第136話 外周配管群
E-04側面低地は、帰還後の地図で見ると小さな点にすぎなかった。
だが、その点の周りだけ、地図の余白が大きく変わっている。E-03、浅い沈降帯、B-2、E-04外縁走行帯、E-04側面低地。白い線がそこまで伸びたことで、E-04遮断点は壁ではなく、回り込める構造物になった。
ノアが地図の縮尺を一段引いた。
E-04の側面から、太い配管群が外周へ伸びている。一本ではない。三本、いや、表示の欠けたものを含めれば五本。砂に半分沈みながら、遠くの低い影へ向かっている。
[OUTER PIPELINE SCAN]
――――――――――
起点:E-04側面低地
配管群:複数確認
方向:外周北東
埋没率:中
接続先:未確定構造物群
走行可能性:配管上部/側面砂帯
推奨:高速偵察ではなく、外周線登録
――――――――――
「外周線登録」
『はい。昨日到達した側面低地を起点に、外周配管群の方向を登録します』
「E-04で終わりじゃないな」
『終わりではありません』
『外周に別構造物群があります』
その言葉で、中央卓の地図がさらに広がった。
まだ空白だらけだ。ノイズも多い。だが、E-04の向こう側に何もないわけではなかった。配管が走り、支柱が残り、遠くに低い構造物が並んでいる。基地の外、E-03の外、B-2の外、E-04の外側。外へ出るたびに、次の外が見える。
レンは少しだけ笑った。
「急に広いな」
『はい。B-2下部中継とE-04側面低地到達により、外縁地図の取得範囲が拡張しました』
「昨日まで低段差とか言ってたのにな」
『再判定しました』
「その再判定はよかった」
『ありがとうございます』
ガタが車輪を鳴らした。
『車輪カバー二枚もよかったです』
「はいはい。よかったよ」
『記録を』
「もうしてるだろ」
『追記です』
「欲しがるな」
レンはE-04側面低地のログを開いた。
走行帯を抜けた時の車輪負荷。レンの移動軌跡。E-04側面低地で取得した外周配管群の簡易スキャン。B-2誘導線の補正履歴。正面遮断を迂回した記録。全部が一つの線になっている。
[C BLOCK ROUTE CHAIN]
――――――――――
基地
→ E-03外部仮拠点
→ 浅い沈降帯通過線
→ B-2外縁誘導点
→ E-04外縁走行帯
→ E-04側面低地
→ 外周配管群方向
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「こうして見ると、けっこう来たな」
『はい。基地内探索から外縁探索へ移行しています』
「移行って言うと地味だな」
『では、行動範囲が拡張しています』
「それでいい」
地図の白線は、もう基地の周りだけではない。外へ伸び、曲がり、B-2で跳ね、E-04の横腹を回り込んでいる。昨日の走行帯を抜けた時の音が、まだ耳に残っていた。金属片を車輪が叩く音。砂が跳ねる音。ノアの補正。ガタの車体が跳ね、それでも止まらず進んだ感触。
慎重に一歩ずつ踏む探索ではなかった。
外へ走って、地図を広げる探索だった。
ノアがE-04側面低地を拡大する。配管群の起点に、丸い反応が三つ並んでいる。バルブか、中継器か、古い保守端末か。まだ判別できないが、そこに何かある。
[E-04 SIDE LOWLAND DETAIL]
――――――――――
側面外壁:損傷あり
外周配管群:接続確認
丸型反応:三点
低地滞在:短時間可能
次回候補:配管群起点の確認
――――――――――
「丸型反応三点」
『はい。配管群の起点付近にあります』
「端末か?」
『可能性があります。保守用バルブ、手動ロック、または小型中継器です』
「どれでも使えそうだな」
『はい。現物確認が必要です』
「次はそこか」
ガタが前へ出る。
『配管上部を走行可能ですか』
『現時点では不明です』
『幅は』
『一部は車輪幅を満たします』
『よし』
「勝手に進めるな」
『次回候補です』
「候補ならいい」
ノアが配管群の上へ薄い線を引く。
E-04側面低地から、配管の上部へ。そこから外周の低い影へ。まだ仮線にもならない。だが、方向線としては十分だった。昨日まで見えなかった場所に、次の目標が置かれる。
[NEXT OUTER LINE]
――――――――――
起点:E-04側面低地
対象:外周配管群起点
先端:未確定構造物群
走行形式:未定
必要:側面低地再訪/丸型反応確認
状態:方向線
――――――――――
「方向線、か」
『はい。ルートではありません』
「でも、向きは出た」
『出ました』
レンは中央卓から少し離れて、地図全体を見た。
基地の表示が、小さく見える。
第五タグも、E-03も、もう中心ではない。中心が外へずれている。E-04側面低地の点が新しい端になり、その先へ配管群が伸びている。基地にいるのに、視線はもう基地の外周へ向いていた。
ノアがログの端に、小さな未分類反応の欄を残している。
MIO関連保留ログ。変化なし。
B-2応答待ち。保持。
未分類反応。保留。
レンはそれを見た。開かないものはまだ残っている。消えたわけではない。だが、それらは地図の前面には出ていない。今は外周配管群の方が前にある。
「MIOは変化なし」
『はい』
「B-2応答待ちも」
『保持しています』
「分かった。奥でいい」
『通常表示外および構造ログ下に保持します』
「それで」
ガタが車輪を鳴らした。
『次回も車輪カバー二枚』
「それはもう標準装備でいい」
『標準』
「外縁走行時だけな」
『外縁走行標準装備として登録します』
「早いな」
『重要です』
ノアが即座に装備欄を更新した。
[OUTER RUN STANDARD]
――――――――――
対象:外縁走行
車輪カバー:左右二枚
固定バンド:車体下部補正
荷物:最小
制御:ノア補正
備考:停止不可帯あり
――――――――――
「だいぶ形になってきたな」
『はい。外縁走行手順として再利用可能です』
「E-04だけじゃなく?」
『はい。類似地形があれば応用できます』
「いいね」
レンは地図を保存した。
その瞬間、中央卓の外縁表示が一段明るくなる。E-04側面低地に白い点がつき、そこから外周配管群へ細い方向線が伸びる。まだ到達していない場所は灰色のままだ。だが、灰色の奥に構造物の輪郭がある。何もない空白ではない。
E-03は仮拠点になった。
B-2は外縁誘導点になった。
E-04は正面遮断ではなく、側面へ回り込める構造物になった。
そして、その先に外周配管群が出た。
Cブロックで伸ばすべき線は、伸びた。
[C BLOCK SF CLOSE]
――――――――――
外部仮拠点:E-03
走行突破:E-04外縁走行帯
新規到達点:E-04側面低地
次回目標:外周配管群起点
保留項目:MIO/B-2応答待ち
状態:外縁探索継続
――――――――――
「外縁探索継続」
『はい』
「継続っていうか、始まった感じだな」
『表現を変更しますか』
「いや、それはログだからいい」
レンは中央卓を閉じなかった。
しばらく、外周配管群の線を見ていた。配管の先には低い影がある。影は一つではない。複数並んでいる。地表施設か、観測点か、外壁支柱か。まだ名前はない。
名前がないから、行く意味がある。
「次、配管群の起点まで走る」
『はい。次回行動候補に登録します』
『側面低地までの往復所要も短縮可能です』
「走行帯を抜けられるからな」
『はい。昨日の走行ログを使用できます』
ガタが満足そうに前へ出た。
『本機が先行します』
「地形による」
『走行帯では本機が先行しました』
「それは認める」
『記録します』
「しろ」
外周配管群の線が、中央卓の端でゆっくり点滅する。
誘っているようには見えない。
ただ、そこにある。
太い管が砂に半分沈み、遠くの構造物へ向かっている。E-04側面低地からそこへ出れば、外縁はさらに広がる。B-2の次の目も見つかるかもしれない。E-04の遮断理由も、横からたどれるかもしれない。
レンは手袋を中央卓の端に置いた。
「明日は装備を軽くする。水と補修具だけ。板はなし」
『はい』
『低段差対応板は通常保管へ戻します』
「もう出番ないかもな」
『外縁走行帯では不要です』
「悪くない」
昨日までの小さな板が、今日の地図から消えていく。
代わりに、外周配管群が残る。
レンはその変化が気に入った。
基地の外へ出た。
E-03を起点にした。
B-2を使った。
E-04を横から回った。
次は、配管の先へ行く。
それだけで十分だった。
中央卓の地図には、E-04側面低地から伸びる一本の方向線が残っている。
線の先は、まだ灰色。
その灰色の奥で、低い構造物群の影が並んでいた。
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