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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
地上港を、帰る場所にする

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第163話 空で返さない

 基地の修理棚から出した二つの箱は、どちらも空ではなかった。


 一つにはE-03へ戻す水容器と密封フィルタ、もう一つには保守棟で減っていた端子清掃材と封止帯を詰めてある。レンは蓋を閉じる前に中身をもう一度押し、動かないことを確かめた。満杯でも、重さは同じではない。


「水は左。清掃材は中央」


『右側を軽くしてください』


「だから分けてる」


『右輪、黄色。出発時振動は前回帰還時と同等です』


『本機としては、水をもっと左へ寄せることを推奨します』


 ガタの荷台で固定具が二度鳴った。レンは重い水の箱を左壁へ寄せ、軽い箱を中央の床環へ留め直した。右側には帰還工具だけを置き、その工具袋も車体中央へ引いた。


 防塵外套の面体を閉じると、除塵区画の送風音が遠くなった。首と手首の封止は白。交換したばかりのフィルタも白い。外部扉が開き、砂を含んだ風が面体へ細かく当たり始めた。


『短縮巡回を開始します。基地、E-03、保守棟、基地』


「行きは補給。帰りは回収。箱は増やさない」


『一便として記録します』


 基地からE-03まで、ガタは左側の荷重を確かめるように低速で進んだ。水の箱が段差ごとに低く軋むが、右輪の振動帯は黄色の中で細く揺れるだけだった。前回外した軟地を避け、硬い迂回線へ入ると、荷台の音も一定になった。


 E-03の橙色灯が見えた。低い外壁の内側へ入ると面体を叩く砂が鈍り、水循環と維持充電の唸りが聞こえてくる。


 レンは左側の固定具だけを外し、水の箱を補給ケースの前へ下ろした。水容器は前回使った分を棚へ戻す。密封フィルタも封の帯を読ませ、使用可能な一組へ加えた。黄色だった最低在庫の表示が白へ戻る。


『E-03補給一組、復帰しました』


「現物も見る。水、封あり。フィルタ、密封。電池は充電完了」


『三項目とも直ちに使用可能です』


 箱の底には薄い緩衝板だけが残った。レンは前回の空容器を立て、使用済みフィルタを封止袋ごと隅へ入れる。基地へ戻して洗浄と分解判定をする物だが、それだけでは箱の半分も使わない。


 空いた空間を手袋で叩くと、乾いた音がした。


「帰りに、ここを埋める」


『積載予定は保守棟の小型接点箱、導電布、固定具です』


『重いですか』


「見てから決める。右には積まない」


 E-03を出る時、水の重さが消えたぶん、ガタの左側は軽くなっていた。もう一つの箱には保守棟へ届ける清掃材と封止帯が残っている。往路の後半だけを見れば荷は減ったが、帰路を空にするつもりはなかった。


 保守棟の外壁へ着くと、レンは側面入口の退避灯を点けた。白い光が階段の縁を順に照らす。ガタを入口へ寄せ、右輪が段差へ乗らない位置で止めた。


『右輪、黄色。停止中振動なし』


「ここで待て。荷台は開けたままにしない」


『砂が入ります』


「分かってる」


 レンは軽い箱を抱え、防塵外套の肩を扉へ擦らないよう横向きで入った。下層から上がる吸気音は安定している。配電室の手前にある消耗品棚へ清掃材と封止帯を補充すると、空になった箱をそのまま部品棚の前へ置いた。


 赤い札の付いた小型接点箱は、前回見た位置に残っていた。


 取っ手を起こす。予想より重い。中で接点片が一斉に滑り、じゃら、と低い金属音がした。基地へ持ち帰れば通信系と停止器の修理へ選別できるが、このまま運べば振動で端子面同士が削れる。


「中身が遊んでる」


『棚の記録では、小型接点部品二十七点です』


「数より面だ。擦れたら使えない」


 レンは箱を床へ下ろし、留め金を外した。蓋の隙間から灰色の粉が細く落ちる。中には大きさの違う接点片、ばね、絶縁座が仕切りもなく重なっていた。廃棄札はないが、使用可能かは基地の検査台で分ける必要がある。


 補給箱に残っていた緩衝板を四つに折り、接点箱の中へ仕切りとして差し込んだ。接点面が向かい合わないよう一列ずつ寝かせ、ばねと絶縁座を封止袋へ分ける。手袋越しの小さな部品は掴みにくく、二度、ばねが指先から逃げた。


 ち、と床を打った音に、レンは動きを止めた。


「ノア、今の位置」


『右膝の前、床板の継ぎ目です』


 面体の灯りを落とすと、細いばねが継ぎ目で白く反した。レンは磁性拾い棒で吸い上げ、袋へ戻す。全部を収めて蓋を振っても、今度は金属音がしなかった。


『小型接点箱、輸送可能です』


「一箱目の底へ置く。重い方は左」


 次に棚の奥から導電布の巻きを引いた。金属繊維を織り込んだ布は薄いが、端が硬く、裸のまま接点箱へ重ねれば蓋の留め具へ噛む。レンは使用済みフィルタの封止袋を外側へ回し、巻きが解けないよう二本の帯で留めた。


 固定具はさらに形が悪かった。短い留め板、曲がった支持環、長さの違う締結棒。まとめて入れると角が導電布を突き、箱の蓋が指二本分浮いた。


『閉まりません』


「見れば分かる」


『本機の荷台も、突き出た棒は嫌です』


「俺も嫌だ」


 レンは一度すべてを出した。締結棒を対角へ寝かせても、最長の一本だけが箱内に収まらない。切れば入るが、長さを失えば固定具としての使い道も減る。


 床へ並べた部材の横で、空になった二つ目の補給箱を開いた。こちらは浅く、長い棒を斜めにすれば収まる。軽い導電布を下へ敷き、その上へ支持環と留め板を噛み合わせ、締結棒を箱の対角へ固定した。蓋を下ろすと、今度は縁が揃った。


「一つへ詰め込むのはやめる。二箱で重さを分ける」


『往路も二箱、復路も二箱です』


『右側は空けてください』


「接点箱は左。布と固定具は中央。右は空ける」


 レンは両方の取っ手を順に持ち上げた。左へ置く箱は重いが小さい。中央へ置く箱は嵩があるが軽い。往路の水と清掃材で使った同じ固定位置に、そのまま戻せる組み合わせだった。


 階段を上がる途中、接点箱の重さが腕を引いた。面体の内側で息が熱くなり、外套の吸気音が一段高くなる。レンは踊り場ごとに箱を置き、取っ手が抜けていないことを確かめた。


『外套負荷、通常域です』


「腕は通常域じゃない」


『休止を推奨します』


「してる。あと一段」


 入口まで運び、ガタの左側へ接点箱を載せる。車体がわずかに沈み、右輪の振動表示が細く揺れた。中央へ二箱目を載せると、その揺れは黄色の開始値へ戻った。


『左右荷重、許容範囲。右輪、黄色』


「治ってはいない。帰れる積み方になっただけだ」


『同意します』


 保守棟から基地への帰路で、荷台は空になるどころか、往路と同じ二つの箱で埋まっていた。


 違うのは音だった。水容器の低い軋みではなく、仕切りへ収まった接点箱が短く鳴り、中央の固定具が帯へ押さえられて鈍く震える。硬い迂回線を越えても、突き出す棒も、転がる金属音もない。


『右輪振動、開始時と同等です』


「荷を増やしても、置き方を変えれば戻れる」


『右側を空けた結果です』


『次も右は空けてください』


「黄色が消えるまではな」


 外部扉へ着くまで、ガタの右輪表示は黄色から変わらなかった。悪化もしなかった。レンは除塵区画へ入ると、面体を外す前に二つの箱の固定を解いた。表面の砂を吸い取り、接点箱の蓋を開ける。


 仕切った部品は一つも列から外れていなかった。導電布にも固定具の角が刺さっていない。最長の締結棒は対角の帯へ留まったまま、箱の内側へ収まっている。


『輸送後状態、使用前検査へ移行可能です』


「全部を在庫にはしない。使える物だけ棚へ入れる」


 レンは防塵外套を脱ぎ、修理台へ接点片を並べた。端子面を拭き、摩耗溝と焼けを灯りへ透かす。深く削れた二点は検査待ちへ分けたが、残りは清掃後に導通を返した。ばねも潰れていない。絶縁座には割れがなかった。


 棚の接点区画は、朝まで予備が数点だけだった。


 そこへ清掃済みの小型接点箱が収まり、空いていた二段目まで金属の列が続いた。導電布は巻き棚へ収まり、固定具は長さごとの受けへ掛かった。曲がった支持環も、仮止め用なら使えるものを選び、赤札ではなく黄色札で残した。


 レンは短い留め板を一本取り、修理台の端で浮いていた工具受けへ当てた。穴位置が合う。回収した締結具を通して締めると、工具受けは手で押しても揺れなくなった。


 からん、と置いた工具が、今度は床へ落ちなかった。


「回収品、一個目を使用」


『基地修理在庫への追加と、使用実績を記録しました』


『空箱で帰るより役に立ちます』


「箱は空じゃなかっただろ」


『使用済みフィルタと空容器だけでは、半分以上が空いていました』


「細かい」


 レンは朝に持ち出した二つの箱を洗浄台へ重ねた。次の補給でも、そのまま使える。往路で中身を届け、空いた場所へ帰路の資材を収める。右輪が黄色の間は重い箱を左、軽い箱を中央。突き出す物は持ち帰らず、箱内へ固定できる物だけにする。


 規則を表示へ残したあとも、修理棚の中身は消えなかった。


[GROUND SUPPLY AND RECOVERY]

――――――――――

往路:E-03補給/保守棟消耗品補充

復路:同じ二箱で回収

回収材:小型接点箱/導電布/固定具

積載:重量物は左/軽量物は中央/右側は空ける

輸送条件:箱内固定できる小型材に限定

基地在庫:検査済み資材を修理棚へ追加

次便:補給箱を回収箱として再使用

――――――――――


 レンは棚の前へ立ち、空いていた区画を指で数えた。朝より二段多く埋まり、工具受けも固定されている。次の修理で接点が要れば、保守棟まで取りに戻るところから始めなくていい。


 基地の運用図では、短縮巡回の線がE-03と保守棟を通って戻っていた。往路側には補給、復路側には回収の印があり、同じ二箱の輪でつながっている。


『通信塔の現地状態確認は、現在も巡回項目として残っています』


「残ってる。今日はそこまで減らしてない」


 見に行かなければ分からない仕事は、まだある。だが、その見回りへ向かうたび、帰りまで空の箱を運ぶ必要はなくなった。


 レンは修理棚から清掃済みの接点片を一つ取り、次に使う停止器用の小袋へ入れた。棚には、取ったあとも十分な列が残った。

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