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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
沈黙圏の外へ

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第131話 E-04迂回線

 翌朝、レンは中央卓の前で、B-2の側面データをもう一度開いた。


 寝た分だけ、足首の重さは少し引いている。完全には抜けていない。浅い沈降帯を越えた感触が、まだ靴の内側に残っているようだった。けれど、頭は昨日よりましだ。MIOログを開かなかったことで、余計な熱も少し引いていた。


 中央卓には、E-03、浅い沈降帯、B-2、E-04遮断点の側面が並んでいる。


 まだ地図とは呼びにくい。細い線と灰色の塊と、未確定の斜面が重なっているだけだ。それでも、前よりは外の形になっていた。


[OUTER MAP UPDATE]

――――――――――

E-03外部仮拠点:起点化

浅い沈降帯:低速通過線登録

B-2下部中継:限定成功

E-04側面:部分取得

迂回候補:未確定

未分類反応:保留

――――――――――


「未確定を、候補に上げる」

『はい。B-2取得データとガタ車輪ログを統合します』

「車輪ログも使うのか」

『沈降帯通過時の実測負荷は、地表硬度の推定に有効です』

『当然です』


 ガタは整備室の入口から答えた。車輪洗浄後で、いつもより少し音が軽い。昨日ずっと主張していた車輪カバーは、横に置かれている。予備はまだ認めていない。


「ガタ、誇るのはいいけど、ログは正直に出せよ」

『実測です』

「盛らない?」

『車輪は盛りません』

「車輪は、って何だ」

『本機も盛りません』


 ノアが地図を一段拡大する。


 E-04遮断点は、正面から見るとただの灰色の壁だった。正面突破はできない。だが、B-2側面データでは、その壁の端が少し崩れている。沈降帯とは違う低地があり、そこに金属片と外装材が積もっていた。崩落物の帯。危険ではある。だが、完全な壁ではない。


[E-04 SIDE ANALYSIS]

――――――――――

正面遮断:継続

側面低地:確認

崩落物帯:あり

沈降帯連結:不明

通過可能性:低〜中

追加観測:必要

――――――――――


「低〜中」

『現時点では高評価できません』

「でもゼロじゃない」

『ゼロではありません』

「なら候補だ」


 レンは中央卓に指を置いた。


 E-03から浅い沈降帯を越え、B-2へ。そこからE-04の側面低地へ向かう線を仮に引く。まっすぐではない。沈降帯を避け、B-2の基部から崩落物帯の端へ入る。途中に硬い地面があるかどうかは分からない。


 だが、正面遮断を避けるなら、この線しか見えていない。


[ROUTE CANDIDATE E-04-B]

――――――――――

起点:E-03

経由:浅い沈降帯通過線/B-2基部

目標:E-04側面低地

リスク:崩落物帯/地表硬度不明/通信減衰

状態:仮候補

――――――――――


「E-04-B」

『仮称です』

「B-2経由だからBか」

『はい』

「じゃあ、Aは正面か」

『正面遮断線をAとして保持しています』

「使わない線にも名前をつけるんだな」

『比較対象がないと、迂回の価値を評価できません』

「正しい」


 言いながら、レンは少しだけ笑った。


 ノアの説明が、止めるためではなく、行くための形になっている。危険を並べて終わりではない。危険を並べた上で、どうすれば進めるかに変わっている。


 中央卓の端に、B-2の未分類反応が小さく置かれていた。


 通常表示外。


 警告条件なし。


 MIOの文字は出ていない。


 レンは一度だけそこを見て、すぐ地図へ戻した。


「未分類は触らない」

『はい』

「この線を先に詰める」

『了解』


 ガタが整備室から出てきた。


『E-04-Bは車輪通過可能ですか』

『現時点では不明です』

「ガタ、自分で聞いたのか」

『重要です』

「そりゃ重要だ」

『崩落物帯は車輪に不利です』

「人間にも不利だよ」

『ですが、車輪カバーがあります』

「また出た」

『必要です』


 レンは中央卓の地形表示に、ガタの車輪負荷ログを重ねた。沈降帯での沈み込み、硬化部での回復、旋回時の負荷上昇。数字だけを見ると細かい。だが、地図に重ねると使える。どこで車輪が沈むか。どこで旋回に余裕が必要か。徒歩線と車輪線が違うことも分かる。


[GA-TA WHEEL DATA INTEGRATION]

――――――――――

沈降帯実測:登録済

硬化部判定:有効

旋回負荷:注意

崩落物帯評価:未取得

E-04-B補正:必要

――――――――――


『本機名称が区切られています』

「GA-TA」

『ガタです』

「ノアの表記だろ」

『内部識別上の都合です』

『修正を要求します』

『表示名をガタに変更します』

『よし』


 レンは思わず笑った。


 こういうやり取りがあるだけで、地図の灰色が少し薄くなる。外は危険だ。B-2は壊れかけている。E-04はまだ遮断されている。MIOの名前も、開けないまま残っている。それでも、基地の中に会話がある。


 それはかなり大事だった。


 ノアがE-04-Bの仮線を少し補正する。正面遮断を避け、B-2基部から斜めに低地へ入る線。途中で一度、硬そうな帯を踏む。その先で崩落物帯をかすめる。通れそうに見える場所は、ほんの短い。


[E-04-B ROUTE DRAFT]

――――――――――

区間1:E-03→浅い沈降帯通過線

区間2:沈降帯先端→B-2基部

区間3:B-2基部→側面低地入口

区間4:崩落物帯端部

評価:要再観測

――――――――――


「区間4が怪しいな」

『はい。崩落物帯端部の地表硬度が不明です』

「B-2からもう一回見れば取れるか」

『B-2下部中継を再起動し、角度を変えれば一部取得可能です』

「接続口、持つか?」

『仮補強状態では短時間のみです』

「補強をやり直す必要がある」

『はい』


 レンは椅子に背を預けた。


 次にやることが見えてきた。


 B-2へ再訪する。接続口をもう少し補強する。下部中継を短時間起動し、E-04-Bの区間4を確認する。そこが通れるなら、E-04遮断点を正面からではなく、側面から見に行ける。


 遠い。


 面倒だ。


 危ない。


 でも、線は出た。


 その時、中央卓の端で、小さな表示が一度だけ明滅した。


[RESPONSE WAIT]

――――――――――

B-2下部中継:保留応答あり

未分類反応:同期なし

通信:未成立

状態:待機

――――――――――


「応答待ち?」

『B-2下部中継に、未処理の返答待機状態があります』

「MIO関係か」

『現時点では違います。未分類反応とは同期していません』

「じゃあ、B-2自体の?」

『可能性があります。低出力起動時に、B-2側から上位系統へ送るはずだった応答が残っているのかもしれません』

「上位系統……E-04か?」

『判定不能です』


 レンは表示を見た。


 MIOではない。


 だが、何かが待っている。


 B-2の下部中継が、どこかへ返事を送ろうとして止まっている。上部は死んでいる。正規通信もない。それでも、応答待ちの状態が残った。


 E-04-Bの線だけではない。


 B-2そのものにも、まだ未処理のものがある。


「これも開くな」

『はい。優先度はE-04-Bの検証です』

「未処理応答は保存。通常表示外じゃなくて、B-2構造ログの下」

『了解』


 表示が整理される。


[SAVE UPDATE]

――――――――――

E-04-B仮候補:保存

B-2応答待ち:構造ログ下に保存

未分類反応:保留維持

MIO関連ログ:通常表示外

次行動候補:B-2再訪/区間4観測

――――――――――


「次はB-2再訪か」

『はい』

『車輪カバーを二枚』

「一枚」

『崩落物帯には二枚』

「まだ崩落物帯には行かない」

『準備です』

「予備扱いなら考える」

『予備を認めました』

「今のは罠だな」

『記録します』


 ガタの車輪が満足そうに鳴った。


 レンは頭をかいた。


「記録するな」

『記録済みです』

「ノア、消せ」

『車輪装備協議ログとして保持します』

「なんでだよ」

『有用です』


 中央卓の地図には、E-04-Bの細い線が残っている。


 まだ仮だ。通れる保証はない。崩落物帯の硬さも分からない。B-2の接続口は壊れかけていて、再起動できる時間も短い。だが、正面遮断しかなかったE-04に、別の見方が生まれた。


 レンはその線を見て、息を吐いた。


 MIOの名前は出ていない。


 未分類反応も静かだ。


 今はそれでいい。


 E-03からB-2へ出た。


 B-2からE-04の側面が見えた。


 そして、E-04-Bという細い迂回線が、地図の上に残った。


 次は、その線が本当に踏めるかを確かめる。


 レンは中央卓の明度を少し落とし、E-04-Bだけを残した。


 灰色の遮断点の横に、細い白い線が一本ある。


 まだ頼りない。


 でも、正面以外の道だった。

連載1ヶ月になりました。たくさんお読みいただきありがとうございます。

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