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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
地上港を、帰る場所にする

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第165話 上げっぱなしにしない

 朝の洗浄水を流したまま、レンは通信塔の起動欄を開いた。


 直した排水ポンプが洗浄台の下で低く回り、昨夜の工具から落ちた黒い粉を受け皿へ溜めずに吸い込んでいる。隣では食料加熱器が朝の保存食を温め、整備台のガタには充電端子が刺さっていた。基地の外では、E-03の水循環と予備電池の維持充電が夜間から続いている。


「この状態を残したまま、塔を一回起こして、照会して、冷やして止める」


『可能です。ただし、通信塔出力を上げる時間と生活維持負荷の重なりを固定する必要があります』


『充電を切らないでください』


「切らない。水も、飯も、洗い物も止めない」


 レンは端末の上段に通信塔、下段に基地とE-03の生活系を置いた。以前の試験では、塔が必要値へ届くことも、負荷中に止められることも確認している。今日は成功するかを見るのではない。毎回どこで始め、どこで終えれば、塔以外の仕事を食わずに済むかを決める。


 まず、夜間監視から朝の低出力運用へ移す。停止中の生存信号は途切れていない。導波材も中継板も待機温度まで下がり、給電端子は開放を保っていた。


「再起動前点検。塔側だけ」


『給電端子、開放。戻り電力なし。導波材、待機温度。冷却路、左右差なし』


「E-03」


『照明、白。水循環、継続。予備電池、維持充電中』


『本機、充電中です』


 ガタの右輪は整備台から浮いたまま、黄色表示を細く残している。外へ出す予定はないが、次に走る時のための充電まで通信塔へ譲れば、時間割を作る意味がなかった。


 レンは食料加熱器から容器を取り出した。蓋を開けると、豆と乾燥菜の匂いが湯気に混じる。温め終えた加熱器は高負荷から保温へ落ち、基地側の電力線に余裕が戻った。


「照会窓は、食事を温めたあと。洗浄台は使っていい。外套乾燥は後ろへずらす」


『外套乾燥を照会後の冷却時間へ移します』


「移すだけだ。省かない」


『記録しました』


 通信塔分岐を開く前に、冷却ポンプを起こした。受信器の奥で水音に似た振動が立ち、左右の流量線が重なる。少し遅れて給電端子が閉じ、中継板と導波材へ低い唸りが渡った。


 その下で、E-03の水循環は同じ幅を保っている。予備電池へ向かう充電線も細くはなったが、停止までは落ちない。基地の洗浄台では排水ポンプが工具のすすぎ水を吸い続けていた。


「生活側が黄色へ入ったら、塔を戻す」


『通信塔側の上限より先に、生活維持側の下限を停止条件へ追加します』


「塔が平気でも、こっちが干上がったら失敗だ」


『同意します』


 レンは温かい容器を片手に持ったまま、出力を一段上げた。受信器の音が細くなり、塔身の表示灯が下から順にともる。もう一段。冷却の流れが増え、床を伝う補助電源の振動が足裏へ届いた。


 三倍強の照会運用値へ入っても、レンは光を見上げなかった。


 見るのは下だった。E-03の水、置いた電池、基地の排水、ガタの充電。通信塔の温度と反射が白でも、その四つのどれかが止まれば、この時間帯には使えない。


『照会運用値、安定』


「生活側」


『水循環、継続。E-03予備電池、維持充電。基地洗浄排水、継続。本機充電、継続』


『少し遅いですが、増えています』


「満充電を急ぐ時間じゃない。減らなければいい」


 外部映像では、通信塔の先端に細い白が立っていた。前にも見た光だ。レンは見慣れた表示を確認し、軌道照会の通常項目だけを開く。現在位置と姿勢、既知の損傷状態。新しい保守要求も、操作信号も加えない。


「一回だけ送る。返りを待っても、窓は延ばさない」


『通常照会を送出します』


 高い音が短く伸び、白い先端光が絞られた。送出はすぐ終わったが、塔は返りを受けるため照会運用値を保つ。レンは容器を作業台の端へ置き、受信時刻の欄と生活負荷の線を同じ画面へ固定した。


 待つ間にも、基地の仕事は動いた。


 洗浄台の水を止めると、排水ポンプが残りを吸い切って軽い音へ変わる。レンはすすいだ工具を布へ並べ、次の外部作業用の工具袋へ戻した。絶縁手袋、端子清掃材、封止帯。防塵外套の棚には交換フィルタを置き、空だった携行水筒へ給水口から水を満たす。


『外出準備を開始しています』


「照会中にできる。塔の前へ見張りに行かなくていいからな」


『ガタはまだ充電中です』


「だから荷は載せない。袋を作るだけ」


 工具袋の留め具を締めた時、受信器が一度鳴った。


『通常照会の応答を受信。現在位置、姿勢、既知状態に急変ありません』


「保存。新しい要求は出すな」


『照会欄を閉じます』


 返りが早かったからといって、次の照会を重ねる理由にはならない。照会窓は二十分。レンはその終端まで温度と反射を見届け、時刻が来ると出力を一段ずつ落とした。白い先端光が薄れ、補助電源の振動が足裏から遠ざかる。


『照会運用を終了。通信塔、低出力待機』


「送出部を切る。冷却は残す」


 厚い接点が開いた。通信塔から空へ伸びていた線は記録線へ戻り、受信器には冷却ポンプの音だけが残る。E-03側では、それまで細かった充電線が元の幅へ戻った。


『E-03予備電池、通常維持充電へ復帰』


『本機も速くなりました』


「冷却は照会の倍、最低四十分。待機温度へ戻らなければ延長」


『最低四十分と待機温度到達の、遅い方を終了条件にします』


「止まって待つ時間じゃない」


 レンは保温していた朝食を食べながら、外套乾燥を起動した。温風が格納棚の内側を通り、昨日の面体と首布から湿気を抜いていく。通信塔の熱を捨てている間に、基地では外へ出る装備が乾く。食べ終えた容器を洗浄台へ置けば、水は流れ、排水も詰まらない。


 ノアが二つの時間帯を重ねた。上には通信塔の残熱低下、下には外套乾燥、工具洗浄、携行水の補充、ガタの充電。どれも同じ時間に動いているが、警告線へ触れていない。


「冷却が終わるまでに、次の外出準備が終わる」


『はい。防塵外套、乾燥完了。携行水、補充済み。工具袋、封止済み』


『本機は、もう少しです』


「出発時刻までには足りる。今日は出ないけどな」


『それは先に言ってください』


「右輪が黄色だろ」


『知っています』


 乾いた外套を棚から引くと、首布に冷たい湿りは残っていなかった。レンは面体の封止を確かめ、工具袋と携行水を同じ区画へ置く。今すぐ外へ出なくても、警告が鳴れば着て持ち出せる。


 通信塔の温度が待機帯へ戻った。


「停止前点検」


『導波材、待機温度。中継板、反射残りなし。戻り電力なし。停止中監視へ移行可能です』


「冷却停止。塔側給電を開放」


 ポンプ音が低くなり、最後に消えた。通信塔欄は灰色へ戻る。少し間を置いて、停止状態を示す短い生存信号が基地へ届き、新しい時刻を残した。


 塔を上げ、照会し、下げ、冷やし、停止後の応答まで受けた。


 その間、E-03の水は回り続けた。予備電池もガタも充電を失わず、レンは温かい朝食を食べ、工具と食器を洗い、乾いた外套と水と工具袋を外出棚へ揃えた。


「これを一周期にする」


『開始条件、二十分の照会窓、最低四十分の冷却、再起動前点検を固定します』


「再起動は、前の周期が終わったからじゃない。生活側が戻って、塔の熱が抜けて、現物を見てから」


『自動連続運転は許可しません』


『上げっぱなしは嫌です』


「俺もだ」


 レンは運用表を時刻だけの棒にしなかった。食料加熱が保温へ落ちたあとに二十分の照会を始める。照会中も水循環と維持充電は継続する。送出を止めたあとは最低四十分、かつ待機温度へ戻るまで冷却し、その間に外套乾燥、洗浄、給水、工具準備を入れる。再起動前には塔の残熱だけでなく、E-03の水と電池、基地側の生活負荷が通常へ戻ったことを確かめる。


[GROUND QUERY TIME WINDOW]

――――――――――

開始前:停止履歴/残熱なし/冷却路/生活維持負荷を確認

照会窓:通信塔を三倍強で二十分運用

継続負荷:E-03水循環/予備電池充電/基地洗浄/ガタ充電

冷却:最低四十分、かつ待機温度到達まで

冷却中作業:食事/洗浄/外套乾燥/携行水・工具準備

終了条件:残熱排出/生活負荷復帰/停止中応答を受信

再起動:現物点検と生活負荷復帰後に手動承認

連続運転:禁止

――――――――――


 表を閉じると、基地は通信塔を使う前と同じ音へ戻っていた。


 水が配管を流れ、充電器が低く唸り、乾いた外套の留め具が棚の中で小さく揺れる。照会のために暮らしを止めるのではない。暮らしの間へ、塔を起こして戻せる幅を作った。


 レンは外出棚から工具袋を一度持ち上げた。水筒と合わせても重すぎない。面体は乾き、フィルタも封止されている。ガタの充電表示も、出発可能域へ戻っていた。


『次の外部作業へ出られます』


「塔を使ったあとでもな」


 停止中の通信塔から、また短い生存信号が届いた。警告ではない。次の起動を急かす音でもない。


 上げる時間と、冷やす時間と、その間にも止めないものが決まった音だった。

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