表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
沈黙圏の外へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
130/186

第123話 分類できない鍵

 観測柱B-2への接近計画は、翌朝には形になっていた。


 レンは中央卓に、E-03からB-2までの仮ルートを出していた。E-03外部仮拠点を起点に、北側外縁ルートへ出る。旧管理道路を外れ、浅い亀裂帯を確認し、観測柱B-2へ近づく。まだ実行ではない。今日は、計画とノイズの再解析だ。


 外へ出る前に、分類できないものを少しでも減らしておきたかった。


[B-2 APPROACH PLAN]

――――――――――

起点:E-03外部仮拠点

目的地:観測柱B-2候補

前進条件:路面候補確認/帰還線維持/補助充電完了

停止条件:沈降反応/通信低下/駆動負荷急上昇/未分類ノイズ増幅

目的:E-04迂回確認/未分類反応再取得

――――――――――


「未分類ノイズが増えたら止まる」

『はい。B-2候補周辺で再検出される可能性があります。接近時の監視対象に含めます』

「危険かどうかは分からない」

『分かりません。ただし、既知の施設タグ、地形データ、送電ノイズ、搬送ログとは一致しません』

『車輪には関係しますか』

『現時点では不明です』

『では、関係した時点で教えてください』

「そこは俺にも教えてくれ」


 ガタは車輪カバーを一枚だけ増やしていた。本当に一枚だけだったので、レンは何も言わなかった。代わりに、工具袋の重さを測る。B-2へ行くなら、持ち物を減らす必要がある。外部仮拠点で補給できるものはE-03に置く。基地から全部背負っていく必要はない。


 それも、E-03ができたから変わったことだった。


 レンは中央卓の未分類ノイズを開いた。


 波形は短い。前回のスキャン終端で一度だけ入っている。線は細く、途中で途切れている。だが、消えずに残っていた。


[UNCLASSIFIED TRACE]

――――――――――

検出地点:観測柱B-2候補周辺

検出時間:地形スキャン終端

波形:短時間/単発

既知系統:不一致

再取得:接近時

――――――――――


「もう少し絞れるか」

『試みます。地形監視塔の生データ、E-03管理ログ、基地側生体記録を照合します』

「生体記録?」

『レンの外部行動時の生体ログです。未分類ノイズ検出時に、心拍と呼吸の微細変動があります』

「俺?」

『はい。異常値ではありません。ですが、完全な偶然とも断定できません』


 レンは眉を寄せた。


 心拍と呼吸。


 あの時、何かを感じた覚えはない。送電調整室で地図を見て、沈降帯を確認し、B-2候補が出た。その終端で、ノイズが混じった。


 胸が詰まったか。


 思い出そうとしても、はっきりしなかった。


「疲れてただけじゃないのか」

『その可能性はあります。外部作業後であり、粉塵環境、緊張、疲労の影響も考えられます』

「なら、それでいい」

『ただし、ノイズ波形は個人識別系の断片に近い特徴を持ちます』

「個人識別系?」

『施設権限、装備タグ、搬送機IDとは違います。個人単位の認証鍵、または待機中の相互鍵に似ています』

「相互鍵……」


 言葉が、なぜか耳に残った。


 相互鍵。


 誰かと誰かの間で使うもの。


 レンは中央卓に手をついた。冷たい金属の感触が、手のひらに伝わる。頭の中で、何かが引っかかった。


 名前にはならない。


 映像にもならない。


 ただ、胸の奥だけが、少し狭くなった。


『レン、心拍上昇』

「分かってる」

『停止しますか』

「いや。続けてくれ」

『了解。ただし、無理に追わないでください』


 ノアの声は、いつもより少し低かった。


 レンは息を吐いた。


「ノア、これが通信なら、相手がいるってことか」

『通信とは判定していません。現時点では、通信路も応答先も確認できません』

「じゃあ、記憶か」

『記憶とも判定していません。外部データと生体記録の一時的な同期に近い反応です』

「分からないってことだな」

『はい。ですが、重要度は上げます』


 ガタが車輪を小さく動かした。


『重要度が上がるなら、停止条件にも残してください』

「残す」

『レンの反応も条件に入れますか』

「いらない」

『いります』

「いらない」

『外部で胸が詰まって倒れたら、私の車輪では運べません』

「倒れない」

『倒れる前提ではなく、倒れないための条件です』


 レンは言い返そうとして、やめた。


 ガタの言い方は雑だが、間違ってはいない。


「……心拍が跳ねたら、一度止まる」

『登録します』

「大げさにするな」

『外部作業条件です。大げさではありません』


 ノアが条件を追加した。


[B-2 FIELD CONDITIONS UPDATE]

――――――――――

停止条件:沈降反応/通信低下/駆動負荷急上昇/未分類ノイズ増幅

追加確認:レン生体ログ急変時、一時停止

未分類反応:個人識別系断片の可能性

扱い:監視対象

――――――――――


「個人識別系断片の可能性、か」

『はい。確定ではありません』

「確定じゃないなら、深く考えない」

『それで構いません。接近時に再取得できれば、分類精度が上がります』

「再取得できなかったら」

『その場合は、単発の不明反応として残します』


 レンは椅子に座った。


 中央卓の地図には、E-03、北側外縁ルート、観測柱B-2候補、E-04遮断点が並んでいる。その端に、未分類反応の小さな印がある。


 小さな印だ。


 だが、目がそこへ戻る。


 なぜか、放っておきにくい。


 レンは胸の中央を、服の上から軽く押さえた。痛いわけではない。ただ、そこに小さな空白があるような気がした。


 空白。


 外の地図にあった黒い空白とは違う。


 自分の中にある、名前のない空白。


『レン』

「何だ」

『作業を続けますか』

「続ける。今日は計画を終わらせる」


 レンは姿勢を戻した。


 未分類ノイズの正体は分からない。個人識別系かもしれない。相互鍵かもしれない。通信ではなく、記憶でもない。なら、今ここで考え込んでも進まない。


 B-2へ行く。


 そこで地形を確認する。


 ノイズが出るなら、取る。


 止まる条件も決めた。


 それで十分だ。


[NEXT FIELD OBJECTIVE]

――――――――――

目的地:観測柱B-2候補

起点:E-03外部仮拠点

主目的:E-04迂回確認

副目的:未分類反応再取得

追加条件:生体ログ急変時、一時停止

準備状態:計画確定前

――――――――――


「計画確定前」

『はい。残る確認は、E-03での補給配置と帰還余裕の計算です』

「そこまでやる」

『了解』


 ガタが少しだけ前に出た。


『車輪カバーは一枚増やします』

「もう増やしてるだろ」

『正式申告です』

「却下しない」

『承認されました』


 レンは苦笑した。


 いつものやり取りが戻ってきた。胸の奥の狭さも、少しだけ薄くなる。


 だが、消えたわけではない。


 未分類ノイズの小さな印は、中央卓の端で残っている。


 誰のものとも分からない鍵。


 そう思った瞬間、レンは自分で眉をしかめた。


 鍵。


 なぜ、その言葉が浮かんだのか分からなかった。


 ノアは何も言わなかった。


 ガタも、車輪を止めていた。


 中央卓の地図だけが、静かに光っている。


 E-03の先に、観測柱B-2。


 その周辺に、小さな未分類反応。


 レンは端末を閉じた。


 次は、そこへ行く。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ