プロローグ 出逢い×出逢い
魔法。
それがフィクションでなくなったのは昔の話。
オカルトなんてありえないと思われていた時代。
ただ一人。
オカルトを容認した科学者が居た。
その科学者は人の生命エネルギー――『気』と空気中に漂うエネルギー体――『マナ』の発見をした。
世界はオカルトを認め、科学者に莫大な金と研究所をやった。
科学者は莫大な資金で海に土地を作り自分の街――科学都市を作り上げ、科学的にオカルトの研究に没頭した。
その『過程』で科学を進歩させ、科学で『魔法』を作り上げ、魔法を使う為に必要な道具を世界中に輸出していた。
技術は教えない。
そんな秘匿主義の科学都市で、ある特殊な少年を巻き込んだ事件が科学都市で起こる為の出逢いが裏路地で始まっていた。
―――――――――
産まれてから昨日までの一番衝撃的な出来事とは一体なんだろう?
自分が超能力者だと知った時?
魔法科学を作り上げたのがここ、科学都市だと知った時?
超能力の所為で魔法が使えないと知った時?
友達が実は超能力者だと知った時?
先生と生徒の逢い引きを見てしまった時?
世界で一番科学が進んでいるのが科学都市だと知った時?
色々あるが、今までの人生の中ならば答えは決まっている。
「何で空から女の子が降ってくんだよォォォォ!!」
八雲刻哉 (やくもときや) は桃色が混じった不思議な銀髪少女を抱えながら絶叫した。
いつもの学校の帰り道である裏路地を歩いていた八雲刻哉の頭上から女の子が降ってきたのだ。
咄嗟に刻哉の能力で受け止めたお陰で少女は怪我をしなくて済んだ。
刻哉は一連の出来事を思い出してから呟く。
「ありえねえ……」
一般にお姫様だっこと呼ばれる恥ずかしし事をしているのだが、刻哉にはそんな事を考えている余裕がなかった。
不思議銀髪少女は、気が緩んだのか刻哉が受け止めた時に相当の衝撃があったのか気絶しているようだった。
意味不明のミステリーだった。
そもそも真上から何かが降ってくるというのも珍しいのに女の子が降ってきたのだ。
植木鉢とかに抑えて欲しかった。
刻哉は空を見上げる。
空から降ってきたなどと言ったが、そんな事はありえないだろう。
魔法を発動させる為に必要不可欠なMSが無いのだから。
魔法を使えないが刻哉はMSを持っている。
横幅五センチ程のゴツいリストバンドみたいな物だ。
MS――人間の生命エネルギー『気』をエネルギー源として魔法を発動させる物である。
MSも無い少女が降ってきたのはビルからだろうと予想する。
二十メートル程の高さのビル。
――飛び降り自殺?
ふと湧いた想像にゾッとした。
多分、遊んでて落ちただけ、そう。
自分を落ち着かせる為に深呼吸をする。
あそこのビルの屋上には誰でも行ける。
花を植える為にだ。
屋上に緑を植えて地球温暖化防止する為なのだとか。
「……にしてもどうしよう?」
勿論、この高校一年生の刻哉と同じ歳か一つ下かくらいの少女の事である。
色白のスベスベした柔らかい肌に、可愛らしい顔。
今は光の加減からか桃色に見える絹のような髪を腰まで伸ばしている。
大きく、くりくりした可愛らしい碧眼……だった筈 (今は気絶している) 。
小さな口、小さな顔、小さな胸。
「あ~。まあ、残念って事で」
なんとなく気絶している女の子を家に連れて行くのは憚られる。
と言っても、裏路地に置いていく訳にも行かないし、警察に預けるのも酷な気がする。
起きたら警察でした何てご遠慮願いたいだろう。
家に連れて行くしかないのだろうか。
――――――――
刻哉の家は二階建てのアパートだった。
しかも、絶滅危惧種 (動物ではないが) に認定されても良さそうな古い木造アパートだ。
古風な物が大好きな刻哉としては気に入っているアパートである。
刻哉の部屋は205号室。
門をくぐる前に門に付いているパネル――iceに腕を付ける。
腕に入れられているICの読み込みが終わり、ピピッ、という音が鳴る。
刻哉の個人情報が全てこのICに入っているのだ。
この作業をしないと管理人室までしか進めないのだ。
理由はドアが閉まっているという単純な理由なのだが。
刻哉は女の子をおぶりながら管理人室を通り過ぎようとした時、
「ちょっと! 八雲君?」
女の人の声がした。
管理人室には窓口 (マジックミラーで作られている) という物があり、向こうからこちらは丸見えなのだ。
管理人室のドアが開いて女の人が出てくる。
名前は桜井響子。
歳は二十三。
彼氏居ない歴二十三年の女だ。
不細工ではなく、逆に綺麗な部類に入るのだが、酒癖が悪い所為で彼氏が出来ないらしい。
(スタイルも良いのになぁ)
ぼんやりとそんな事を考える。
桜井響子が恐る恐る言う。
「その女の子って……酔わせたんじゃあ……」
「酔わせたって何だよ!?」
「違法よ?」
「何ッッでそっち方面に行くんだアンタはァ! この子は落ちてきたの!!」
「? 落ちてきた? う~ん。今まさにテレビでやっていたゲーム脳何じゃ……」
手を顎に当てて唸る桜井響子にホントだって! そう叫びたかったが止めた。
刻哉だって「女の子が落ちてきたんだよ!」と言われれば、「え? 何何? 浮遊出来る石を持った少女でも落ちてきたの?」と冗談混じりで返すだろう。
信じられないって悲しい。
そんな事を思いながら、部屋へ歩き出し――。
「その子外国人だけど頑張ってねえ!」
声援が聞こえた。
――外国人?
――日本語が通じない?
だくだくと嫌な汗が頬を伝う。
「…………」
何とかなるよな……。
希望的観測を抱きつつ我が家に帰るのだった。
――――――――
八畳一間。
それが彼に与えられたスペースだった。
そんなスペースを見るだけで彼の『古風な物が大好き』な性格が伺え知れる。
畳に卓袱台。
本棚に入れられている時代小説に歴史小説 (勿論、漫画も入っている) 。
刻哉は少女を一旦畳の上に寝かせて、押し入れから布団を取り出し、敷く。
少女を布団に寝かせて戸棚に入っている幸運を呼ぶ壺に言う。
「テメエは五千円もしたんだぞ? 何で不幸を呼んでくるんだよ!?」
幸運の壺が「次からは頑張ります」と言った気がした。
刻哉は高校入学時に買った電子辞書を卓袱台にセットする。
何時起きるか見逃さないようにじーっと見る。
三分もすると集中が途切れ、
(外国人ってもっとゴツいイメージがあったけど、この子は柔らかかったな……)
とか、
(そういや甘い良い匂いがしたなぁ)
とか、
(叩き起こしてやろうか?)
とか、
(今の内に管理人さんにでも預けよっかなあ)
とか、考えてしまう。
そして十分後、とうとう少女から目を離し時代小説を読むに至った。
「………………」
少女がきょとんとした顔で部屋中見回している事も知らずに刻哉は時代小説を読み耽るのだった。




