表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
沈黙圏の外へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
113/189

第106話 進路確定

 休止は、長く取れなかった。


 制御箱の横は風を少し避けられたが、体が楽になるほどではない。背中に汗が残り、首の後ろだけが冷える。レンはマスクを少し押さえ、呼吸を整えた。目の前の地図には、外縁管理施設 E-03 の輪郭が薄く出ている。


 そこへ向かう線は三つあった。


 割れた旧管理道路。折れた送電支柱列。砂に埋もれた保守搬送路。


『進路選択が必要です。旧管理道路は通信塔との見通しに優れます。ただし舗装破断と空洞反応が多い。送電支柱列は施設方位の精度に優れます。ただし倒壊物と露出ケーブルがあります。保守搬送路は足場が比較的安定しています。ただし遮蔽物により通信遅延が増加します』

『全部いやです』

「選択肢があるだけましだろ」

『室内という第四選択肢があります』

「却下」

『ひどいです』


 レンは地図を拡大した。旧管理道路は遠回りだが、基地との線が取りやすい。送電支柱列はまっすぐ施設へ向かうが、倒れた支柱の間を抜ける必要がある。搬送路は少し低い場所を通り、施設の側面へ回り込む形だった。


 外縁施設まで、まだ距離がある。ここで間違えると、戻るだけで体力を使い切る。


 風が急に強くなった。


 砂が制御箱の縁を叩いた。細かい粒がマスクの表面に当たり、ぱらぱらと音を立てる。ガタが残骸の陰から出て、すぐにまた戻った。


『外気粒子濃度、上昇。視界低下が始まっています』

「砂嵐か」

『局所的な粒子流です。継続時間は不明。通信塔との同期に影響が出ます』

『戻りましょう』

「まだ判断しない」

『今が判断です』


 ノアの声が遅れた。音が割れ、語尾が一瞬欠ける。


『レン、第三タグ……同期……低下。現在地から……搬送路側へ……』


「ノア、もう一回」


 返事がすぐに来ない。


 レンは立ち上がり、制御箱の横から送電支柱列を見た。砂で輪郭がぼやけている。支柱の切れた線が風に揺れ、黒い束がぶら下がっていた。旧道路の方は見通しがいいが、さっきの空洞反応を思い出すと足が重い。


 搬送路は、低いレールが砂の下に続いている。遮蔽物は多い。だが、足場には芯がある。


『通信再確立。遅延、四・八秒。第三タグの向きが悪化しています』

「進路を決める。道路、支柱列、搬送路。どれが一番戻れる」

『帰還優先なら旧管理道路。ただし空洞反応の増加が見込まれます』

「施設に近づくなら」

『送電支柱列。ただし倒壊物により進行停止の可能性があります』

「搬送路は」

『中間です。通信は悪化しますが、足場が残っている可能性が高い。ガタの走行安定性も、現時点では最良です』

『私は搬送路に一票です。床に近いものを感じます』

「床じゃなくてレール跡だ」

『床の親戚です』


 レンは少しだけ笑い、すぐに喉が引っかかった。マスクの中で咳を一つ押し殺す。砂が増えている。ここで長く悩む方が危ない。


 進むなら、進むための条件を決める。戻るなら、戻る理由を決める。


 レンは通信タグの残りを確認した。三枚。電源残量はまだある。ガタの駆動残量も許容範囲。自分の足は、疲れているが動く。


「搬送路を主経路にする。第四タグは搬送路の中継点。送電支柱列は方位確認だけに使う。旧道路は帰還用に残す」

『妥当です。搬送路主経路、旧道路帰還線、送電支柱列を補助方位として登録します』

『決まりましたか』

「決まった」

『では早く行きましょう。止まっていると砂が積もります』


 ガタが残骸の陰から出た。車輪に砂が絡み、最初の一回転だけ重そうに鳴った。それでも、さっきより動きは安定している。搬送路の金属芯を拾えば、砂地よりは進める。


 レンは制御箱に取り付けた第三タグを確認した。ランプはまだ点いている。弱いが、消えていない。


[ROUTE SET]

――――――――――

主経路:保守搬送路

帰還線:旧管理道路+通信タグ列

補助方位:旧送電管理線

次設置候補:第四タグ/搬送路中継点

――――――――――


 地図上で、三つの線が色分けされた。黒い領域の中に、細い道筋ができる。レンはそれを一度だけ見て、端末を胸のホルダーに戻した。


 進む。


 搬送路は支柱列より低い位置にあり、砂が溜まりやすかった。だが、足元の金属芯は途切れていない。レンはレール跡の横を歩き、ガタは時々その上に車輪を乗せて進んだ。幅は合わないが、片側だけでも硬い場所を使えるらしい。


『片輪だけ安定します。もう片輪は不満です』

「左右で話し合ってくれ」

『車輪同士の関係を悪くしないでください』

「仲いいのか」

『仕事上の付き合いです』


 風が強くなり、砂が視界を削った。外縁施設の影は一度見えなくなった。かわりに、搬送路脇の低い壁が見えてきた。保守員が風を避けるための防砂壁か、搬送機の脱線防止壁か。高さは膝ほどしかないが、あるだけで足元が見やすい。


 ガタがその壁の内側を走り、急に止まった。


『右側、沈下なし。左側、砂深い。レンは右寄り推奨』

「了解」

『あと、壁の陰は少し快適です』

「よかったな」

『ここを基地にしましょう』

「狭すぎる」


 レンは防砂壁の内側を進んだ。風が直撃しないだけで、体が少し楽になる。搬送路はやはり使える。完全ではない。だが、道として扱える。


 ノアの声がまた遅れた。


『第四タグ候補地点……前方八十メートル。搬送路中継箱……残存反応』

「中継箱があるなら、タグを置ける」

『はい。通信の谷を一つ越えられます』

『谷は嫌です』

「通信の話だ」

『それでも嫌です』


 八十メートルは短い。だが、風の中では長かった。レンは足を運びながら、時々金属棒で地面を突いた。防砂壁の内側にも、割れた箇所はある。砂が薄く見える場所ほど、下が抜けていることがあった。


 途中で、ガタが小さな金属片を弾いた。


 からん、と音がして、砂の上を転がる。レンは足を止めた。金属片は、古い搬送機の連結具だった。壊れた部品。ここを荷物が通っていた証拠。


「搬送路で間違いなさそうだな」

『周辺に同型部品を複数確認。保守搬送路としての確度が上がりました』

『つまり床の親戚です』

「そこに戻すな」


 第四タグ候補の中継箱は、低い壁の切れ目にあった。角が潰れ、蓋は半開きになっている。中には砂が入っていたが、端子は残っている。


 レンは膝をつき、息を整えた。手袋の中で指が冷えている。端子の砂を掻き出し、タグを差し込む。


 反応しない。


「またか」

『電源端子、死んでいます。通信反射面としては使用可能です。タグを独立駆動に切り替えてください』

「電池を食うな」

『はい。ただし、ここで設置すれば帰還線が安定します』

『私も安定を希望します』

「分かった」


 レンはタグの側面を開き、独立駆動に切り替えた。小さなランプが橙に点く。電力消費は増える。だが、帰り道が細くなるよりいい。


[TAG LINK]

――――――――――

第四タグ:独立駆動で設置

第三タグ:接続維持

保守搬送路:主経路登録

通信遅延:三・一秒へ改善

――――――――――


 ノアの声が少し戻った。


『第四タグ接続を確認。搬送路経由での前進が可能です』

「外縁施設までは」

『推定八百九十メートル。視界回復後、施設外観を確認できる可能性があります』

『八百九十は遠いです』

「二・八キロよりは近い」

『比較の仕方がずるいです』


 レンは中継箱の横に手をつき、立ち上がった。足が重い。だが、進路は決まった。旧道路、支柱列、搬送路。その中から、今使う道を選んだ。


 風の向こうで、砂の膜が少し薄くなった。


 低い建物の影が見えた。さっきより横幅が分かる。塔だけではない。ドーム状の屋根と、側面へ伸びる構造物。外縁管理施設 E-03 は、灰色の砂の中に沈みかけながら、まだ形を残していた。


 レンは短く息を吐いた。


「見えた。次は、あそこまで行く」

『到達行動に移行可能です。ただし、帰還余力に注意してください』

『私は注意しています。かなり』

「助かる」

『褒められると判断が鈍ります』

「じゃあ働け」

『ひどいです』


 レンは第四タグの光を確認し、搬送路の先へ向き直った。


 もう、ただ外へ出た段階ではなかった。


 進む道を選んだ。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ