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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
地上港を、帰る場所にする

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第156話 通信塔を基地から止めた

 基地端末の中央に、E-03から通信塔までの分岐線が灰色で伸びていた。保守棟からE-03までは白く、照明、維持充電、水処理補助も最低配分で動いている。その先だけが遮断され、通信塔の受電表示は暗いままだった。


 レンは防塵外套を脱がず、手首のフィルタ残量を確認した。帰還して外側の粉は吸引済みだが、通信塔側で異常が出れば現地へ戻る可能性がある。面体を開ける理由はまだない。


『外套気密、正常。フィルタ残量、作業継続可能です』


『右輪、黄色です』


「知ってる。今日は走らせない」


『右輪、休ませます』


 ガタは端末台の横で、右輪を浮かせる整備台に載っていた。走れなくはない。だが砂を噛んだ軸へ、昨日より重い仕事をさせる必要もなかった。


「通信塔の線から見る。E-03分岐、絶縁試験」


『開始します』


 灰色の線へ細い黄色が走った。送電ではない。E-03の分岐盤から短い試験信号を押し、通信塔側の終端で返る波形だけを見る。


 一度目は、途中で形が崩れた。


「断線?」


『いいえ。終端反応があります。線路途中の漏れは小。通信塔受電端の待機回路が試験信号を吸収しています』


『遠いです』


「距離の感想はいらない」


『振動も来ません』


「それは基地にいるからだ」


 二度目は試験信号の幅を狭くした。今度は通信塔の受電端から低い波形が返り、受電板、冷却ポンプ、中継板の三つの待機反応が重なった。線はつながっている。問題は、何が先に起きるかだった。


「起動順は」


『既定では、受電板、中継板、冷却ポンプです』


「冷やすのが最後?」


『通常運用時は冷却槽に残圧があります。停止からの復帰では、受電後にポンプを起動する設計です』


「今の残圧は」


『ほぼありません』


 レンは端末の端へ、受電、導波材と中継板の温度、遠隔停止、冷却の四つの窓を並べた。反射損失は温度窓の下へ重ねる。細かい値を追うより、上がる向きが同じか見た方がいい。


「低出力だけ送る。照会系は起こさない」


『通信塔送信部は停止固定。中継板は待機域まで。軌道照会命令は発行しません』


「停止は基地端末から。E-03分岐と通信塔受電、両方落とせるように」


『設定しました。第一停止で通信塔受電を遮断。応答がない場合、第二停止でE-03分岐を遮断します』


 ガタが整備台の上で前輪を少し動かした。床へ伝わる小さな震えを拾い、すぐ止める。


『止まらなければ、線ごとです』


「そういうこと」


 レンは灰色の分岐線を選んだ。


「E-03から通信塔へ。最低配分で送電」


『開始します』


 端末の中で遮断表示が外れ、最初にE-03分岐の受電音が届いた。かち、と乾いた接点音。続いて砂の下へ埋もれた配電線が低く鳴り、灰色だった線がE-03側から順に白くなる。基地の床は揺れないが、受信器を通した唸りは外套の面体へ近く響いた。


『通信塔受電』


 受電窓が開き、中継板は停止から待機へ変わった。冷却は起動待ちで、温度表示はまだ横ばいだった。


「届いた」


『はい。通信塔受電端で補助電力を確認しました』


 次の瞬間、反射損失の線が上を向いた。導波材温度も遅れて上がる。


「冷却は」


『ポンプ起動中。流量未成立』


 中継板の表示だけが、待機域の上端へ寄っていく。送信していないのに、修復した導波材の手前で電力が戻されていた。


『温度上昇、継続』


「停止」


 レンは基地端末の赤い欄を押した。第一停止が通信塔の受電遮断器を開き、表示が白から赤へ変わる。受信器の奥で、ばつん、と硬い音がした。


 一拍遅れて、通信塔側の安全連動が上流遮断を要求し、E-03分岐も自動で灰色へ戻った。第二停止を押す前に二か所の遮断が成立し、中継板は停止、反射損失の線も途中で切れた。


『通信塔受電、遮断確認。E-03分岐、停止確認』


「温度」


『上昇停止。焼損反応なし』


「冷却は」


『ポンプは起動未完了のまま停止しました。冷却材温度に異常はありません』


『音、止まりました』


 ガタが右輪を浮かせたまま言った。基地に届いていたのは受信音だけだ。それでも、止まったことを確かめるには十分だった。


 レンは端末から手を離し、手袋の中で指を曲げた。現地の停止索を引いた時と違い、腕へ衝撃は返らない。だからこそ、表示が止まっただけで安心しない方がいい。


「通信塔側の遮断器は、本当に開いてる?」


『受電端電圧なし。中継板温度は低下中。現地停止接点も開放を返しています』


「よし」


 焼かなかった。


 電気は届き、異常も基地で見えた。止める命令は砂漠を越えて通信塔の受電を落とし、安全連動でE-03分岐まで切った。失敗したのは送電ではない。順番だった。


「受電板が中継板を先に起こして、冷却が追いつかなかった」


『はい。停止期間中に冷却槽の残圧が失われています。既定順は継続運転からの再投入を前提としています』


「じゃあ順番を変える。最初は冷却だけ」


『冷却ポンプへ単独で給電するには、中継板起動線を切り離す必要があります』


「基地からできる?」


『E-03分岐盤の制御線を使用できます。通信塔受電板は生かし、待機負荷を冷却系へ限定可能です』


「送信部は」


『停止固定を維持します』


「中継板も、流れが立つまで寝かせる」


『設定します』


 端末上の起動順は、受電板、冷却ポンプ、流量確認、その後に中継板を待機域へ入れる並びへ組み替わった。


 温度が停止前まで下がるのを待つ間、レンは停止条件も変えた。温度だけでは遅い。冷却流量が成立しない、反射損失が続けて上がる、中継板が待機域を越える。そのどれかで通信塔受電を落とし、次にE-03分岐を落とす。


「自動停止が先。でも基地からも同じ二段停止を残す」


『残します。基地操作は自動停止と独立しています』


『止める道、二本です』


「一本が砂を噛んでも、もう一本で止める」


『二本なら止まれます』


 ガタは短く答え、浮かせた右輪を完全に止めた。


 通信塔の温度表示が元の帯へ戻る。反射損失も試験前の線まで下がった。レンは外套のフィルタ音を聞いた。一定。現地へ走る必要は、まだない。


「再送。冷却だけ先」


『低出力送電を再開します』


 E-03分岐が白くなり、通信塔が受電した。今度は中継板が暗いまま、冷却窓だけが黄色へ変わった。


 受信器の向こうで、かすかな打音が三度続く。長く止まっていたポンプが冷却材を押し、管の中の気泡を逃がしている。


『冷却ポンプ回転』


「流れは」


『未成立』


 もう一度、打音がした。その後に、細い水音に似た連続音が戻った。


『冷却流量、成立。導波材温度、低下傾向』


「そこで維持」


 一分だけ、冷却を先に回した。通信塔は送らない。照会もしない。ただ受電板とポンプが、遠い砂の中で低い音を保つ。


「中継板、待機域まで」


『接続します』


 端末の表示が一つ増えた。反射損失は少し上がったが、すぐ横へ寝る。導波材温度も冷却の線を追い越さず、中継板は待機域の下側で止まって、先ほどのように上端へ寄らなかった。


『低出力受電、安定』


「冷却」


『継続』


「温度」


『安定』


「停止」


『基地側操作、待機中。通信塔現地停止、待機中。E-03分岐停止、待機中』


 レンは画面を見たまま数分待った。白い線は消えず、温度も上がらない。冷却音も途切れなかった。


 通信塔は既に知っている設備だった。中継板も導波材も、前に手を入れた。だが今までは、現地で電池をつなぎ、現地で音を聞き、危なくなれば現地で止めるしかなかった。


 今は基地の端末に、遠い塔の受電と熱と冷却が並んでいる。危険なら、ここから止められる。


[COMMUNICATION TOWER AUXILIARY SUPPLY]

――――――――――

E-03→通信塔:低出力受電

初回異常:基地遠隔停止済み

中継板:待機域

冷却:先行運転・流量安定

温度・反射:基地監視

停止:通信塔/E-03二段待機

照会出力:未投入

――――――――――


「この四つを基地の常設監視へ入れる。受電、温度、停止、冷却」


『登録しました。異常履歴と再送手順も固定します』


「再送手順を読んで」


『通信塔受電。冷却ポンプ先行。流量成立を確認。中継板を低出力待機へ接続。温度または反射損失の上昇時は通信塔受電を停止し、必要時はE-03分岐を遮断します』


『先に冷やします』


「そう。先に冷やす」


 ガタの前輪灯が、基地からE-03、さらに通信塔へ伸びる端末の白い線を照らした。途中に停止表示が二つあり、その先で冷却だけが青く動いている。送信部は暗く、軌道へ向けた照会もまだ出していない。


 それでも通信塔まで電気は届き、熱を見張り、危険なら止め、冷やしてからもう一度送れる。レンは赤い停止欄から手を離した。遠い塔の低い冷却音が、基地の受信器で途切れず続いていた。

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