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忘れもの

男が玄関を開けると、傘が届いていた。


「......?

ああ!そういえば忘れてたわ!

昨日の帰りは晴れだったからな〜

それにしても一体誰が...?」


男は辺りを素早く見渡す

...が、そこには誰もいない。


「親切なヤツも居るって事か...?

まあ、色々気を付けないとな」


男は静かに、玄関のドアを閉めた。



———翌日


今朝は、色のついた手拭いが届いていた。


「ああ...しまった!大事なもん忘れてたわ!

これが無いと大変なんだよな〜」


男は再び、辺りを素早く確認する。


「ほんと、一体誰が持って来てるんだ...?

他に誰かが訪ねて来るって訳でもねえし...」


男は少し青ざめながら、しかし同時に、少し表情を和らげながら


「...まあ、大丈夫、か......」


と、ため息混じりに呟き、そっとドアを閉めた。



———更に翌日


今度は、靴下が一足届いていた。


「ウソだろ!?

こんな大事なもんまで忘れてたのか俺!?

...参ったな〜、最近、気緩み過ぎか?

これが無きゃ、今日から外歩けねえだろ」


一旦顔の前に靴下を近づけた後、男は慌てて、ズボンのポケットに靴下をしまい込む。


「...クソッ!!誰がこんな真似...!

見張られてるみてえで気味わりぃ...!

...まあ、特に何かを要求された訳でもねえけどよ...」


赤から青へと、その顔色を目まぐるしく変化させながらも、男は静かに、ドアを閉めた。



———そして


色の付いた鋸が届いていた。

少し刃こぼれした、真っ赤な色がこびり付いた...男にとって見覚えのある鋸が。


「...忘れてねえ...忘れた訳じゃねえよ......!」


男の身体が小刻みに震え出す。


「捨てて来たんだよっ!!

分かってんだろ、それくらい!?

ふざけた真似しやがって!!

コソコソ隠れてねえで、出てこいよ!!!」


隣の部屋のドアが開き、中から気弱そうな男が現れ


「あ...あの...何かあったんですか...?」


と、怒鳴り散らす男に尋ねた。


「あぁ!?テメエがやったのか!?」


「ひっ、ひぃ!なっ、なんの事ですか!?」


問い詰められ、怯えてそう言った瞬間、気弱な男の目に、異様な鋸が飛び込んで来た。


「...そっ、そっ、それってまさか...っ!!」


「...あぁ?ああ、すみません。

実は私、役者をやっておりまして、これは練習用に持ち帰った小道具なんです。

役に入り過ぎてしまい、先程は大変なご無礼を......申し訳ありません」


物腰が柔らかく、誠実そうな男の態度に、気弱な男も幾分落ち着いた様子になり


「そ...そうだったんですね...

あはは、そ、そうですよね!!

ごめんなさい、なんか変な匂いもするし、僕...」


と言うと、自称役者の柔らかな表情が少し強張る。


「変な匂い...ですか?」


「ええ、肉か何かが腐ったみたいな...」


「...あ、ああ!実は冷蔵庫が壊れてしまって、食べ物が腐ってしまったんですよ。

...多分、鳥のもも肉じゃないかな。

もう少し、ご迷惑をお掛けすると思います...

申し訳ありません」


「ああ...それは災難でしたね...僕はてっきり...」


「てっきり...?」


気弱そうな男の言葉に、冷蔵庫が壊れたという男の目が一瞬鋭くなった。


「い、いえっ!何でもありません!

...あっ、ぼ、僕、これから用事があるんです!

それでは...!」


「...ああ、そうでしたか。それは失礼致しました。

どうぞお気をつけて」


そう言って二人は別れ、鋸を持ったまま、男は玄関のドアを少し乱暴に閉めた。


「殺すか......いや、流石に隣人はリスクが高いか。

何より...俺の趣味じゃないな」


男は少し自嘲気味に笑いつつ、押し入れに入れてあった、腐りかけの人間の左脚を眺め回す。

脚には靴下と靴が履かせてあった。


「もっと大きい冷蔵庫があれば、長く楽しめるのに......」


男は悔しそうに言った。


「......!そうか...そういう事か...!」


狂気に取り憑かれた様に、男は笑い出す。


「なら、明日は包丁か、右脚...だなぁ...!」


戦利品と共に、男の記憶が次々と鮮明に蘇って行く。


「もっと楽しませてもらうぜ...きひ、きひひひ!」


集(たか)った蛆虫が、男の狂気には目もくれず、脚を食い漁っていた。


これからも、彼らはこの場に集い、宴を繰り広げるのだろう。


...惨劇は始まったばかりだ。

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