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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
沈黙圏の外へ

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CROSSOVER episode.6 /MIO

 第七保守ラインの白い通信柱は、まだ上を向いていた。


 地下都市の天井を抜け、地上の有毒大気の中へ、細い白い柱が伸びている。柱の表面には、薄い光が走っていた。強い信号ではない。けれど、途切れてはいない。


 レンは通信柱の基部に座り込み、端末を膝に置いた。


 背後では、工業層がまだ低く動いている。


 こん、こん、こん。


 軽い音を立てて、保存食のパックが生成ラインから落ちる。


 別の口からは、飲料水のパック。


 またこれかよ、と言いかけたところで、ノアが先に言った。


『消費期限は切れていません』


「まだ何も言ってない」

『言いそうでした』

「まあ、言いそうではあった」


 ガタは保存食の箱を一つ抱えて、横で座っていた。


『食料が出るのは良いことです』

「そうだな」

『でも、箱が増えます』

「そうだな」

『倉庫はありますか』

「作らされる気がする」

『嫌な予測です』


 レンは端末を開いた。


 白い通信柱、地下都市、工業層、自動補給、月面工廠の待機信号。


 ここまでが、今のこちら側の現実だ。


 船一隻を直すつもりだった。


 それが地下都市を起こし、工業層を動かし、月面工廠まで待機させている。


 端末のログは、今日も淡々としていた。


[SEVENTH MAINTENANCE LINE]

――――――――――

通信柱:低出力安定

地下都市基盤:接続維持

工業層:補給生成継続

自動工場:部品生成待機

月面工廠:遠隔待機

外部反応:微弱

――――――――――


「外部反応」

『はい』

「またか」

『前回の交差観測経路に類似する微弱反応です』

「MIOか」

『断定はできません』


 ノアはそう言った。


 だが、端末の下にすぐ表示が出た。


[CROSS ROUTE FRAGMENT]

――――――――――

/ MIO

TYPE:OBSERVATION ROUTE

SEND:UNAVAILABLE

RETURN:UNCONFIRMED

――――――――――


「出てるじゃねえか」

『断定に近づきました』

「便利な言い方だな」

『はい』


 斜線つきの名前は、通信柱のログに薄く残っている。


 レンは画面を見たまま、指を止めた。


「通信は」

『成立していません』

「音声は」

『ありません』

「じゃあ、また経路の跡だけだ」

『はい。観測経路断片です』


 白い通信柱の表面を、細い光が上へ走った。


 空へ向かう線。


 地上を越える線。


 まだ宇宙へ届いているわけではない。だが、地下都市の中だけで閉じていた頃とは違う。柱は、上を向いたままになっている。


 その時、端末の中央に別系統のログが重なった。


[UNREGISTERED FOUNDATION RESPONSE]

――――――――――

SOURCE:EXTERNAL FOUNDATION

CLASSIFICATION:FLOATING VILLAGE FOUNDATION CANDIDATE

BOTTOM-LIGHTENING RESPONSE:CONFIRMED

SKY RETURN KEY:CONDITION TYPE

SOUTH LINE:UNCONNECTED

CONTACT:NOT ESTABLISHED

――――――――――


「浮遊村落基盤候補」


 レンは、文字をそのまま読んだ。


 ガタが保存食の箱を抱え直した。


『村が浮くのですか』

「俺に聞くな」

『文字がそう言っています』

「候補だ。まだ候補」

『候補でも変です』

「それはそう」


 ノアの投影が端末の上に薄く立った。


『外部基盤反応です。都市規模ではありません。工廠規模でもありません。生活基盤に近い構成を含みます』

「生活基盤」

『水重心、荷重、風受け、係留、中央受け場に類する反応が重なっています』

「水、荷物、風、石、中央。何だそれ」

『村落基盤の構成要素と推定』

「村をそんなログで読むな」

『ログですので』


 レンは少し黙った。


 知らないはずのものなのに、妙に想像できた。


 井戸。


 倉庫。


 畑。


 祠。


 石。


 中央。


 そんな生活の部品が、こちらの地下都市の管理ログに、基盤反応として引っかかっている。


「向こうで何か直したのか」

『外部基盤側で、底部軽減反応が確認されています』

「底部軽減」

『短く言うと』

「言うな」

『村が一瞬軽くなった可能性があります』

「言うなって言っただろ」


 レンは端末に肘をつきそうになって、やめた。


 村が一瞬軽くなる。


 意味は分からない。


 だが、こちらも似たようなことをしている。地下都市を起こし、工業層を動かし、月面工廠まで反応させている。船を直すだけのはずだったものが、どんどん大きくなっている。


 向こうも、たぶん同じだ。


 何か小さなものを直したら、村の下が動いた。


 そういうことなのかもしれない。


 端末の表示が、もう一段変わった。


[CROSS ROUTE FRAGMENT]

――――――――――

/ MIO:REACQUIRED

TYPE:OBSERVATION ROUTE

ROUTE:UNREGISTERED FOUNDATION

SEND:UNAVAILABLE

RETURN:UNCONFIRMED

――――――――――


「MIO経路、再取得」

『はい』

「未登録の浮遊村落基盤候補に付いてきた」

『はい』

「接触は」

『成立していません』

「声は」

『ありません』

「なら、まだ見えてるだけだ」

『はい』


 見えてるだけ。


 それでも、前より少し進んでいる。


 白い通信柱が上へ向いたことで、外部反応を拾った。第七保守ラインが、地下都市の中だけではなく、外へ薄い線を伸ばし始めた。


 レンはログを保存した。


[LOG HOLD]

――――――――――

/MIO:REACQUIRED

CONTACT:NOT ESTABLISHED

D BLOCK STATUS:SEVENTH MAINTENANCE LINE STABLE

NEXT:UPPER RELAY FOUNDATION CHECK

――――――――――


 その下に、短い断片が遅れて混じった。


 旧文明のログではない。


 こちらの管理網の形式でもない。


 現代層の断片だった。


[PRESENT-LAYER FRAGMENT]

――――――――――

KEY:URL

NCODE:n6254mf

NOTE:URL FORMAT INCLUDES NCODE

――――――――――


「また出た」


 レンは保存記録を一行だけ引いた。


[PREVIOUS PRESENT-LAYER FRAGMENT]

――――――――――

NCODE:n4174mf

INTERPRETATION:CURRENT WORLD IDENTIFICATION CODE

――――――――――


「前のは、こっちだったな」

『はい』

「今回は」

『n6254mf です』

「/MIO 側か」

『推定可能です』

「推定でいい。消すな」

『保持します』


 レンは、そこで表示を畳んだ。


「次。上方中継基盤」

『了解しました』


 ガタが保存食の箱を床に置いた。


『でも、番号が来ました』

「来たな」

『前より少し近いですか』

「少しだけな」


 白い通信柱が、低く震えた。


 柱の表面を、薄い光が一度だけ上へ走る。


 端末の端で、`/MIO` は消えずに残っている。


 ノアがログを更新した。


[LOG HOLD]

――――――――――

/MIO:REACQUIRED

CONTACT:NOT ESTABLISHED

D BLOCK STATUS:SEVENTH MAINTENANCE LINE STABLE

PRESENT-LAYER FRAGMENT:HELD

EXTERNAL NCODE:n6254mf

NEXT:UPPER RELAY FOUNDATION CHECK

――――――――――


『保存完了』

「消すな」

『保持します』

「次は、上の中継基盤か」

『はい。第七保守ライン上方、白柱接続先の安定確認が必要です』

「また上か」

『上です』

「地下都市なのに」

『通信柱は上を向いています』

「分かってる」


 レンは空の方を見た。


 ここからでは、外は見えない。


 天井の向こうに、有毒大気がある。さらにその先に、月面工廠がある。星系復旧の線がある。船一隻の修理から、ずいぶん遠くまで来た。


 端末には、浮遊村落基盤候補。


 MIOの経路。


 現代層の短い断片。


「ノア」

『はい』

「次は、こいつが消えないようにする」

『記録保持と上方中継基盤の安定確認を優先します』

「声じゃなくていい」

『はい』

「まずは、道を失くさない」


 保存食の生成ラインが、こん、とまた鳴った。


 ガタがそちらを見た。


『また増えました』

「あとで数える」

『消費期限は』

「切れてないんだろ」

『はい』

「分かった」


 レンは端末を閉じなかった。


 白い通信柱は、まだ上を向いている。


 `/MIO` は、画面の隅に残っていた。


 レンは、それをもう一度だけ見た。


 見ただけだった。

第6章完結です!

いつもお読みいただきありがとうございます!


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