表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境惑星で旧文明AIを起動したら、銀河インフラが再起動しはじめた 〜廃船修理のつもりが、星系管理者に登録されました〜  作者: 七森シオン
北東中継塔と灰色の庭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/187

第98話 外縁が、輪になった

 南側旧管制施設から持ち帰った環境制御ログは、欠けていた。


 完全な手順書ではない。焼けた記録の端、途中で切れた波形、読める単語だけが残っている。それでも、灰色の庭が欲しがっていたものは入っていた。環境固定体の立ち上げ順。粉塵固定域の許容幅。外周制御を面で扱わないための区画同期。


 レンはそれを、通信塔系統の地図に重ねた。


 通信塔、北東中継塔、旧管制施設、地下幹線、灰色の庭外周。五つの線が、細くつながる。完全な復旧ではない。低出力で、短時間だけ通す輪だった。


『外縁グリッド、低出力接続準備完了。全系統を常時接続する能力はありません』

「常時じゃなくていい」

『部分リングとして十秒から十二秒。負荷次第で短縮します』

「十分だ」


 ガタは外周制御盤の後方で、三枚目のカバーを抱えていた。装着は却下したはずだ。


「それは置け」

『持っているだけです』

「装着する気だろ」

『状況が悪化した場合、文化として採用します』

『二重で十分です。三枚目は視界低下が大きすぎます』

『ノアまで反対ですか』

「全員反対だ」


 ガタは三枚目のカバーを、しぶしぶ工具箱の横に置いた。


[OUTER GRID TEST]

――――――――――

COMM TOWER:LOW LINK

NE RELAY:LOW LINK

SOUTH CONTROL:ENV LOG REF

UNDERGROUND TRUNK:BUFFERED

GRAY GARDEN OUTER RIM:SEGMENT READY

――――――――――


 レンは遮断レバーに左手を置いた。右手は端末の実行キーにある。灰色の庭は白く静まり、外周に引いた三メートル区画が、粉塵の下で眠っている。


「始める」

『外縁グリッド、部分リング起動。三、二、一』


 最初に鳴ったのは、通信塔側だった。


 遠くの塔から低い振動が返り、北東中継塔の方へ細く流れる。次に、南側旧管制施設のログ参照が開いた。地下幹線が一度だけ揺れ、仮バイパス端末が青く強くなる。


 最後に、灰色の庭が反応した。


 白い粉塵が、一斉には動かない。外周の区画ごとに、細く浮き、静かに沈む。三メートル、三メートル、三メートル。切れた帯が少しずつつながり、庭の外周に灰色の地表が現れていく。


『一番から五番、安定。六番から八番、低固定。九番、反応遅延』

「九番、切るか」

『待機。南側ログ補正を入れます』


 灰色繊維が、きし、と鳴った。


 レンの指がレバーに沈む。ガタのライトが細くなる。だが、粉は立たない。南側旧管制施設のログ波形が補助表示に重なり、九番区画の青が細く落ちる。


 粉塵は、ゆっくり沈んだ。


『九番、安定。外周二十七メートル、低固定』

『吐きません。今日は吐きません』

「まだ終わってない」


 レンは息を止めたまま、地図を見た。


 通信塔、北東中継塔、旧管制施設、地下幹線、灰色の庭外周。五つの点が低い青でつながり、輪になった。完全な円ではない。欠けた場所も多い。だが、戻り線がある。片道ではない。


[OUTER GRID PARTIAL RING]

――――――――――

STATUS:LOW POWER

RING:PARTIAL

DURATION:09.6 SEC

DUST REVERSAL:NONE

――――――――――


「輪になった」


『はい。外縁グリッド、部分リング成立』


 その瞬間、灰色の庭の奥で、粉塵が広く沈んだ。


 外周だけではない。庭の内側へ、扇形に白い膜が薄くなる。灰色繊維の根元が何本も見えた。床面の古い番号。割れた誘導路。さらに奥で、黒い支柱のような影が一瞬だけ立つ。


 レンは画面ではなく、庭を見た。


「奥に何かある」

『大型構造影を検出。距離不明。名称断片、取得中』


 表示が乱れる。外縁グリッドの青い輪が、細く震えた。仮バイパス端末が赤に寄る。


『負荷上昇。保持限界まで三秒』

「読めるだけ読め」

『読んでいます』


 黒い構造影の上に、欠けた文字が走った。


[STRUCTURE FRAGMENT]

――――――――――

...ENVIRONMENT CONTROL...

...OUTER MANAGEMENT...

...ORBITAL BASE...

NAME:UNCONFIRMED

――――――――――


「環境制御……外縁管理……軌道基部」


『名称未確定です。断片のみ』


 庭の奥の影が、粉塵に飲まれ始めた。白い膜が戻る。輪の表示が細くなり、通信塔側の青が落ちる。


『保持限界。落とします』

「落とせ」


 ノアが出力を落とした。通信塔、北東中継塔、旧管制施設、地下幹線、灰色の庭外周。青い点が順に暗くなる。最後に仮バイパス端末が低く鳴り、元の弱い光へ戻った。


 庭はまた白くなった。


 灰色繊維は動かない。粉塵も噴かない。ガタのセンサーも白くない。


 レンは、手動レバーから指を離した。


『外縁グリッド停止。損傷なし。逆流なし』

『センサー汚染なし。非常に重要です』

「今日は重要でいい」


 ガタのライトが少し上がった。


『認められました』


 レンは端末に保存されたログを見た。十秒にも満たない輪。欠けた大型構造影。未確定の名称断片。通信にはまだ遠い。それでも、外縁は片道ではなくなった。


 点が、輪になった。


「ノア、次はこの輪をもう一度出す」

『はい。部分リングの再現性確認が必要です』

「それから、あの構造影」

『環境制御中枢、外縁管理核、軌道連絡基部。いずれかの可能性があります。確定には追加ログが必要です』


 ガタが工具箱の横に置いた三枚目のカバーを見た。


『大型構造影が出た場合、三枚目は』

「いらない」

『まだ何も』

「いらない」

『強い否定です』


 レンは短く笑った。すぐに、灰色の庭へ視線を戻す。


 白い粉塵の下に、さっきの輪が隠れている。奥の影も見えない。だが、記録には残った。十秒に満たなくても、外縁はつながった。


 レンは端末を閉じなかった。


 もう一度、部分リングのログを開く。


[OUTER GRID PARTIAL RING]

――――――――――

COMM TOWER / NE RELAY / SOUTH CONTROL / UNDERGROUND TRUNK / GRAY GARDEN

LOW POWER RING:ESTABLISHED

NEXT:STABILITY TEST

――――――――――


 その表示を見て、レンはゆっくり息を吐いた。


「ここから先が、本体だな」

『はい。外縁は入口です』

『入口でこれなら、奥は嫌です』

「だろうな」


 風が吹き、外縁灯が低く鳴った。


 灰色の庭はまた静かになった。けれど、もう前と同じ静けさではない。


 白い粉の下に、輪がある。

 その奥に、まだ名前のない大きな影がある。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ