四十、座位退避十を実荷重確認。吸気口と扉の作動範囲を確保』


 レンは一番手前の椅子へ腰を下ろした。背へ保温布を掛けると、隣の水容器が小さく鳴る。温食の匂いが断熱箱の隙間から流れ、空調へ吸われていった。座ったまま一夜を越す十人に、眠れる場所まであるとは言えない。


 基地は広くなっていない。水処理も加熱器も、寝台も医療棚も、昨日までと同じだった。ただ、どこまでなら壊さず使えるかが、床の上に見えている。


[BASE TEMPORARY ACCEPTANCE]

――――――――――

通常受け入れ:二十人/外部作業・監視・生活系を継続

作業停止受け入れ:四十人/修理床を寝床へ転用

緊急短時間受け入れ:五十人/四十床+座位十、長期滞在不可

給水:二系統配布/空容器と満水容器を分離

温食:到着直後の一食のみ実加熱、反復供給不可

休息:寝床四十/椅子・腰掛け十、吸気口と医療搬送線を確保

医療:入口選別点/静養室四床/中央搬送線

――――――――――


 レンはログを閉じた。


 表の向こうには、五十本の水と、まだ温かい一食分の五十食、重みで沈んだ四十組の寝具、壁沿いの十席が残っている。静養室の灯りも点き、入口の診断器は誰もいない床を測定待機の白で照らしていた。


「二十なら働いたまま。四十なら仕事を止める。五十は、短時間だけ」


『それ以上は受け入れ不能です』


「五十を住ませ続ける場所でもない」


 言ってから、レンは箱の列を見渡した。追い返すための上限ではない。外から誰かを連れ帰った時、温かいものと水を渡し、四十人を横にし、残る十人も保温して、怪我を見られる人数だ。


 ガタが整備台から前輪灯を向けた。右輪の黄色は消えていない。それでも五十人分の場所を作る間、一度も橙には入らなかった。


『一人目から五十人目まで、入れます』


「ああ」


 レンは断熱箱から一食を取り出した。試験に使った温食を冷ます理由はない。箱の列の隣へ座り、蓋を開ける。豆と乾燥菜の湯気が上がった。


 誰も来ていない基地で、五十人を迎えた時と同じ温かさが、レンの手に残った。

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