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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
地上港を、帰る場所にする

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第157話 通信塔が空へ細い光を立てた

 通信塔の冷却音は、基地の受信器で夜を越えていた。


 レンは防塵外套の面体を閉じたまま端末台へ寄り、冷却流量と導波材温度を並べる。フィルタは作業継続域。通信塔は低出力待機を保ち、送信部も照会命令も停止したままだった。


『冷却先行運転、安定しています』


「中継板は」


『待機域。反射損失、増加なし』


『右輪、黄色です』


 整備台のガタは右輪を浮かせていた。前輪灯だけを端末へ向け、通信塔から届く低い振動音を拾っている。


「今日はそこから見張れ。走る仕事じゃない」


『止まる仕事です』


「それもある」


 修復した中継板、交換した導波材、締め直した給電端子。それぞれ単体の試験は終わっている。だが補助電力を受け、冷却しながら一つの送信系として負荷を通したことは、まだ一度もなかった。


 レンは端末へ三本の接続線を出した。最初は給電端子。次に中継板の修復系統。最後に導波材の位相調整部。全部を一度に起こさず、冷却が受け止めたことを見てから一つずつ重ねる。


「低出力状態、もう一度」


『受電、安定。温度、安定。通信塔受電停止とE-03分岐停止、待機中。基地監視、継続しています』


「給電端子を運用側へ」


『接続します』


 受信器の奥で、厚い接点が閉じる音がした。白い線が一つ増え、通信塔へ流れ込む補助電力が修復端子を通る。温度はわずかに上がったが、冷却の線がすぐ追いついた。


「中継板」


『修復系統を段階接続』


 低い唸りに、細い高音が重なった。中継板の表示が待機から送出準備へ変わる。反射損失は一度だけ揺れ、横へ戻った。


『振動、揃っています』


 ガタの短い報告を聞き、レンは最後の線へ手を置いた。導波材は光を外へ出す道だ。ここで戻りが増えれば、前話と同じように中継板へ熱が溜まる。


「導波材、試験接続。出力は上げない」


『接続します』


 通信塔の外部映像に、塔身を走る細い表示灯が下から順に点いた。先端までは届かない。修復部材が補助電力の系統へ収まり、いつでも出力を受けられる状態になっただけだ。


「ここから段階負荷。冷却が遅れたら戻す」


『上限接近、流量低下、反射増加、中継板温度上昇のいずれかで警告します。停止条件は前話の設定を維持します』


 レンは最初の負荷を入れた。


 受信器の唸りが太くなる。導波材の表示が暗い青へ変わり、塔の先端に光が集まり始めた。まだ外へは出ない。内部の案内路を満たしているだけだった。


 次の段階では、冷却ポンプの回転音が一つ高くなった。温度は上がる。だが上がり方は緩く、反射も安定帯に残っている。


「もう一段」


『実行します』


 高音が二つに割れた。


 反射損失の線が跳ね、同時に冷却流量の左右表示が開いた。片側は増えている。もう片側は、同じ命令を受けているのに下へ沈んだ。


『冷却偏りを検出。導波材下部で反射増加』


「一段戻す」


 レンは上げた出力をそのまま一段落とした。塔身の表示灯が一つ消え、受信器の高音も細くなる。温度上昇は止まったが、左右の流量差は残っている。


『停止までは不要です』


「上げ直しても同じ場所で返される。配分を見る」


 修復した中継板は一系統だけ、導波材へ送り出す位相がわずかに早かった。低出力では誤差に埋もれ、負荷を上げたところで戻り波になって現れたらしい。その熱を近い側の冷却路が先に拾い、遠い側の流れを押し下げていた。


「中継板の負荷を均等にしない。早い側を少し抑えて、遅い側へ先に回す」


『位相差を補正します』


「冷却は流量の低い側を先。ポンプ全体を上げるな」


『分配弁を調整。総流量は維持します』


『片側だけ熱いのは、嫌です』


「だから戻した」


 端末の中で二本の流量線が近づいた。反射損失も、波打ちながら元の帯へ下がる。レンはすぐには出力を戻さず、導波材の手前へ残った熱が抜けるまで待った。


 外套の給気音が耳元で続く。面体の内側へ汗が落ち、顎の布へ吸われた。基地にいても、遠い塔の熱を画面だけで扱う手は乾かなかった。


「調整後の段階負荷。さっき止めたところまで」


『実行します』


 塔身の表示灯が戻る。受信器の高音は割れず、一本の細い音として伸びた。左右の冷却流量は少しずれたまま安定し、温度も同じ帯で止まる。


「越える」


『次段階へ移行します』


 通信塔の先端が、外部映像の中で白くなった。


 まだ空へ光は出ていない。送出部の内側で案内光が満ち、照会に使う出力を受け止める準備が整っただけだ。それでも修復した三つの部材は、もう別々の試験品ではなかった。


『実負荷域へ入りました』


「停止試験をする」


『現在の負荷中に実行しますか』


「今止まらないなら、空へ向ける資格がない」


 ガタが整備台の上で左輪を固定した。右輪は浮いたまま、前輪だけが退避方向へ向く。


『止まらなければ、線ごとです』


「第一停止で通信塔。開放確認が取れなければ第二停止でE-03」


『二段停止を待機。冷却は遮断後も残熱排出まで継続します』


 レンは赤い停止欄へ指を置いた。受信器では通信塔が唸り、導波材には実負荷が通っている。試験用の静かな待機ではない。


「緊急停止」


 赤い欄を押した。


 ばつん、と硬い遮断音が基地まで届いた。塔身の表示灯が先端から消え、中継板の出力線が零へ落ちる。通信塔受電の主接点が開き、E-03分岐は待機のまま第二停止要求を受ける位置で止まった。


『通信塔出力、遮断。戻り電力なし。給電端子、開放確認』


「温度」


『低下へ移行。冷却流量、維持』


「E-03側は」


『通信塔分岐のみ停止。E-03の照明、維持充電、水処理補助に影響ありません』


『止まりました』


 受信器に残ったのは冷却音だけだった。負荷が消えたあともポンプは回り、導波材と中継板から熱を運び出している。


 レンは赤い欄から指を離さなかった。止まることは確認した。次は、止めたあとに危険な状態を引きずらず、同じ手順で戻せるかだった。


「再起動条件」


『給電端子の開放、戻り電力なし、導波材温度の復帰、冷却流量の左右安定。四条件の成立後、冷却先行から再開します』


「自動で戻すな」


『基地承認まで停止を維持します』


『勝手に走りません』


「お前もな」


 ガタは前輪を止めた。通信塔の温度が元の帯へ下がるまで、基地にはポンプ音と外套のフィルタ音しかなかった。


『再起動条件、成立』


「冷却先行」


『開始します』


 通信塔受電が戻り、先にポンプだけが回った。左右の流量が重なったあと、給電端子、中継板、導波材が先ほどと同じ順でつながる。遮断前の熱も反射も持ち越さず、表示は低出力待機へ戻った。


「安全再起動、成立」


『記録しました』


 レンは段階出力をもう一度上げた。今度は途中で音が割れない。調整した位相と冷却配分が負荷を受け止め、塔身の表示灯が下から先端へ順に埋まっていく。


 必要値の手前で一度止める。温度は安定帯の中央、反射は上限から離れ、冷却の左右差も広がらない。基地、保守棟、E-03、通信塔まで伸びた白い線のどこにも、停止要求は出ていなかった。


「照会必要値へ。3.20倍」


『上昇します』


 受信器の音が、細く高く伸びた。


 通信塔の先端で白い光が収束する。映像の砂漠は暗く、塔の足元には風で流れる粉塵しかない。その上へ、針より細い光がまっすぐ立ち、画面の端を越えて空へ消えた。


 何かを探して振る光ではない。軌道アンカーへ命令を送る前に、照会出力が外部送出路まで届いたことを示す案内光だった。


『照会出力到達。照会命令は未発行です』


「そのまま。規定時間を満たす」


 レンは停止欄、温度、反射、冷却を一画面へ固定した。上限は必要値を越えて勝手に上がらない位置へ置く。基地監視が一つでも欠ければ、送出を落として冷却だけを残す条件にした。


 時間表示が進む。


 細い光は揺れない。途中で砂が塔身へ当たり、外部映像が一度白く曇ったが、反射損失も冷却流量も変わらなかった。E-03の照明と維持充電、水処理補助も動いたままで、通信塔だけが電力を奪うこともない。


『規定連続運用時間を満了しました』


「温度」


『安定域』


「反射」


『安定域』


「冷却」


『左右とも維持。負荷中停止試験、安全再起動試験、完了しています』


『光、立っています』


 ガタの前輪灯が外部映像の細い白を追った。基地の天井へ届くはずもないのに、整備台の上で少しだけ上を向く。


「あれで呼べる」


『はい。命令を発行すれば、軌道アンカーへの照会が可能です』


「呼ぶ前に、運用条件を固定する」


『上限、冷却、停止、基地監視を照会運用条件として登録します』


 レンは手袋の指で、一項目ずつ確定欄を押した。補助給電。出力上限。冷却先行。負荷中の緊急停止。残熱排出後の安全再起動。基地からの常設監視。


 最後に、照会命令だけを赤い封鎖欄へ残す。


[COMMUNICATION TOWER QUERY OUTPUT]

――――――――――

修復部材・補助給電:統合済み

照会必要出力:到達・連続運用完了

冷却・反射・温度:安定域

緊急停止:実負荷で確認

安全再起動:確認

上限・停止・基地監視:運用固定

軌道照会命令:未発行

――――――――――


 通信塔の光は、ログが閉じても空へ立っていた。


 これまでの塔は、現地で電池をつなぎ、危なくなれば現地で止める古い設備だった。今は保守棟の補助電源を受け、E-03を通り、基地から冷やし、見張り、止め、もう一度起こせる。


 修理した部品が、一本の運用線になった。


 レンは照会命令の封鎖を確かめ、停止欄から手を離した。位置も姿勢も、第一ロックの状態も、まだ何一つ返ってはいない。


 だが砂漠の向こうでは、細い光が途切れず空へ伸びている。


 次に押す欄は、もう修理ではなかった。

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