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辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
沈黙圏の外へ

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第115話 外で充電できる場所

 搬送機充電ステーションの誘導灯は、入口区画の奥で細く点滅していた。


 緑の線は、壁の下側を走っている。床の砂に半分隠れ、ところどころ途切れているが、向きは分かる。E-03のさらに奥、右側の通路へ続いていた。


 レンは入口区画の待機ラインで立ち止まり、ライトを向けた。


「距離は」

『誘導表示の終端まで、およそ二十メートル。通路幅は搬送機一台分。床面状況は未確認です』

『通信状態は維持されています。受電点の仮保護後、E-03低出力値は安定傾向です』

「行ける範囲だけ行く」

『推奨します。入口区画を帰還点として扱えば、短時間の内部確認が可能です』


 ガタは待機ラインの手前で、車輪を止めていた。右前輪の動きは悪くない。ただ、砂の多い床を見てから、少しだけ進む角度を変えた。


『床面砂量、多め。走行は可能ですが、戻り時に車輪清掃が必要です』

「先に言うだけましだ」

『戻ってから言うと怒られます』

「分かってるならいい」


 レンは入口区画の壁へ、帰還用の小型タグを一つ貼った。既存の通信タグとは違う。内部で方向を見失わないための、弱い位置表示だ。端末の地図に、入口区画が小さな四角で固定される。


 外ではない。


 だが、基地でもない。


 E-03の中へ入る最初の一歩だった。


[ENTRY ANCHOR]

――――――――――

入口区画:仮待機場所

内部位置タグ:設置

通信状態:維持

帰還点:登録

確認目標:搬送機充電ステーション

――――――――――


「帰還点、登録」

『はい。ここへ戻る線を維持します』

『帰還点があるなら、前進できます』

「そういうことだ」


 レンは通路へ入った。


 壁の補助灯は弱い。ライトを向けなければ、床の段差は分からない。通路の左側には古い搬送レールが埋まっている。右側にはケーブル溝。砂は入口より少ないが、レールの溝に溜まっていた。


 ガタが慎重に進む。車輪がレールの縁に当たり、かつ、と小さく鳴った。


『左車輪、レール接触。進路を五センチ右へ修正します』

「自分でやれ」

『実施します』


 ガタが少し右へ寄った。今度は音が軽くなる。


 レンは壁の表示を読んだ。かすれた文字。古いアイコン。搬送機の形をした記号。その横に、充電端子を示す三本線が残っている。


「搬送機用だな」

『はい。E-03内部搬送機の待機・補助充電設備と思われます』

「ガタに合うか」

『規格差があります。ただし、低出力補助端子が残っていれば変換可能です』

『期待値を上げすぎないでください』

「お前に言ってるのか」

『自分にも言っています』


 ガタの返答はいつもより少し低かった。


 レンはちらっと見た。ガタは充電ステーションへ行きたがっている。だが、それを茶化すより、機体として必要としているのが分かる。外で走り、砂を噛み、帰還線を維持する。そのためには、補助充電があるだけで行動範囲が変わる。


 通路の先で、緑の線が強くなった。


 右壁の一部が開けた空間になっている。床に四角い待機枠。壁に端子盤。上部に古い表示灯。砂に埋もれた端子カバーが二つ。


 搬送機充電ステーションだった。


「着いた」

『充電ステーションを確認。低出力状態で待機中です』

『端子盤、外装劣化。主端子は大型搬送機用。補助端子は右下にあります』

「まず外装を見る」


 レンは端子盤の前に膝をついた。


 主端子は大きすぎる。ガタの規格とは合わない。古い搬送機を直接つなぐためのものだ。だが、右下に小さな補助端子があった。カバーは固着しているが、形は残っている。導通計を当てると、弱い反応が返った。


「生きてる」

『はい。低出力補助端子、応答あり』

『電圧は不安定ですが、直接充電ではなく補助セル経由なら使用可能です』

「変換ケーブルがいるな」

『即席で組めます。ただし、初回は短時間補助充電に限定してください』

『限定で構いません』


 ガタがすぐ答えた。


「早い」

『限定でも、外部で充電できる事実が重要です』

「そこは同感だ」


 レンは工具袋から細い変換ケーブルを出した。基地で作ってきたものではない。予備線と端子をその場で組み合わせる。絶縁テープを巻き、補助セルを間に挟む。直接ガタへ流すのではなく、一度セルに受けてから安定させる。


 手元が少しやりにくい。手袋越しの作業で、細い端子が滑る。


 カチ、と一度外れた。


「くそ」

『端子角度、右に傾いています』

「分かってる」

『分かっているなら、もう一度左から入れてください』

「口が整備員だな」

『車輪持ちの整備員です』


 レンは端子を差し直した。今度は入る。導通計の表示が細く上がった。


[CHARGE LINK]

――――――――――

充電ステーション:低出力補助端子応答

変換経路:補助セル経由

出力:不安定/使用可能範囲内

対象:ガタ補助充電

初回制限:短時間

――――――――――


「初回は短時間」

『了解しています』

「本当に?」

『長時間接続は端子劣化と私の車輪停止を招きます。嫌です』

「ならいい」


 レンは補助セルをガタの側面ポートへ接続した。ケーブルは少し短い。ガタは待機枠の端へ斜めに入る形になった。車輪の一つが枠線からはみ出す。


『待機枠と車輪位置が合いません』

「規格が違う」

『少し不愉快です』

「我慢しろ」

『充電できるなら我慢します』


 レンは接続を確認し、ノアに合図した。


「低出力で流してくれ」

『実行します。三十秒ごとに状態確認。異常検知時は自動遮断します』


 端子盤の奥で、小さな音がした。


 ん、と低い振動が床を伝う。緑の表示灯が一度だけ明るくなり、補助セルのランプが点いた。ガタの側面にも、細い青い光が入る。


 ガタが黙った。


 数秒。


 レンは端末を見た。


「どうだ」

『入力、確認』

「痛みとかは」

『ありません。車輪駆動系補助セルへ微弱充電。内部温度、許容範囲。接続は不格好ですが、使えます』

「不格好は余計だ」

『重要です』


 レンは息を吐いた。


 外で、ガタに電力が入っている。


 それだけで、E-03の意味が変わった。ここはもう、ただ入れるだけの場所ではない。外部行動の途中で、機体を休ませられる場所だ。


[GATA STATUS]

――――――――――

補助充電:開始

入力:低出力

駆動補助セル:回復中

車輪系統:待機

外部行動継続性:改善

――――――――――


「外部行動継続性、改善」

『はい。ガタの再充電が可能になれば、E-03以遠の探索範囲を拡張できます』

『まだ短時間です』

「分かってる」

『ですが、短時間でも違います』


 ガタの声は平坦だったが、いつもの不満とは少し違った。


 レンは充電ステーションの周囲をライトで照らした。端子盤の横に、古いログスロットがある。埃と砂をかぶっているが、ランプが一つだけ点いていた。


「ログも生きてるか」

『充電ステーションの稼働記録と思われます。読み取り可能な範囲があります』

「充電中に読む」

『接続安定を優先してください。ログ取得は入口層のみで十分です』

「入口層だけな」


 レンは端末をログスロットへ近づけた。


 文字化けが多い。だが、いくつか読める行があった。搬送機番号。待機時間。経路。E-03からE-04方面へ向かった記録。


 レンの指が止まった。


[STATION LOG]

――――――――――

搬送機記録:一部取得

最終稼働方面:E-04中継路

搬送路状態:不安定

帰還記録:欠落

備考:地形変動検知

――――――――――


「E-04方面」

『はい。E-04中継路へ向かった搬送機記録です』

「帰ってきた記録は」

『欠落しています』

「地形変動検知……」


 充電ステーションの報酬だけでは終わらなかった。


 E-04への道に、過去の搬送機が向かっている。その記録がここに残っている。帰還記録はない。地形変動。搬送路状態、不安定。


 E-04遮断点の理由が、少し見えた。


 ガタの補助充電ランプが安定したところで、ノアが言った。


『初回補助充電、制限時間に近づいています』

「切る」

『了解。遮断します』


 青い光が消えた。


 ガタが車輪を一度だけ回す。


『駆動補助セル、少量回復。走行感、改善』

「よかったな」

『はい。これは、よい設備です』

「珍しく素直だ」

『設備には敬意を払います』


 レンはケーブルを外し、補助端子に仮カバーを戻した。完全には閉まらない。だが、砂が直接入るよりはましだ。


 端末には、二つの成果が残っている。


 ガタの短時間補助充電に成功。


 E-04方面搬送機ログを取得。


 レンは充電ステーションを見上げた。


 外で、充電できる場所がある。


 外の先へ向かった記録がある。


 E-03は、確実に次の場所へつながっていた。

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