第122話 遮断点の内側
E-03が外部仮拠点として登録されたあと、基地の外縁地図は少しだけ見え方を変えた。
基地からE-03までの線が、細い点線ではなく、薄い帯になっている。完全な安全域ではない。だが、戻れる場所が途中にある。その違いが、地図の上にも出ていた。
レンは中央卓の前に立ち、E-04方面の地図を拡大した。
沈降帯。
半地下搬送路の閉塞候補。
北側外縁ルートの断片。
観測柱B-2候補。
そして、未分類ノイズ。
「E-04遮断点をもう少し読む」
『はい。E-03の地形監視塔データと搬送機ログを重ねれば、遮断点の詳細を抽出できます』
「直行しないための確認だ」
『その前提なら有効です。進むために、避ける場所を確定します』
ガタは中央卓の横で待機していた。車輪は清掃済みだが、外部仮拠点登録後から少しだけ態度が落ち着いている。態度というか、停止姿勢がまっすぐになった。
『E-04直進路は、車輪として反対します』
「まだ言ってない」
『先に言います』
「理由は」
『沈みます』
「分かりやすい」
『分かりやすさは安全に貢献します』
ノアが地図に搬送機ログを重ねた。
M-17の記録が、E-03からE-04方面へ伸びる。途中までは旧搬送路と一致している。そこから半地下搬送路へ入り、ログが乱れる。最後の地点は、沈降帯の手前ではなく、その内側に近かった。
[E-04 ROUTE OVERLAY]
――――――――――
搬送機M-17:E-04中継路へ進行
半地下搬送路:利用履歴あり
ログ乱れ:沈降帯内側
帰還記録:欠落
地形差分:広域沈降
――――――――――
「沈降帯の内側まで行ってる」
『はい。M-17は地形変動の発生前、または初期段階に進入した可能性があります』
「帰還できなかった」
『その可能性が高まりました』
「E-04遮断点は、崩れた道だけじゃないな」
『はい。自動封鎖の痕跡があります』
地図の一部が赤ではなく、細い灰色の格子で表示された。沈降帯の手前、旧搬送路と半地下搬送路の分岐点。その周辺に、人工的な封鎖線が残っている。
「防護手順か」
『旧防護手順による自動封鎖と思われます。地形変動を検知した後、E-04方面への通行を制限した形跡があります』
「道が崩れた上に、設備側も閉じた」
『はい。物理的な沈降と、管理手順上の遮断が重なっています』
レンは腕を組んだ。
崩れただけなら、迂回路を探す。
封鎖だけなら、条件を満たして開ける。
だが両方なら、順番を間違えると危ない。
「自動封鎖を解除しても、地面が沈んでたら意味がない」
『その通りです。E-04へ向かうには、まず観測柱B-2で北側外縁ルートの連続性を確認する必要があります』
「B-2で地形補助観測。そこで迂回できるか見る」
『はい。B-2の確認後、E-04遮断点へ進むか、別ルートを探すか判断できます』
ガタが車輪を小さく鳴らした。
『解除という言葉は嫌です。開いた先が穴なら困ります』
「穴かどうかを見るためのB-2だ」
『支持します』
「今日、支持多いな」
『地面が関係する時は真面目です』
レンは地図をもう一段拡大した。
観測柱B-2候補は、沈降帯の北側にある。そこへ向かう北側外縁ルートは途切れ途切れだが、岩盤の高い場所を選んでいる。直進路より距離は長い。だが、危険が分散している。
問題は、途中の二箇所だった。
一つは旧管理道路から外れる地点。
もう一つは、B-2の手前にある浅い亀裂帯。
[B-2 APPROACH DRAFT]
――――――――――
出発:E-03外部仮拠点
経路:北側外縁ルート断片
注意一:旧管理道路離脱点
注意二:浅部亀裂帯
目的:観測柱B-2接近確認
必要:路面詳細/帰還余裕/充電残量
――――――――――
「この二箇所を潰せば、B-2へ行ける」
『潰す、ではなく、確認します』
「はいはい。確認する」
『確認して進める形にします』
「ノア、最近言い直しが細かいな」
『用語は行動に影響します。破壊するのではなく、通れる条件を確認します』
「それは正しい」
レンは椅子に腰を下ろした。
B-2へ行く計画が、急に現実味を持った。E-03が仮拠点になったことで、基地から直接遠くへ行く必要はない。E-03で休み、ガタを補助充電し、そこから北側外縁ルートへ向かう。
それなら、行ける可能性がある。
もちろん危険はある。
だが、危険が作業項目になった。
『レン、未分類ノイズの再解析を行いますか』
「E-04遮断点と関係あるか?」
『現時点では不明です。ただし、検出地点はB-2候補周辺です。接近計画に含めるべきです』
「出してくれ」
中央卓の地図の端に、細い波形が表示された。地形データに混ざったものだ。送電ノイズとは違う。搬送機ログの欠落パターンとも違う。施設タグの応答でもない。
[UNCLASSIFIED TRACE ANALYSIS]
――――――――――
検出地点:観測柱B-2候補周辺
波形:短時間/単発
既知系統:不一致
再取得条件:B-2接近時
暫定扱い:監視対象
――――――――――
「単発か」
『はい。前回スキャンの終端で一度だけ検出されました』
「危険なら近づく前に出てほしいな」
『希望として記録します』
「記録しなくていい」
『記録しません』
ガタが少しだけ前に出た。
『監視対象なら、接近時の停止条件に入れてください』
「未分類ノイズが強くなったら停止」
『はい。車輪に関係なく停止です』
「分かった」
レンは地図の横に、停止条件を書き足した。
路面沈降反応。
通信低下。
ガタ駆動負荷上昇。
未分類ノイズ増幅。
並べると多い。だが、多いから進めないわけではない。多いなら、順番に見る。
[B-2 FIELD CONDITIONS]
――――――――――
前進条件:E-03補助充電完了/帰還線維持/路面候補確認
停止条件:沈降反応/通信低下/駆動負荷急上昇/未分類ノイズ増幅
帰還点:E-03外部仮拠点
目的:観測柱B-2確認
――――――――――
「形になったな」
『はい。B-2接近計画の初期案として保存できます』
「E-04はその後」
『はい。E-04遮断点は、B-2確認後に再評価します』
『車輪としては、その順番を強く支持します』
「分かった。車輪の支持も入れておく」
『本当ですか』
「嘘だ」
『残念です』
レンは中央卓の地図を保存した。
E-04遮断点の詳細は、少し分かった。
道は沈んでいる。
半地下搬送路も閉じかけている。
旧防護手順の封鎖も残っている。
だから、真っ直ぐ行かない。
観測柱B-2を経由する。
それが次の答えだった。
中央卓の画面で、E-03からB-2へ細い候補線が伸びる。その先、E-04遮断点はまだ灰色のままだ。行けるとは限らない。だが、行くために何を確かめるかは見えた。
レンは端末を閉じた。
「次はB-2の接近準備だ」
『了解。外部仮拠点E-03を起点とした行動計画を作成します』
『私は車輪カバーを追加します』
「勝手に増やすな」
『必要物資です』
「重くなりすぎる」
『では一枚だけ増やします』
「もう積む気だろ」
『必要物資です』
レンは少し笑った。
地図の上では、E-03の点が安定して光っている。その先に、観測柱B-2。さらにその向こうに、E-04。
外はまだ広い。
でも、次に踏む場所は決まった。
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