私の家族
私の家族は全員無口だ。
挨拶くらいは、もちろんするんだけど、食事中なんかは会話が全然無い。
...と言っても、最近は全員揃って食卓を囲む事すら全くないのだが。
でも私としては、こういう距離が一番有難くて、安心出来るんだけどね。
ほら、「今日、学校どうだった?」なんて聞かれても、普通としか答えらんないじゃん?
根掘り葉掘り聞かれるのも面倒臭いし...
それなのに......
なんだか今日は、家族と会話する機会が妙に多い気がする。
特に多かったのは、私のたった一人のお兄ちゃんだ。
「勉強で分からない所ないか?」とか、
「学校でイジメられてないか?」とか、
そんな極普通で、ありきたりな事ばかり聞いてくるの。
...まあ、お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに、私の事を大事にして、可愛がってくれてるみたいだしな。
こうやって心配されるのも、妹の勤めと思っておこう!
...って、最初はそんな風に考えてたんだけど...
なんというか妙にしつこい。
仕舞いには、普段全くと言って良いほど干渉して来なかった、両親までもがそこに加わり、私の心配合戦の様になっていき...そして......
「お前の育て方が悪かったから!!」
「私はちゃんとやったわよ!悪いのは貴方でしょ!?」
「止めろよ二人とも!みっともない!!」
といった、怒号へと変わって行く。
堪らず、私は自分の部屋へ避難した。
うちは安心出来るって思ってたのに...
なんだか心がソワソワして、その日の夜はあまり眠れなかった。
翌日も、私が学校から帰ったら、同じ様な喧嘩が始まった。
今日は電話が頻繁に掛かって来てるが、誰も出ようとしない。
私は耳を塞いで、自室に駆け込む。
...ああ、ここだけだ。
私の居場所は......
少しずつ、気持ちが落ち着いて来て、その夜はすぐに眠りに就いた。
...が。
...えっ?なに...?
誰かに、見られてる...?
......!!
目を開けると、そこには私を見下ろす家族皆の姿があった。
虚な、それでいて悲しそうな目で、こちらをじっと見つめている。
「な...なにしてんの!?
頭おかしいんじゃない!?
早く部屋から出てってよ!!」
私は絶叫して、無我夢中で、手当たり次第 物を投げまくる。
...気付くと、お兄ちゃん達は部屋から立ち去っていて、散乱した部屋には、耳鳴りのする様な静けさだけが残った。
心臓がドキドキする。
...なんだったの一体...?
目が冴えて殆ど眠れず、寝ついたと思っても、すぐに目が覚めてしまう。
半起半寝みたいな状態で長い夜を終え、私は朝を迎えた。
...あんまり、お兄ちゃん達と会いたくないな。
どんよりと緊張が混ざった気分だったが…
「おはよう」
...えっ?
「おっ、おは...よう」
昨夜の件が嘘の様に、普通に挨拶して来た。
しかも、いつも通りの無口な家族に戻ってもいた。
なっ...なんだったんだ一体...?
...まあ、ちょっと不気味ではあるけど、これで一安心...かな?
相変わらず電話が鳴っている。
今日はインターホンも鳴っていた。
誰なんだろう、こんな朝早くから。
うーん、でも誰も出る気配無いし、私は電話とか苦手だし、居留守でいっか。
気にせず朝食を食べ、学校に行く支度をする。
「行って来まーす!」
「行ってらっしゃい」
お兄ちゃん達の返事を聞きながら、私は扉を開け外に出た。
誰かがこっちに近付いて来る。
「君、ここの家の子だよね?
ご両親はどうしたのかな?」
...はっ?警察......?
なんで...
「実は異臭がするって近所から通報があってね」
「えっ...あ、そっ、その...」
しどろもどろになりながら、私の中で一つ、そしてまた一つと、何かがはまって行くのを感じる。
お父さんのゴルフクラブ、
お兄ちゃんのバット。
何度も何度も何度も。
最初は中々割れなかった。
でも、同じ所を何度も...
そしたら中身が砕けたんだ。
煩かったお母さんも、
そして......妹も。
身体中がべっとりして、
残骸も部屋中に飛び散って、
鉄の匂いが充満してた。
...ああ、だから皆で私を見てたんだ。
砕ける時と同じ様な表情で。
「...あっ、ああ、はい。
今両親を呼んで来ますね」
私は警察の人に一礼し、台所へと向かい包丁を手に取る。
そして、家族が揃ったリビングで、首筋に刃を当てた。
楽しかった日の、夢を見ながら。




