表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
沈黙圏の外へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/188

第101話 外縁施設

 通信塔の復旧ログは、三度目の確認でも同じ場所で止まった。


[NETWORK STATUS]

――――――――――

基地内管理系:限定復旧

通信塔:低出力運用中

保守棟:接続維持

外縁管理網:経路不足

推奨処理:外部中継核の再接続

――――――――――


 レンは端末の前で、しばらく黙っていた。表示は短い。問題は、その先だった。基地、通信塔、保守棟。今の復旧範囲は三点でしかない。点が三つあっても、惑星は起きない。


「外部中継核って、基地の外か」

『はい。基地内設備のみでは、惑星管理網への接続経路が足りません。現在の復旧範囲は、基地、通信塔、保守棟の三点に限定されています』

「三点じゃ足りない」

『足りません。面として扱うには、最低でも外縁施設一基との接続が必要です』

「外に出ろってことか」

『条件付きで可能です。外気温、残留粒子濃度、地表の破損率、通信遅延を考慮しても、短時間の到達行動であれば成功率は確保できます』

「短時間って、どのくらい」

『往復で三時間以内。現地での作業時間は四十分以内が推奨です。超過する場合、携行電源と通信タグの予備が必要になります』


 レンは作業台に置いた古い工具を見た。修理済みのもの、まだ癖の残るもの、持ち出すには不安なもの。基地の中でなら、足りない部品は保守棟まで取りに行けばよかった。外ではそうはいかない。


 床下から、軽いモーター音がした。


『嫌です』

「まだ何も言ってない」

『外に出る話です。嫌です。砂が入ります。車輪軸に悪いです。あと、たぶん転びます。レンが』

「俺の心配か、お前の車輪の心配か、どっちだ」

『主に私です』

『ガタの同行を推奨します』

「本人は嫌がってるけど」

『外部地形の即時確認、空洞検知、簡易牽引、低所確認に適しています。レン単独より安全域が広がります』

『安全域のために私を使うのは反対です』

「じゃあ何のためならいいんだよ」

『基地内巡回、床下点検、充電ポートの発見、落ちている部品の確保、あと室内待機です』

「最後が本音だろ」

『はい』


 レンは少しだけ息を吐いた。変に正直なのは悪くない。今は、それくらいの雑さがあった方が手が動く。


 画面の地図は、まだ黒い。基地から少し先までは表示されている。通信塔と保守棟の周辺にも薄く線がある。だが、その外側はほとんど死んでいた。黒い領域の端に、小さな点が一つだけある。


 外縁管理施設。名称は欠けている。旧管理番号だけが残っていた。


「ここを起こせば、何が変わる」

『基地外縁の地形データが取得できます。通信塔の指向調整精度が向上します。外部施設間の遮断点を特定できる可能性があります。また、惑星管理網の低出力接続条件に近づきます』

「近づく、か」

『はい。完全復旧ではありません。ただし、現在より遠くを見られます』


 それで十分だった。


 レンは端末から目を離し、壁際のラックに向かった。携行電源を一つ、予備セルを二つ。簡易酸素カートリッジ。通信タグ。古い防塵マスク。軽量工具。過不足はある。けれど、全部そろうまで待っていたら何も始まらない。


 ノアが装備一覧を投影した。


『持出推奨:携行電源一基、予備セル二本、通信タグ六枚、簡易補修材、手動クランプ、外部用保護布』

「保護布?」

『ガタ用です。車輪軸とシャシー下部への砂侵入を二十七パーセント低減します』

『必要です』

「急に乗ってきたな」

『駆動部は重要です』


 ガタが整備台のそばまで走り、自分の車輪まわりをこちらへ向けた。さっきまで嫌がっていたくせに、保護布だけは当然のように巻かせるつもりらしい。


 レンは古い布を切り、車輪軸の周辺とシャシー下部に巻いた。固定具が足りないので、途中から細い配線留めを使う。見た目は悪い。だが、外れなければいい。


「これで砂対策。完璧じゃないけど、ないよりまし」

『美観は低下しました』

「外でおしゃれしてどうする」

『記録に残ります』

「残すな」

『拒否します』


 ノアが装備確認を終え、外部扉までの経路を開いた。


『出発前確認。帰還不能時の優先順位は、生命維持、通信タグ設置、外縁施設の位置確定です。施設起動は必須ではありません』

「そこは必須じゃないんだな」

『到達できれば進展です。位置を確定できれば次回の成功率が上がります。起動できれば最良です』

「失敗しても、前には進む」

『はい。その条件で行動します』


 外部扉へ向かう通路は、基地内でも温度が低い。壁面のライトは半分ほどしか点いておらず、足元に長い影が落ちていた。奥へ進むほど、空気に金属と乾いた土の匂いが混じる。


 扉の前で、レンは足を止めた。


 大型の隔壁だった。表面には傷が多い。何かが外から叩いた跡ではない。長い時間、砂と風に削られた跡だ。


『外部圧差、許容範囲。粒子濃度、上限未満。通信遅延、想定内。開放可能です』

「ガタ」

『嫌ですが、います』

「それでいい」

『よくはありません』


 レンは手動レバーに手をかけた。冷たかった。手袋越しでも分かるほど、金属が冷えている。指先に力を入れると、古い機構が低く鳴った。


 ロック表示が一つずつ消えていく。


[AIRLOCK RELEASE]

――――――――――

内側隔壁:解除

外側隔壁:待機

外部行動許可:限定

目的地候補:外縁管理施設 E-03

――――――――――


 外側の監視窓に、薄い光が入った。


 レンは思わず近づいた。


 基地の外は、暗い灰色だった。地面は砂と砕けた舗装材に覆われている。遠くに、折れた送電支柱の列が見えた。そのさらに先、霞んだ地平の上に、細い塔の影が立っていた。


 まだ遠い。


 けれど、そこにあった。


「見えた」

『外縁管理施設、推定方位と一致します』

『遠いです』

「近かったら、外縁って言わないだろ」

『言葉の問題ではありません。車輪の問題です』


 レンは外を見たまま、装備のベルトを締め直した。胸の奥が少しだけ重い。基地の外に、まだ動くものがある。その事実が、体の中でうまく収まらなかった。


 ここから先は、ただ生き残るだけではない。


 レンは扉の開放スイッチに手を伸ばした。


「行こう。外を見に行く」

『記録します。レンが自分から危険な場所へ行きました』

「余計な記録を増やすな」

『重要記録です』

『外部行動を開始します。レン、最初の目標は到達ではありません。帰還可能な距離を保ちながら、前へ進むことです』

「分かってる」


 隔壁が開いた。


 冷えた風が、基地の中へ流れ込んだ。

いつもお読みいただきありがとうございます。

皆様の応援のおかげで連載上100話まで気合で走ってきました。

6章から投稿数/日と更新時間が変更となります。

今後ともよろしくお願いします。


これからも「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ