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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
地上港を、帰る場所にする

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第164話 見張りに行かなくても止められる

 通信塔の定期見回りへ出る前に、レンは昨日の現地記録を基地端末へ重ねた。


 受電中の温度、冷却流量、中継板の出力は合っている。現地で手首端末へ拾った線と、基地へ返っていた線はほとんど同じ形だった。だが停止命令を入れた時刻から夜明けまで、基地側の履歴だけが一本の灰色になっている。


「停止中、で埋めたんじゃない。何も届いてない」


『はい。最後に受信した停止状態を表示し続けています』


『止まっているように見えます』


 整備台のガタが前輪灯を灰色の帯へ向けた。右輪は床から浮き、状態表示は黄色のままだった。今日の巡回は通常経路なら通信塔まで行って戻る。走れなくはないが、見るだけの往復で黄色の輪を削る理由はない。


「最後が正常でも、その後に何か起きたら分からない。夜の砂で停止器が戻ったとか、冷却が抜けたとか」


『作動中は状態送信が継続します。深夜停止へ移行した後、通信塔側の送信回路が省電力待機に入り、状態変化がない限り再送しません』


「変化がない、も届かないと履歴にならない」


 レンは昨日の現地記録を時刻順に送った。停止器の開放、受電端電圧なし、冷却停止後の温度低下。そこまでは基地履歴と一致する。その先は、手首端末が現地で拾った二度の定時応答だけが残り、基地には届いていなかった。


『通信塔の送信回路は、状態変化を優先して蓄積しています。停止中の定時応答は一時記憶に残っていますが、次回起動時まで送信されません』


「次に起こすまで、夜の無事が分からない仕組みか」


『設計上は有人管制が定時照会する前提です』


「今の有人は俺一人だ。毎晩、塔の前に立てない」


 レンは通信塔の状態送信と、E-03から来る最低維持電力を並べた。作動中監視を増やす必要はない。足りないのは、塔を止めたあとにも短い生存信号を基地まで押し返し、変化がなくても時刻を残す道だった。


「停止中の送信だけ、E-03の待機線へ分けられる?」


『可能です。送信回路全体ではなく、状態記憶と短周期送出のみを維持します。通信塔主受電、中継板、送信部は停止を保ちます』


「履歴は塔に溜めるな。基地で受けた時刻を残す。遅れて届いた分は遅延と表示」


『受信側の連続記録に空きがあります』


 基地端末の下で、古い記録器が細く鳴っていた。同じ状態が続くと接点を開き、表示欄へ最後の値だけを残す。作動中の変化を見るには足りたが、停止中の生存信号を並べれば、同じ値として捨ててしまう。


 レンは昨日、保守棟から回収した小型接点箱を修理棚から出した。清掃済みの接点片を一つ選び、記録器の空いている入力へ差す。固定ばねを押し込むと、かち、と乾いた音がして白い表示が返った。


『停止状態専用の受信入力を確認しました』


「同じ値でも時刻だけは進める。温度、出力、停止。冷却は止めたあと、残熱が抜けるまで」


『夜間表示を暗くしますか』


「暗くしていい。消すな」


 端末の通信塔欄が四段に分かれた。温度は低下後の帯、出力は零、停止器は開放、冷却は残熱排出を終えて停止。色を増やす代わりに、届いた時刻だけが一段ずつ進む。


 最初の生存信号がE-03の待機線を通った。


 受信器の奥で、作動中の唸りとは違う短い音が鳴る。通信塔の主受電は灰色のまま、中継板も送信部も起きない。記録器だけが接点を一度閉じ、停止状態の欄へ新しい刻みを残した。


『停止中応答、受信』


「次が来るまで待つ」


『定期見回りの出発予定を越えます』


「だから待つ。これで分かるなら、見に行かない」


 ガタは整備台の上で右輪を動かさなかった。黄色の表示だけが残り、充電音も低いまま続いている。レンは防塵外套を格納棚から出さず、端末前で二度目の応答を待った。


 二度目も同じ短い音だった。温度、出力、停止に変化はない。だが時刻は進み、最初の刻みとの間に空白はできなかった。


「停止したまま、基地へ返ってる」


『夜間を含む連続履歴を開始しました』


「次は、異常が出た時だけ俺を呼べるか」


 レンは警告条件を作動中と停止中へ分けた。作動中は以前から使っている温度上昇、反射増加、冷却流量低下を残す。停止中は出力が零以外へ動く、停止器が閉じる、温度が低下帯から上向く、生存信号が続けて欠ける。そのどれかを基地警告へ上げる。


『警告時の行動を登録しますか』


「表示だけで終わらせない。最初に基地から通信塔を止める。応答がなければE-03分岐を落とす。その後で現地へ行く」


『通常巡回または緊急帰還線を使用します』


『右輪、黄色です』


「警告がなければ、お前も行かない」


『賛成します』


 新しく設けた警告が、既存の遠隔停止まで一続きで届くかは確かめておく必要がある。レンは通信塔を低出力待機へ戻し、冷却を先行させた。中継板は待機域の下側、送信部と照会命令は停止したままにする。


「高出力にはしない。温度検出だけ模擬入力を入れる」


『通信塔のセンサ試験線へ、上昇信号を段階入力します。実温度と試験値を分離して記録します』


「警告で俺が止める。自動停止はその後ろに残す」


『二系統とも待機します』


 レンは模擬入力を一段上げた。基地端末の温度線が通常帯の上へ寄る。実温度は横ばいで、冷却音も変わらない。もう一段入れると、表示の縁が白から黄色へ変わった。


 まだ警告は鳴らない。


「黄色は見に行く理由じゃない。上がり続けた時だけ呼べ」


『設定どおりです』


 三段目を入れた。


 基地の天井近くで、短い警告音が鳴った。通信塔欄が赤へ変わり、温度上昇、低出力待機中、遠隔停止可能、と三行だけを出す。履歴には、最初の上昇から警告までの線が切れずに残っていた。


「通信塔、停止」


 レンが赤い欄を押すと、受信器の奥で硬い遮断音が返った。通信塔の受電端が開き、中継板の待機出力が零へ落ちる。冷却だけが残熱排出へ移り、E-03の照明と維持充電は白いまま残った。


『通信塔受電、遮断。出力、零。停止器、開放』


「温度」


『実温度、安定。模擬入力を解除します』


『止まりました』


 警告音が止み、赤い欄は黄色の確認待ちへ変わった。レンはすぐ再起動を許可せず、停止中の生存信号を待った。


 短い受信音が鳴った。


 出力は零。停止器は開放。温度は低下帯へ戻り、冷却は残熱排出を続けている。次の応答では冷却も停止へ移り、それでも温度と停止状態の時刻は進んだ。


「現地へ行く理由は?」


『ありません。警告原因は模擬入力と確定。通信塔は安全停止し、停止後状態も連続受信しています』


「定期見回りから通信塔を外す」


『平常時の現地確認を削除します。警告時は通常巡回。遠隔停止応答なし、または状態信号欠落継続時は緊急帰還線を使用します』


『本機は行きません』


「今日はな。異常が出たら行く」


『右輪、黄色のまま待機します』


 レンは巡回図から通信塔へ伸びる毎日の印を外した。経路そのものは消さない。現地停止器の整備や部材交換には使う。だが、止まっていることを見るためだけの往復は、基地の警告がない限り行わない。


 出発予定から、すでに通信塔までの往復分が空いていた。


 防塵外套は格納棚に残り、フィルタも水も減っていない。ガタの右輪は一度も砂を踏まず、黄色の帯も開始時の幅を保っている。レンは端末を監視音だけ残して縮め、修理棚の下から小型排水ポンプを引き出した。


 洗浄台の排水が弱く、昨夜から受け皿へ汚水を溜めていた。急ぐ故障ではないため、外部巡回の後へ回していた仕事だった。ポンプを開くと、内部の接点が片側だけ黒く焼け、振動するたびに導通を失っている。


「昨日持ち帰った接点、もう一つ使う」


『通信塔受信器に一つ、排水ポンプに一つです』


『空で帰らなかった分です』


「それを言いたかったのか」


 焼けた接点を外し、同じ厚みの清掃済み部品へ替える。ばねを戻して蓋を締め、洗浄台の下へ押し込むと、ポンプは一度だけ低く唸った。受け皿に溜まっていた灰色の水が渦を巻き、配管へ吸い込まれていく。


 底に残った砂まで流れ、空になった受け皿が軽い音を立てた。


『排水、連続しています』


「外から戻った時に、汚水を手で捨てなくていい」


 レンは工具を洗浄台へ置いた。水を流すと、黒い接点粉が指先から落ち、今度は受け皿へ溜まらずそのまま排水へ消えた。小さな修理だったが、次の外部作業の後にも使える。


[COMMUNICATION TOWER CONTINUOUS WATCH]

――――――――――

作動中監視:継続

停止中・夜間:状態応答と受信時刻を連続記録

監視項目:温度/出力/停止/残熱冷却

異常模擬:基地警告・遠隔停止を確認

平常巡回:通信塔の定期確認を削除

現地出動:警告時のみ通常巡回または緊急帰還線

照会出力の時間制運用:未設定

――――――――――


 ログを閉じても、通信塔の停止履歴は進み続けた。暗い表示の端で、無事を示す時刻だけが新しくなる。警告音は鳴らない。


 レンは整備台の横へ折り畳み椅子を出した。次の停止中応答まで座るつもりが、背を預けた途端、首の力が抜けた。外套を着て砂を往復するはずだった時間が、まだ残っている。


『休息を推奨します』


「次の応答まで」


『その次まででも、監視は継続します』


『右輪も休息中です』


 ガタの充電音と、直した排水ポンプの低い回転音が重なった。レンは目を閉じたまま、通信塔から来る短い受信音を一度聞いた。警告ではない。停止中の塔が、停止したままだと基地へ返した音だった。


 次に決めるのは、塔をいつ高く起こし、いつ冷やし、何を確かめてからもう一度起こすかだ。


 だが今は、誰も砂漠へ見張りに行かなかった。

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