第1話:【イレギュラー・プラグ】 〜ヒーローが敗北した世界で〜
脳内を、かつてないほど凶悪な警告音が引き裂いた。
【緊急警告:適合者の最愛作品『鋼鉄の復讐者・ガイアード』にて、深刻な世界線改ざん(バグ)を検知。第4話にて、主役ヒーロー・流星の永久死亡が確定しました】
「……は? ガイアードが、死ぬ……?」
ベッドから跳ね起き、スマホの画面を凝視する。
『鋼鉄の復讐者・ガイアード』。それは、かつてのレトロ特撮ヒーローへのリスペクトをこれでもかと詰め込んだ、泥臭くも熱い、俺のバイブルとも言えるダークヒーロー漫画だ。
主人公の流星が、己の肉体をサイボーグに変えられながらも、孤独に悪の組織と戦う王道のストーリー。
本来、第4話は流星が新必殺技に目覚め、敵の怪人をギリギリで撃破する屈指の熱いエピソードのはずだった。
なのに、スマホの画面に映る最新ページは、無残に破れ、血に染まっていた。
そこには、怪人どころか、中盤以降に登場するはずの最強の幹部――『鉄血の将軍・バルバロッサ』が、なぜか第4話の時点で降臨し、変身の解けた流星の胸をその巨大な大剣で貫いている絶望の光景が描かれていた。
「バカな……! なんでバルバロッサが1巻の時点で出てきてるんだよ! プロットがめちゃくちゃだ!」
【システム:世界線のひとり歩きに伴う、悪意の『先取り(チート)』です。バルバロッサは本来のタイムラインを無視し、主人公が覚醒する前に圧殺を試みています。干渉しますか?】
「あたりめえだろ! 4話で死んでいいヒーローなんて、世界のどこを探したっていねえんだよ!」
俺は引き出しから、あの夜煙の奇跡を起こしたライターを引っ掴んだ。
前回の『敷島さん』の時は、地味ながらも大人の包容力を持つ肉体と同調できた。だが今回は、一撃でコンクリートが粉砕される特撮の戦場だ。ただの読者である俺が、自分の生身の身体で飛び込めば、文字通り消し炭にされる。
【警告:当該世界における干渉者の生存確率は0.02%です。死亡した場合、現実のあなたも100%脳死します】
「関係ねえ。俺がどれだけあのヒーローの、孤独な背中に救われてきたと思ってんだ。今度は、俺がアイツを救う番だ!」
俺はライターを強く握りしめ、カチリと火花を爆ぜさせた。
「プロット・ドライブ、起動!!」
【――承認。第4話『鋼鉄の落日』へ、第三のイレギュラーとして強制介入します】
視界が激しい火花のような光に包まれる。
次の瞬間、俺の耳を襲ったのは、鼓膜を震わせる爆音と、むせ返るような硝煙の臭いだった。
「がはっ……、あ、あいつは……まだ、1巻の怪人じゃ……ねえ……!」
廃工場のコンクリートの床に、血まみれで倒れ伏している一人の青年がいた。ボロボロになった革ジャン。剥き出しになった機械の関節から、パチパチと青い火花が散っている。
間違いなく、俺のヒーロー――流星だ。
そしてその視線の先。
煙の中からゆっくりと姿を現したのは、禍々しい赤い鎧をまとった巨躯。原作第20話で流星を限界まで追い詰めるはずの最強幹部、バルバロッサだった。
「ふん、未来で我が大業を阻む『ガイアード』とやら。目覚める前に潰しておけば、他愛もないな」
バルバロッサが、その巨大な大剣をゆっくりと振り上げる。流星にはもう、変身するエネルギーすら残されていない。原作の保護を失った世界で、今、まさに正義の命が断たれようとしていた。
「やめろぉぉぉっ!!」
俺は叫びながら、物陰からバルバロッサと流星の間に飛び出していた。
手元にあるのは、現実世界から持ち込んだ、鈍く光るいつものライターだけ。
「……ぬ? なんだ、その虫ケラは。この世界の人間ではないな?」
バルバロッサの冷徹な眼光が、生身の俺を射抜く。その圧倒的なプレッシャーだけで、心臓が破裂しそうだ。ガタガタと足が震える。
だが、背後で息も絶え絶えの流星が、信じられないものを見る目で俺を睨んだ。
「お前……誰だ、バカ野郎! 逃げろ……そいつは、人間が敵う相手じゃ――」
「うるせえ、ヒーロー!」
俺は流星を振り返らず、バルバロッサに向けてライターを構えた。
「お前の弱点なら、何百回も読み込んで、全部頭に入ってんだよ! システム、プロット書き換え申請! このライターの火花を――ガイアードの予備エネルギー(ブースター)へ【具現化】しろ!!」
(つづく)




